修練2

「……お前、絡まれすぎだろ」


毎度毎度絡まれていて、正直めんどくさく感じていたギルは、ついついセビアに小言を言ってしまう。もちろん彼女に悪気はないのは理屈では分かっている。悪いのは相手だ。しかし相手がいない今、言う相手はセビアしかいない。よって小言を言ってしまうのは仕方がないのだ。と、彼は己の行動を内心で正当化していた。


「す、すみません……あの、何であんなところにいたんですか?」


自分は何も悪くないのにどうしてか謝ってしまうのは、ギルが怖いからなのだろうか? 否、いじめられっ子であるが故のさがなのだろう。


「お前が絡まれてたからだ。避ける術くらい身につけておけ」


「ほんとすみません……ところで絡まれてるってどうして分かったんですか?」


見てもいないはずなのに、自分の状況をよく知っているギルにセビアは疑問をもつ。やっぱり同期シンクの魔術でも掛けられているのでは? と疑ってしまうものだ。


「魔術だ、共有リンクって魔術でな。まあなんだ、お前の視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の全部を共有してたんだよ」


ギルの言葉にまずは『そんな魔術があるのか』という感心を覚える。しかし段々とギルの言葉に違和感を覚え……


「え……? そしたらお手洗いとかお風呂なんかも……」


「ああ、もちろん共有してる」


数瞬の迷いもなくギルはセビアの質問に答えた。

 知らぬが仏、とはまさにこの事だろう。知りたくなかった事実を知ってしまったセビアは羞恥で顔を火が出るのではないか? と言うほどに赤面させ……


「……っ! 最低ですっ! 何当然のように言ってるんですか!?」


自分がこんなふうになった元凶であるギルに全力で怒鳴る。しかし、やはり羞恥の方が大きいのだろう。その声にはまるで覇気がなかった。


「仕方ないだろ? そういう魔術なんだから。それに安心してくれ、お前は俺の守備範囲外だ。ロリに興味はない」


「そう言う問題じゃなーーって誰がロリですか!? いいから早く解いて下さい! 今すぐ解いて!」


「仕方ない……ほら、解いたぞ」


大人しく共有リンクの魔術を解く。


「……もう解いたんですよね……?」


勝手に魔術をかけられて、しかもロリと罵られた相手をすぐに信用する事はできるわけもなく……セビアは未だギルに疑ってかかる。


「ああ、もう共有リンクはかけてない」


「はぁ……分かりました、取り乱してすみません……それじゃ魔術について教えてもらえますか?」


まだ少し違和感が残っているがここでうだうだ言ってても仕方がない。というかあまりにもうだうだ言っていると、ギルの機嫌を損ねて、魔術そのものを教えてもらえなくなってしまいかねない、と冷静な判断を下し、さっさと魔術を教えてもらうことにした。


「まずは昨日の質問の答えを聞かないとな」


どうやらまだ機嫌は損ねていないらしい。ギルも教えてくれる気満々であり、セビアは少しだけ安心した。


「魔術を使う上で大切なのことは……想像力ですか?」


先程、リーフに教えてもらった言葉を発する。これでダメだったらもうお手上げだ。セビアは当たっていますように、と願っていた。


「正解だ。それならそうだな……まずはあの木に向かって第一位階炎魔術を使ってみろ。今まで通りにな」


どうやら正解だったらしい。ギルは少しだけ表情を緩める。どことなしか嬉しそうだ。


「は、はい! 火球ファイヤー・ボール!」


セビアが展開した魔術陣から炎が飛び出し一直線に目の前にある木へと向かっていく。かかった時間はおよそ6秒ほどだ。


「やっぱり実践運用には程遠いな」


発動まで5秒も6秒もかかっていては発動の合間に攻撃されるのが関の山だ。第一位階でこれならば第二位階以降だともっとかかるだろう。今のままでは魔術自体がとても実践で使えたものではない。


「そりゃそうですよ、第一位階魔術は基礎を学ぶためのものなんですから、威力もあまりなく安全に練習できる、そのために開発された魔術ですよ?」


「残念、それもハズレだ。第一位階魔術とはいっても本来は十分に実践でも使えるぞ。こんな風にな」


ギルは瞬時に魔術陣を展開して火球ファイヤー・ボールを放つ。


「ほらな?」


ギルが放った魔術は目の前にあった木を容易く貫通し薙ぎ倒した。


「凄い威力……それもあんなに早く……」


風呂やトイレを魔術で除くような輩でもやはり魔術の扱いに関しては見張るべきものがある。セビアの中でギルは変態から魔術師にクラスアップしたらしい。


「さあ、まずは最初の課題だ。さっきみたいに第一位階炎魔術で……いや、この際何でもいい、とにかく第一位階魔術でこの森にある木を一本薙ぎ倒してみろ。頑張れよ、俺は魔物狩りに行ってくる」


やるべきことのみを伝え、さっさと立ち去ろうとする。


「え? ちょっ! 見てくれるんじゃないんですか!?」


「大丈夫だ、お前なら一人でもできる。こう見えて結構お前の実力は買ってるんだ、やれるな?」


「ーーはい!」


ギルの言葉にセビアは元気よく返事をして魔術の訓練を始めた。


(ちょろいな)


ちなみに先程ギルが発した言葉は全て心にも無いことである。彼の心にあったのはただ一つ、面倒くさいという感情だけだった。

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