第15話 魔女の真実
やがて見えて来た木の上にある家。
いや元は家だったのか?としか言えない。下から見ても荒廃がひどい。
入口のドアは既になく、そこまで上がる階段、はしごも無い。
おそらく後から来た冒険者たちが根こそぎ荒らしていったんだろう。
さてどうするか。無駄骨だったな。もう日が暮れかかっている。
仕方がない、いつ崩れるかも知れない木の家だがそこで夜を明かすとするか。そんなことを考えていたらマリアが俺の袖を引っ張っている。
しかも顔は笑顔だ。
え?なんでだ?もうここには何も無いんだぞ。
俺はマリアに引っ張られるまま、歩かされるとすぐに物置らしい建物が見えた。だがここも同じようにドアは外され、部屋の中は乱雑に散らかっている。ここにも何もなさそうだ。
夜を明かすのだったら、ここよりせめて木の上の方がいいだろう。そのことをマリアに言おうとしたら、床のある部分を指差している。
む?なにか落ちているのか?
ガレキやゴミを取り除くと、床が見えてきた。
今度はその床のある部分を指差すマリア。
お?なにやら黒い板のようなものある。
俺はその黒い板の周りも片付けた時、マリアがおもむろにその上に手をかざした。何をしているんだ?
すると少しの間を置き、その横のある床板ががくんと下にさがった。そしてそこには地面の中へ続く真っ暗な階段が。
なに?隠し部屋か?
マリアはしきりにそこを指差している。
なるほど、マリアはこれを教えたかったんだな。
俺はマリアの頭をなでながらそう話した。
途端に嬉しそうに飛びついてくるマリア。
よし、これから地下への探検だ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ランタンの灯りをかかげ、マリアの後に続いて階段をゆっくりと降りて行った。ここはどうやら荒らされてないようだな。
あんな手のひら認証?じゃ誰も入れないぞ。
さすが希代の魔女だ。
やがて階段を50~60段くらい降りただろうか。突き当りにドアが見えた。そこのドアノブをマリアが何回か左右に回していた。
ああ、たぶんそこにもなにか細工があるんだろうな。
そしてやっと開いたドア。
マリアが一歩、足を踏み入れた瞬間、部屋が真昼のように明るくなった。
おお?灯りがつくセンサーなのか?
さっきの入口も手のひら認証だった。
前世の技術そのままだぞ。まさか魔女ってのは・・。
「ぶふう!ぶふう!」とマリア。
おう!なんだか「ようこそ!我が家へ!」と言っているようだ。
なるほどあの木の上の家はカモフラージュか。こっちが本物なんだな。
改めて、明るくなった室内を見てみる。
かなり大きな部屋だ。中央に巨大なテーブルがあり、なにやら実験用の器具のようなものがたくさん置いてある。
壁には一面の収納棚があり、多数の瓶が並べられている。
中は液体、粉末、錠剤が入っている。ラベルが付いてるがさっぱり分からない。別の壁は巨大な黒板?のようで、いろいろなメモが貼ってある。
また部屋の隅には、これまた巨大な釜がある。中になにか入っているようだが、う~ん、怖くて見れない・・。
奥にはキッチン、食事用のテーブルもある。おお!風呂やトイレまでついてる。入ってきた階段脇には別のドアが二つあり、それぞれ寝室と図書室のようだ。ふと見るとマリアがいない。
不思議がっていると、寝室から音がする。
「マリアいるのか?」
「ばう!」といって出てきたマリアを見たらなんと着替えていた。見るとサイズがぴったりだ。
なるほど、ここはマリアの生活空間でもあったんだな。
暖炉があったので、そこに火をつけ食事の準備だ。
マリアはさっきから興奮している。そりゃそうか、何年ぶりかの我が家だもんな。食事の後、マリアから手招きされて図書室に入った。
膨大な本だ。壁には天井まで書棚が並び、床にも本が積み上がっている。隅には小さな物書き机もありそこも本で埋まっている。すべて魔法関連の本のようだ。
マリアが引き出しの中から、一冊の本を取って来て俺に手渡した。
いや本じゃないな、どうやら日記のようだ。
そしてその表紙にはこう書いてあった。
「マリアの呪いの解除について」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少し整理が必要だ。
しかも今日は一日中歩きっぱなしだったんで疲れも残っている。
なので先ほどの日記も含め、詳細な調査は明日だ。
今でも風呂に入れるし、寝室もシーツとか湿ってない。
どんな魔法なんだ?いや技術か?
マリアは以前着ていたのか、今度はパジャマのような服を着てきた。
そしていつものように、俺の腕に抱き付いて寝てるが、今日は穏やかな顔をしている。安心したんだな。やっと。
がちゃがちゃとした音で目覚めた。
たぶん朝なんだろう。地下室だからさっぱり分からない。
でも紅茶のいい香りがしてきた。
なるほどキッチンでマリアが作っているのか。
食事といってもさすがにこの地下室にあるものは食べられないな。持って来たパンなど食べてる。
外が見えないと言ったら、マリアが水を張った置物を持って来た。
そしてしきりに水面を指さしてる。
??よく見ると、その水面にはなんと外の景色が映っている。
なんだと!これは監視カメラか?ありえない!
もうこうなると、魔法なのか前世の技術なのか分からんな。
驚かせられる事ばかりだなここは。
朝食も終わり、いよいよ昨日の日記を読み始めた。
そこにはガルーベリーの街で魔女と恐れられる人間が書いた驚愕の事実が書かれていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
X月X日
まだマリアの呪いの解除方法が分からない。
いろいろな文献を漁っているが、これはというものは無い。
マリアがこんな醜い姿になってしまったのは、すべて私の責任だ。
そのため、懺悔の意味を込めてその全貌をこの日記に残す。
X月X日
もう一度始めから考えてみよう。
マリアを乗せた馬車が、この森の近くで盗賊に襲われていた。
私が駆け付けた時には護衛がすべて倒されていて、その少女が盗賊に攫われそうになっていた。盗賊は10人以上いたようだが、何人いようと私の敵では無い。離れたところから盗賊全員に幻影を見させ、同士討ちをさせるようにして全滅させた。
誰もいなくなったが、その少女は泣き止むことはなかった。そしてまだ幼い少女でありながらありえない美しさを持っていた。
しばらくここを通る乗合馬車を待っていたが、誰も来そうもない。当然のようにここに一人で置いて行くわけにもいかない。
普通の女性の恰好で近づき、話をして私の家まで連れてきた。
X月X日
ありえない。
このマリアが大聖女だなんて!
しかも9歳でありながらこの美しさ。傾国の美女ともいうのだろうか。
ただこれだけは想像できる。
大聖女かつこの美貌。この娘が世に出れば、国中いや世界中が大混乱になることは容易に想像できる。
X月X日
この家にはたまに、魔法の調剤用や普通の食材とかの売買のために何人かの行商人がやってくる。
その日もなじみの商人と、私が作ったポーションと商品の交換について話しをしている際、マリアがひょっこり顔を出した。
商人はマリアを見てしばらく唖然としていたが、その時は何もなく取引を終えた。だが何日か後、その商人が大勢の冒険者を連れてやってきた。何事かとを思う間もなく、その商人の声が響いてきた。
「娘をなんとしても探し出せ。あの魔法使いは殺してもかまわん。領主殿の命令だ。ありえないほどの褒賞が貰えるぞ!」
おお、なんということだ。まさかマリアの美しさがこれほど人を惑わすとは・・。もちろん私は、大人しくするつもりはない。
襲ってきた商人や冒険者全員を得意の妖術で撃退し、しかも違う記憶を植え付けた。すなわち、マリアは美女ではなく、実は醜い娘だと。
また私はガルーベリーの街まで行き、その領主へも同じ記憶を植え付けた。
X月X日
なんとかここには醜い娘しかいないことを、街中へ流布できたが、また何かで明らかになってしまうかもしれない。
私はマリアと相談して、一時的に醜くなる薬を作る事にした。
その薬は、マリアを見る人間にとってごく普通のしかも醜くなる認識阻害を与える効果だけをもつ。
はずだった・・・。
X月X日
おお!神よ!私をお許し下さい!
こんな天使のようなマリアを・・・。
ああ・・・私はなんてことをしてしまったんだ。
調合は完璧だったのに・・。
あれからマリアは泣く事しか出来ない・・。
言葉もしゃべれなくなった・・。
おお!神よ・・・・。
X月X日
それからというもの、私は最優先でマリアの呪いを解く方法を探し出し始めた。呪いと分かったのは、マリアのステータスを見たからだ。
(怨泉の呪い x7)とある。意味が分からない。
私は今一度、その認識阻害の薬を作った時の資料をみてみた。
間違っていないはず・・・。
マンドレイクの葉、金色の樹液、ユニコーンの角の粉末、完全水、ハシバミの実7個・・。
もう一回作ってみよう。まったく同じ材料では無いがちゃんと出来てる。
迷い込んだ小さな猫型の魔物に試しても問題無かった。しかも数日でも元通りにもなった。
ちょっと待って・・、いままで気にも留めてなかったこの記述。
(怨泉の呪い x7)、この数字って何?
ハシバミの実も7個だ。ハシバミは別名ヘーゼルナッツとも呼ばれていてそんなに入手困難な素材ではない。
でもたしかこれを採取したのは、あの湖のそばの・・。
え?・・まさか・・・。
X月X日
原因が分かった。やはり私の調合ミスだ。
このガルーの森の中央にある「紫精の湖」。
この湖の近くの土壌にはある変わった成分がある。
ごくまれにだが、瘴気を含んでいるのだ。
瘴気とは山、川、湖などの場所に存在する悪気や毒気の総称だ。マリアの薬で全部使用していたのでまた採取をし、検査したら特にこの瘴気が濃かったことが分かった。
ただこの瘴気を大量に含んだハシバミの実が、どのような作用でマリアをあんなおぞましい姿にしたことは分からない。
ただ、解決方法はある。
瘴気を浄化することが出来る「聖泉」を身体に浴びせることが出来ればおそらく呪いが解けると思われる。・・はずだが自信はない。
X月X日
世界に点在する「聖泉」の場所を調べ上げた。
なんと七カ所あるようだ。
それぞれに色の名前が付けられている。
「赤の聖泉」「橙の聖泉」「黄の聖泉」「緑の聖泉」「青の聖泉」
「藍の聖泉」そして「紫の聖泉」の七つ。そうだ虹の七色だ。
私はこの森に比較的近い場所にある「藍の聖泉」まで旅をすることにした。私の術を使っても往復で半月ほどかかる。
マリアのために十分な食料や水の確保。
また、誰にもこの森へ侵入させないように、恐怖の森という印象を付近の街や村へ与えた。凶悪な魔物の存在もほのめかして。
問題無く「藍の聖泉」まで辿り着いた私は、サンプルのためにその泉の水を持ち帰った。
X月X日
やった!やった!うまくいった!
サンプルで持ち帰った聖泉を、おそるおそるマリアの指につけてみた。
するとどうだ。元の白い指に戻ったではないか!
これで証明できた。後はマリア本人をその泉まで連れて行き、全身にその
聖泉を浴びさせれば良い。
たが新たな問題も出てきた。マリアの指はもっと美しかったはずだ。
確かに白くはなったが、まだ無骨さとかは無くならない。
重ねて聖泉をつけても変化はない。
・・そうか、そうなのか・・。
ステータスにある表記(怨泉の呪い x7)。
おお!七つの聖泉すべてが必要なんだ!
おそらくそうだろう。
よしマリアを連れて七つの聖泉を巡る旅に出よう。
X月X日
この日記の裏表紙に、七色の聖泉の場所を記した地図をつけた。
しばらくこの快適な森の家とも離れる事になる。
今、横ではマリアが嬉しそうに旅支度をしている。
もうすぐだ。もうすぐあの天使の笑顔が戻ってくるんだ!
X月X日
・・よほど浮かれていたんだろう・・冒険者風情にこんな傷まで負わされてしまった・・あはは・・もう年だな・・100年近く生きてきたからな・・もうマリア以外思い残すことはない・・。
最後にこの日記を隠そう。マリアもちゃんと隠れただろうか?
・・意識が薄れていくのがわかる・・。
願わくばこの日記を読む見知らぬ人間よ・・。
最後の願いだ・・マリアに再び笑顔を戻して欲しい・・。
愛するマリアをどうか・・・。
リョーコ・タジマ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます