第14話 本当の・・

あの祭りのあった街を離れて、ここは街道沿いの休憩スペース。

街や都市を結ぶメイン街道にはときおりこんな広場がある。

街道と同じように、微力な結界で守られていて魔物とかを寄せ付けないようになっている。と言っても強い魔物には効かないが。


野営用に地面が平らに慣らされていて、近くに小川も流れている。周りにも食事休憩やら、馬を休ませたりもしている人間もちらほら見える。


俺はなんとか火を起こして、食事の準備だ。鍋を火にかけスープを作っている。そして目の前には、あの見世物小屋にいたオーク娘が座っている。



「おいおい、あれはここの看板の出し物だ。そんな金額じゃ釣り合わねえぜ、旦那」

俺はなんとかあの娘を助けようと、現在買取交渉をしている。相手はここの興行主だという、うさんくさいオヤジだ。

「こんな隅で、見世物にしてるのにか?いいところ、この金額だろう」

それでも値をあまり下げようとしない興行主。


実はこういった見世物は、販売も兼ねていることが多い。

買い取りを希望する客も多いためだ。

しばらくお互い押し問答を続けていたが埒が明かない。

仕方がない。少し脅してみるか。

「なあ、言いたかないんだがこいつは奴隷じゃないだろ?」

「く!変な言いがかりつけんじゃねえ!」

「そうかい?俺にはこいつの奴隷首輪はどう見ても手作りにしか見えねえ。あんたが作ったんじゃねえのかい?」


魔物や動物の場合は制限は無いが、人間だとこういった見世物や販売は奴隷に限られている。今、この娘には奴隷であることを証明する奴隷首輪が付いているがどうにも魔力は感じられない。通常であれば簡単に外れることは出来ない魔道具なんだが。


「なあ、お互い商売人だ。悪いようにしないぜ」

と俺は出来るだけ邪悪な笑みをして言ってみた。

「くそ!痛えところついてきやがるぜ・・」

ということで契約成立だ。

たがやはり高くついた。俺の行商の利益約1か月分が消えた。


「名前はあるのか?この娘」

「さあな、俺たちはただオークって呼んでたからな」

その興行主は、娘を檻から出しながらそう話していた。

とりあえず首に巻かれていたロープや首輪を外し、それを手首に巻き付けた。近寄って見るとかなり悪臭がする。

おそらく風呂とか入らせてないんだろうな。

「そんなことないぜ、週に一回は水浴びはさせてるぜ」

ああ、なるほどな。

おそらく檻の上から水をぶちまけて終りだろう。


悪臭、やせ細っている、ぼろぼろの服。

まずは身体を綺麗にしてから何か食べさせよう。

だが、どこの食堂、宿屋、街営浴場でも門前払いだ。

仕方がない、この街に入る直前の街道沿いに休憩広場があったな。


ということで、ここはその広場だ。

まずは小川で身体を洗わせた。季節的に初夏といったところなんで冷たい水でも大丈夫だろう。


相変わらず怯えた目でこちらを見ている。そっかこいつは女の子だったな。なので手首に巻き付けたロープはそのままで俺は後ろを向いた。

しばらくして、洗い終えたのか「・・ぶひい」という声が聞こえた。

俺は次にそいつがすっぽりくるまれるローブを渡した。

「とりあえずそれを身体に巻きついてくれ」

またしばらくすると「・・ぶい」という声。


見るととりあえずは汚れを落としてこざっぱりとなっていた。


次は食事だ。


「言葉は分かるのか?」との問いに、首を縦に振る娘。

「しゃべれないのか?」これも縦に振る。

「以前はしゃべれたのか?」これもイエスのようだ。

そしたらおもむろに地面に指で何かを書いてる。


みると「マリア」と読める。

「お前はマリアという名前なのか?」

嬉しそうに「ぶひぶひ!」と笑う娘。

なるほど、何かで言葉も話せないようにさせられているのか。


「よしまずは食事だ。まずはスープだ。ゆっくりと飲めよ」

やがておそるおそる飲みだした。だがすぐにむせる。

「ゆっくりとだ、誰も取らないからな」

その後は泣きながらスープをすする音が聞こえた。

パンも食べさせたらやっと、目に落ち着きが見えてきた。


「食べたら少し休め」暗くなってきたので、焚火の火を小さくしてマリアにそう指示した。ついでに手首のロープを外し、横になるように言った。

俺も横になり目を閉じた時、マリアが動き出すのを感じた。

そのまま、ゆっくりと気配が遠ざかるのが分かった。

逃げ出そうとしてるのか?まあそれも仕方がないか。

おそらく今まで人間にはひどい目にあってきたんだろう。

あの怯え切った目を見ればわかる。


しばらく離れていたマリアだったが、ふと気がつくと俺のすぐ横に寝ている。また帰って来たのか。

初夏とはいえまだ夜は肌寒い。

マリアに俺の毛布を半分かけておいた。そのうち俺の腕に抱き着いてきてしきりに「・・ひん・・ひん」と泣いてる。手を握ったら驚いていたがそれで安心したのか、少しして寝息が聞こえて来た。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日からはマリアにはフード付きのローブを着せてみた。

こうすると行商人の手伝いの子供にみえる。

もちろんフードを取ると、オークそっくりの顔が出て来るが。

なので顔もできるだけ包帯やらで隠している。

聞かれたらひどいやけどを負っていると答えている。

今は小さなリュックを背負って、俺の後を付いてきている。


基本的に何もしゃべらせず、しぐさだけで意思表示をするように言ってある。しゃべると「ぶひぶひ」と聞こえるためだ。


そのため風呂付の宿屋にも泊れるようになった。

まあ風呂に入っても、身体は緑色だし髪の毛も生えてないが、かなり清潔になって来てる。


ある時、商売人同士で話しをしている時に、マリアがその部屋にある地図を指差しているのが見えた。実はマリアの右の手の人差し指だけ、人間のように白い色をしている。他の指は緑色でごつごつしてるんだが。なので普段は手袋をさせていて、その指の箇所だけ穴が空けてある。だから何かあるとその指だけ見せて魔物では無いと言っているのだ。


今、マリアはその白い指で、とある街から少し離れた森を指で押さえていた。街の名前はガルーベリー、森の名前はガルーの森だ。


宿屋へ帰って来て、さっきのガルーの森の事を聞いて見た。

「あの森に何かあるのか?」

「ばう!」

「あの森に行きたいのか?」

「ばう!ばう!」

う~ん、これだけではさすがに分からん。


次にペンと羊皮紙の切れ端を渡した。


するとマリアは、「すんでた」と書いた。

「住んでた?そこで生まれたのか?」

「・・ぶふう」今度は首を振った。違うようだ。


「森の中に家があるのか?」

「まほうつかいのおばあちゃんのいえ」と書くマリア。

続けて「もういない」と。さらに「しんだ」とも。


まとめると、ガルーベリーの街の近くにあるガルーの森。

その森の中に魔法使いの家がある、マリアはそこに住んでいた。

だが、その魔法使いは既に死んでいて今はいないと。

そう口に出したら、盛んに「ぶふ!ぶふ!」とマリア。


「そこにお前は行きたいんだな」「ぶふ!」


だが、よりによってガルーの森か。

あれは暗黒の森と呼ばれ、凶暴な魔物が多数徘徊してるという噂だ、冒険者もよほどの高位パーティじゃないと入れないだろう。


あれ?こいつはそんな危険な森に住んでいたのか?

「ぬけみちある」とマリア。

ふむ、次の行商予定の街とは少し外れるが問題はなさそうだ。

「よしじゃあ行くか」と言ったら喜んで飛びついてきたマリア。


以前は宿屋でもすぐ床に寝ようとしてたが、むりやりベッドに寝かせるようにしたら、いつの間にか自分のベッドから出て、俺にくっついて寝てるようになった。


なので最近では始めから一緒に寝てる。それでも明け方は泣いている事が多かったが、やっと気持ちも落ち着いてきたようだ。食べ物もたくさん食べさせてやっと身体が少女っぽい体つきになってきた。まあ相変わらず全体的に緑色だが。


出発する日、以前から気になっていたマリアのステータスを見せてもらうことにした。たまたま売物の中に「覚醒の宝珠」があったのだ。

「覚醒の宝珠」は12歳になった時、神殿に行けば無料で受けることが出来る「覚醒の儀」の簡易版だ。

これでマリアのステータスが判明する。

その時はまだ、本名や年齢ぐらい分かればいいなと思っていた。


【名 前】 マリア・ヴィクトリア

      (怨泉の呪い x7)

【年 齢】 14

【JOB】 大聖女

【職業レベル】 1

【一般スキル】

<太陽魔法><月魔法><星魔法>

【特殊スキル】 

【ユニークスキル】


何?大聖女だと?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ありえない・・。過去に大聖女が出現したのはもう200年前と聞いている。聖女は一年に一人ぐらいが現れていて、各都市、街、村で尊敬を集めている。


大聖女。

ありとあらゆる病、怪我、欠損部位、また死んだ直後であれば生き返らせることも可能と言われてる、全ての人間が待ち望んでいた聖女中の聖女。

その魔力は尽きることを知らず、何十人、何百人も連続で治療が可能であり、その微笑だけで悪霊が退散すると言われている。


だが、この見た目が全身緑色のオークそっくりの娘がか?

見世物小屋で毎日泣いていたこの娘がか?

汚物にまみれろくに食べ物も与えられなかった娘がか?


いまはもう疲れたのか寝ているマリア。

ああ、確かに話している時、たまに瞳が輝やくことがあるな。


そしてもう一つの不明なもの。

名前欄にある(怨泉の呪い x7)というもの。

鑑定で調べようにも、不明としか出て来ない。

ああ、なるほど、これは個人で作った特別な呪いだな。こういう場合、さすがに鑑定しても詳細は不明なのだ。

ということは、ガルーの森にいたという魔法使いが怪しい、

もしくは何か知っていた可能性が高い。


よしますますその森に行かなくてはならないな。

俺はそう決心して、今は静かに寝ているマリアの頭をなで続けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ガルーベリーの街まで着き、そこでガルーの森の情報を調べることにした。そういった情報収集は酒場に限る。

俺はヒマそうにしている冒険者連中に、酒を奢りながら聞いて見ることにした。


「あんちゃん、やめときな。あんなところに近づくんじゃねえ」

「そうだともよ、命がいくつあったって足りやしねえ」

「何があるんだい?あの森に」と俺。

「そうさな、まずは上級冒険者でも逃げ出すほどの凶暴な魔獣がわんさかだ」

「森そのものに悪霊が憑いてるって話もあるぜ」

「それにあの湖もありえねえ。何十もの首が浮いてるっちゅうことだ」


「でも魔法使いがいるっていう噂はどうなんだい?」とここで俺は誘い水を出した。


「おお、あんちゃん!そんなこと口に出すんじゃねえ!」

「おうよ!その魔法使い、いや魔女があの森をあんなにしたんだ!」

おお!その話くわしく!


「・・ああ・・でもなあ・・」

むう、じゃあ。もう一杯だ。

「すまねえな」

くそ~。

「でもここだけの話だぜ。実はな、2年前に魔女を退治しにきたパーティがいたんだぜ。なんでも王都からやってきたS級の奴らだそうだ」

「あ、俺も聞いたことあるぜ。で魔女は何人かを道づれにして死んだってな」

「その後はどういうわけか森から強い魔物が少なくなったんで、いろんなやつがその魔女の家から金目の物を奪ったってな」


「その家にはその魔女の他に誰か住んでいたのかい?」

「う~ん、聞いた事ねえな」

「なんか醜い小間使いがいたって話だぜ。でもそれも荒らしにきた奴らが攫っていったと。もうどこかに売られたんじゃないのか?」


ああ、なんとなくわかった。その醜い小間使いっていうのがおそらくマリアだろうな。


部屋に戻り先ほど聞いた情報をマリアに話せて聞かせた。

全部そうだというふうに首を縦に振っていた。

その後もいくつか質問を続け、必要な物とかを準備することにした。


次の日、俺たちはガルーベリーの街を出て森に向かって歩きだした。

マリアとの筆談の内容から、その森の抜け道まで約半日ほど。

それからまた半日で家に着くとのこと。

あまり暗くなると魔物が活発化するので、朝早くの出発だ。

街道を少し外れたところにその道はあった。

なるほどかすかに魔物よけの魔法が掛かっているようだ。

すごいな。その魔女が死んで2年以上経つというのに。


マリアの先導でその獣道みたいな小道を歩くこと半日。

さすがに夕暮れになって周りの魔物の動きが慌ただしくなってきたようだ。まずいなと思っていた時、マリアが「ぶひ!」と叫んで、その先を指差した。


む?道が開けた先は・・おお、木の上に家がある。あれがそうか?





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もう少しマリア編が続きます

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