第16話 転生者の願い
了解しました、リョーコさん。
やはりあなたも転生者だったんですね。
貴方の意思を次いで、俺が必ずマリアを治してみせますよ。
俺はマリアにこれらの内容を話してきかせ、旅をしながら七つの聖泉巡りをすることにした。だが、地図を見ると広範囲に散らばっている。
おそらく全部巡るのには1年以上かかるだろう。
かつ、旅の金も工面しないとならないため、行商をしながらなので、さらに日数はかかるだろう。
「ぶふっ!ぶふん!」見ると手を握り締めてるマリア。
おお、やる気だな。
マリアの服、例の日記、使えそうな道具や本それらをアイテムボックスに詰めるだけ詰め込んで出発だ。マリアもリョーコさんの想い出の品をいくつか持ってきている。
たぶんもうここには戻ってこないだろうと感じているか、マリアは最後その部屋に向かって、深くお辞儀をしていた。
俺たちは手を繋いで、その家を後にした。
一か月後、リョーコさんが一番始めに来たと日記に書いてある泉に着いた。「藍の聖泉」だ。
半ば観光地化してるのか昼間のうちはそこそこ人がいた。
なので誰もいなくなる夜を待つ。
魔物の気配もない。
俺はマリアに合図した。
すぐに全裸になったマリアが静かにその泉に身を浸した。
まあ今では一緒に風呂に入っているから見てても問題は無いが。
数分くらいの後に、その泉全体が白く発光するのが分かった。
マリアの身体全体を覆っている。
当のマリアは目を閉じ手を併せて一心に祈っている。
やがて目を開けてられないような輝きが収まった時に、泉の中央に見慣れない少女がいた。
「・・マリアなのか」
「・・は・・い・・」
今までは120cmくらい、全身緑色で猫背で、ところどころむくみや出来物があった身体はいまは150cmほどになり、全体的に白くなっている。だが顔はオークとまではいかないが、まだ醜いままだ。
髪の毛もまだ生えてない。
確かにまだ身体中にあざやこぶはあるが、間違いなく人間だ。
まあまだ綺麗とは程遠いが・・。
でもよほどうれしかったのか、泣きながら俺に抱き着いてきた。
「まあ一つ目だから、こんなもんだろう。あと6個の泉に行くぞ!」
・・リョーコさん、あなたの解決策は正しかったよ。
まだ先は長いが、必ずマリアを元に戻してみせる!
その後も二人で行商をしながらの旅を続けた。
マリアも少しずつだが言葉もしゃべれるようになっている。
「・・ごしゅ・・じん・・さま・・ごはん・・できた」
どういうわけかマリアは俺のことをご主人様と呼ぶ。
別に奴隷じゃないんだぞと言ってもきかない。
まあいいか、商人とその弟子みたいな見た目だからな。
まだ顔は、鼻が極端に上に向いていたりしてるので、フードは常にしている。そんな旅を続け、「藍の聖泉」から二か月後、次の泉に着いた。
「橙の聖泉」だ。
ここも人がいなくなった夜を待って、マリアが泉の中に入っていった。
同様に祈りを捧げるマリア。
前回と同様に光が消え去ると、また違ったマリアが現れた。
身長が少し伸び、髪の毛がうっすらと生えている。何より顔の醜さがだいぶなくなってきた。いまでは目立たない娘といったところか。
まだところどころ身体にはあざなんかは残っているが、もう気にならないレベルだ。なにより女っぽくなっている。
不思議そうに自分の身体を見ているマリア。
「・・だいぶ・・あれ・ちゃんと声出てる!話せる!」
おお!がらがら声だがしっかりと聞こえる。
「わああん、ご主人さま~」と言ってまた抱き着いてくるマリア。
う~ん、そろそろ一緒に風呂に入れなくなったきたかも・・。
それから二か月後、三つ目の「赤の聖泉」。
更に変わっていくマリア。
髪の毛は女性として全く問題ない長さになり、身長も155cmくらい。
なにより顔がフードやマスクが不要になった。いまではどこにでもいる普通の娘だ。身体のあざなんかも綺麗に無くなっている。
言葉も全然問題なく、今では商売に関しては俺より饒舌だ。
「これなんか奥さんにプレゼントすると喜ばれますよ!いまならこの櫛もサービスしちゃう!いよ色男!」
「ええ?もう勘弁してよ!もうこれ以上まかんないよ!」
「は~い、いらっしゃ~い。安くしとくよ~」
顔は取り立てて特徴はないが、威勢のよさと愛嬌で、なんだか人気者になってる。もともと明るい性格なんだな、こいつは。
もういまでは、夜中に泣くことはなくなった。
でも今でも寝る時には俺にしがみつくように寝る。
もう普通の娘なんだぞと言っても離れない。
「絶対離れません!」といってる。
う~ん、そろそろ親離れ?してほしいが・・。
マリアのおかげで商売も順調でそこから三か月後に四つ目の泉に着いた。
「黄の聖泉」だ。
裸になって泉に身を沈めるマリア。
祈っている顔も悲壮な感じはなくなり、なにやら希望の色も見えてる。
そして立ち上がったマリア。
水に映る自分の姿に呆然となってる。
「うそ、こんな綺麗に・・」
おう!髪の毛が金色にしかも輝いている。長さも腰まで届いている。
そしてなによりスタイルが美しい。顔も可愛くなってる。
もう全然問題ない。街を歩けば男どもが振り向くレベルだ。
いまでは小さな街では一番の美人だろう。
そして次の「紫の聖泉」でマリアは近隣の都市で一番美しい娘となった。
6番目の「青の聖泉」。
ここでマリアは国中でNO.1の美女になり・・。
最後の「緑の聖泉」で世界一になった。
そして大聖女でもあるマリアは、どこの国にも属さないことが決定された。これも当然だな。
結局俺は、マリアを導いた商人として巨大な商店をまかされることとなった。だが俺は旅が好きだ。ここは後輩の弟子たちに任そう。
もうマリアは問題はない。一人で生きていけるだろう。
俺も魔女のリョーコさんとの約束も果たした。
さてこっそりと旅立つか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
むむ?ここはどこだ?・・ああ自分の家か。
ああそうか、マールとナルモと三人でレベルが上がったお祝いをしてたな。ちょっと飲み過ぎて眠ってしまったようだ。どうやって帰って来たか思いだせないし。なんだかマリアとの長い夢をみていた気がする。
「あ、やっと起きた!」
「もう、飲みすぎだにゃ」
「おお、悪い悪い。久しぶりに飲んだからな」
外はもう明るい。むむ?あれからすっと寝てたのか。
マールが出してくれたぬるめのお湯でひとっ風呂浴びたらだいぶすっきりとしてきた。
よし!今日も頑張って掃除だ!
「あっ、今日はだめだって」とマール。
え?なんで?またどっかの偉い人が来たのか?
「ううん、そうじゃなくて、なんか30階にあり得ない事が起きたんだって。さっき、冒険者ギルトの人が来てそう言ってた。それと起きたら来てくれって」
あり得ない事?なんだそれは。
「わかった、ちょっとギルドで詳しい事聞いてくる」
ギルドに着いたらすぐに呼び止められた。
「お!来たな!まず二階に上がってくれ。例の地下30階の件についてお前の意見が聞きたいそうだ」
「え?俺?でも俺ただの掃除人っすよ」
「ああ、その掃除人に用があるんだよ!ほら、早くいった!」
はあ?なんで?地下30階だぞ、用があるのは上級冒険者だろう?
なんだか腑に落ちないがとにかく二階にある集会場に入って行った。
なんとか一番後ろの席に着いた時、ギルドマスターがダンジョン協会の人と一緒に入ってきた。
「おう全員いるな」とギルドマスター。
「まずはこれまでの事をまとめて話すぞ。掃除人もいるからな」と言って俺の方を見るギルドマスター。
それにつられ前の方に座っている上級者連中も振り返って俺を見る。
おう!こっち見んな、怖いって。
「昨日の夜の事だ。あるパーティが、地下30階のゲートボスを倒し、いよいよ最後のダンジョンボスの部屋に入ろうとしたときに、なんとその部屋から逆に出て来た人間がいたんだ」
なんだと?じゃあそのダンジョンボスは?
「で、突然現れた人間からある事を依頼されたんだ」
はあ?ますます訳がわからないぞ。
「その依頼とは、そこのダンジョンボスの部屋を掃除して欲しいと」
はい?
「まあ当然怪しむわな。だがもうボスは倒した後なんでもういないと言って中を見せて貰ったんだが、本当に誰もいない。聞くとその怪しい人間が一人で倒したと」
「なに?そんなのありえねえ!一人であのミスリルゴーレムをか?」
「俺たち五人でさえあの硬いのに一時間かかるんだぜ!」
「騙されてんじゃないかい?アタイたち舐められてんのよ!」
途端に前にいる強者たちが騒ぎ出した。
今度は隣にいたダンジョン協会の人間が話し出した。
「それと追加の情報だ。さっきそいつがダンジョンのエントランスホールに来たんだ。そして掃除人は一人希望で、その人間の安全は保障すると」
「なんだよそれ、怪しすぎだぜ。おうケンタ行くんじゃねえぞ」
隣に座っている顔見知りの冒険者。
「当然我々も、怪しむさ。でもそいつが被っているフードを取った瞬間信じることにしたんだ」となぜかうっとりとした顔で話し出すダンジョン協会の人間。
誰だ?それは?他の街の有名な冒険者なのか。
「ああ、私も見るまでは信じられなかった。なにしろ初めて見たんだからな。なんとそいつは、ハイエルフだったんだ」
「!!」「うそだ!「なんでこんなところに!」「ヤバイぜ!」
騒然となる集会場。
ハイエルフ。
エルフの中のエルフ。めったに人間とはかかわりあわない。
巧妙に隠された森の中の里に住み、各個人は平均寿命1000年。
普通のエルフと決定的に違うのは極端にとがった耳と背中に小さい羽があること。そしてありえない程の美形。精霊と心をかわし、大自然の中で生きる。そして圧倒的な魔法の力。
「ああ、ハイエルフなら一人でも攻略可能だ・・」
ぼそりと前の方の冒険者がつぶやく。
「しかもハイエルフは嘘はつかないことは知っているな。そいつの狙いは何か分からないが、ここはそれに乗ってやろうと思う」と協会の人間。
「ということで、その依頼の掃除は、掃除人であるケンタに行って貰おうと思う」とギルドマスター。
ああ、そういうことか、やっとわかった、俺が呼ばれた理由が。
「でも俺ひとりじゃ地下30階なんてとても行けませんよ」
「それも問題無い、ここのいるメンバーで25階まで安全にお前を護衛する。そこでそのハイエルフにお前を預ける。そこから先はそいつにまかせることで話しがついてる。どうだ?」
「はあ、それなら大丈夫そうですね。OKっす。了解しました」
「おお頼む!行くのは明日朝だ。昼頃までで25階に着くことが条件だ」
といって今度はその護衛メンバの選出に移っていった。
「ちょっと来てくれケンタ」とギルドマスターに呼ばれた俺。
別室に呼ばれそこで詳細な確認だ。
「奴の狙いはさっぱりわからん。なぜあんな部屋を掃除するんだ?」
「そうですね、掃除が必要だとは思えないすね」
「まあそうだな、俺もそう思う。それにまた秋季のダンジョンに変わるからなあ」
そうだ、あのダンジョンは別名「季節ダンジョン」「四季ダンジョン」とも呼ばれ、季節ごとに中の構造が変わるかなり変わったダンジョンだ。
なので、浅い階ならまだしも、そんな最終階を掃除する必要性が不明だ。
「まあとにかくだ。お前の安全は保障する。25階以降も出来るだけ冒険者を待機させておくからな」
だが俺はまったく心配していない。
おそらくそのハイエルフは、俺のよく知っている奴のはずだ。
俺がこの世界で転生に転生を繰り返して知り合った多くの友人、仲間たち。最近再会した、忍者ルッツガルド、次に大魔法使いミサト、それと昨日の夢に出て来た大聖女マリア。
で次に会うのかお前か、なあモリノ・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます