第12話 強敵出現?

ダンジョンを掃除するようになって良かったことと悪かったことがある。


まず良かった方は・・。

職業レベルが順調に上がっている事。

俺の<掃除人>、マールの<魔導士>、ナルモの<シーフ>。

ゆっくりとだが着実に上がっている。

マールのはカモフラージュして<魔法使い>になっているが。


それと隠されたお宝が見つけやすくなっている事。

もちろんこれはナルモの運パラメータの高さによるものだ。


次に悪い点。

地上と同じように捨てられた武具やアイテムなんかはたくさんある。

しかしどれも本当に使えないもしくは壊れている物ばかりだ。

地上の広場に捨てられた物は、もっと深い層からもってきたものが多く、そのなかに貴重なお宝が捨てられている可能性があったが、今の浅い層ではほとんどない。

そのためレアものは、隠し部屋等にあるお宝に限られる。しかもそんな浅い階にはほとんど見つかっているが。


次回からは地下三階に挑戦するが、捨てられているものには、本当に不要なものだと思っていた。・・が・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ねえ、もうメリッサ先生来ないの?」とマール。

メリッサというのは、ミサトの偽名だ。

さすがにミサトという名は珍しいからな。

「もっといろいろと教わりたかったな」

「そうにゃ、あの貰ったお菓子、もっと食べたいにゃ~」


俺たちがダンジョン清掃している時に、自分たちの国に戻っていったようだ。さすがに帰る時には影武者ではなく本人に戻っていたようだが。


「また来るって言ってたぞ、お菓子たくさん持ってな」

「でもメリッサ先生、なんでお兄ちゃんの事、師匠って呼んでたの?お兄ちゃん魔法使えないのに」

「魔法じゃなくて、その、あ、後片付けについてだ・・」

「ふ~ん、なんか怪しいわ。今度先生来たら聞いて見ようっと」

ふう、なんとかごまかせたかな?

「おう!明日はいよいよ地下三階に挑戦するぞ。よく休んでおけよ」

「うん」

「はいにゃ」


次の日ダンジョン受付で、地下三階の清掃の件で担当の人と話しをしている時、ダンジョン協会の人に呼び止められた。

「ああ、ケンタちょっと来てくれ」

その人は清掃の元締めみたいな事をしている人だ。

「なんです?旦那」

「ああ、実はな」

と言って依頼されたある事。


なんでも某貴族の道楽息子が何を思ったか、このダンジョンに挑戦しにきたそうだ。もちろん本人は始めてだが、金に物を言わせ、名のある冒険者を引きつれての参戦したとのこと。

本当はレベルが低い冒険者や初心者はいきなり深い層に入れないが、この時はその貴族の当主からの強い要望(というより脅迫に近いみたいだが)で特例参加を認めたそうだ。


雇った高名な冒険者の活躍で、最深階まで行き、見事ダンジョンボスを撃破して帰還してきたが、その際その貴族家の家宝と言うべき指輪を落としてしまったの事。

その指輪は前王よりの贈り物であり、それを紛失するということは、貴族間の序列で重大な問題になってしまうとのことだ。いわゆる爵位の繰り下げもありうるかもと。

「まあ、ここだけの話、そんなものはどうでもいいんだがな」とその元締めの人がほくそ笑む。

おう、なかなか邪悪な笑いだ。いいなそういう笑いは。

「だがな、もし見つけたら、その貴族に対してすごいアドヴァンテージになる。もちろん報酬の金額もべらぼうだ。もし見つけてもせいぜいじらして値を吊り上げるぞ」


という要望があり、見つけた場合はまずその元締めと相談することになった。取り分もその貴族が提示している報酬は俺とダンジョン協会と冒険者ギルドが均等割りすることで話しがまとまった。


ちなみにそれは<栄光の指輪>という名前だと。う~んダサい・・。

レア度は、レア級レベルでそんなに貴重なものではないが、王家の紋章が掘ってあるとのことだ。

でも指輪かあ。小さすぎて見つからないかもと言っておいたが。


そんなことで時間をとられ、だいぶ遅れて地下三階に降り立った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「わあ、ここも汚いわねえ」さっそくマールがお馴染みの悪態をつく。

相変わらず、階段近辺はゴミが多いな。下あるいは上に階を移動する時ににここで捨てていくんだな。まあ、気持ちは分かる。


この階も今までの階を同じように暗く、光が奥まで届かない。

壁は土かレンガで出来ていて、触ると少しひんやりする。


俺たちはまずはこの階段周りの捨てられていたゴミの片付けを始めた。

う~ん。やっぱりめぼしいものは無いな。本当に壊れて使いないものばかりだ。特に階段から見て右側の奥の通路がひどい。つきあたりまでゴミが散乱している。しかもその山で通路が塞がれている。


小さいゴミは背中にしょったかごに入れて、かさばる重たいものは複数でかついで移動させる。

やっと人が通れる道が出来てきた時、少し違和感を感じた。

通路の突き当り、いわゆる行き止まり。

暗いが、そこに多くのゴミが見える。

そこの場所を見てると、なにやら首の後ろがちりちりと熱くなってる。

いわゆる危険を感知する第六感というやつだ。


「マール、アルラウネを出しておいてくれ。それとナルモも警戒してくれ」

「「了解」」

おう、素早いな。どうやら彼女らもどこかおかしいと感じているのか。


三人でその奥を睨んでいたら、突然アルラウネが叫んだ。

「キュ!キュ!キュウ!キュキュキュ!」

「みんな逃げてって言ってる!」


なに?何がいるんだ?ここはまだ地下三階だぞ!

やがて、ずりっ、ずりっと床をはいずる音が近くなってきた。

ゆっくりとゆっくりと俺たちのランタンの灯りが届くところまで出て来たそれは・・・。


え?ダストイーターか?

でもこんなでかいのは見たこと無い。それにこちらを伺っている。

うそだろ知性があるのか?こいつ。


ダストイーター。

スライムの変形したものだ。こいつ自体は大人しく好戦的じゃない。ひたすらゴミに向かっていき、それを己の身体に取り込む。そうだゴミを食って生きる。言ってみれば、こいつも一種の掃除人だ。


でもこいつはそんなもんじゃない・・。

「まずい!こいつはダークダストイーターだ!みんな下がれ!」


ダークダストイーター。

ダストイーターの集合体で意志を持つ。

ゴミ以外の食物、衣類、武防具、魔物、そして人間。

それらすべてに覆いかぶさり、瞬時に溶解して自分の栄養とする。

しかし、それには何十の、いや何百のダストイーターが必要なんだぞ・・。


以前見たことがある。巨大なゴーレムをひとのみで飲み込み瞬く間に溶かしていたところを。それにこいつには物理的な攻撃は無効だ。ミノタウロスの斧をものともしなかったのも見たことがある。


弱点はただひとつ。氷だ。

だが俺たちに氷系の魔法はまだ使えないはずだ。

ということはここは逃げる一手だ。


「待って!わたし使える!」と突然マールが叫んだ。

何?水魔法のSLスキルレベル④:アイスニードルは、職業レベルが10以上じゃないと使えないぞ!

「先生との訓練でレベル上がったの!」

おお、ミサトがそこまでしてくれていたのか。

「じゃあ出来るか?」

「うん、やってみる!・・・<アイスニードル>!!」


途端にマールの身体から巨大な気が溢れ出すのを感じた。

まじかに迫っていたダークダストイーターに、その氷のレーザーみたいな光線が吸い込まれた。同時に当たったところから徐々にそいつの身体が白く変色していくのが分かった。そして見る間にそいつの身体全体が真っ白になり・・。


おお、凍っているのか!

いや感心しているん場合じゃない!次だ!

「マールはそのまま持ちこたえてくれ。ナルモ!弓で攻撃できるか?」

「はいにゃ!」


だがナルモが放った矢は、力なくひょろひょろと飛んで行った。

しかも山なりで、ぽすんといった感じでダークダストイーターの身体の脇に突き刺さった。


途端にピキーン!という音と共に、それまで巨大な氷の塊だったダークダストイーターが一瞬でバラバラになっていった。

はあ?うそだろ!確かにこいつは氷に弱いが、なんで力無い矢の一本で。

そうか!矢は<ウイークポイントアロー>だったのか!

しかもナルモの運は最大だ。ありえないぞ・・。


「だ、大丈夫か、みんな・・」

「うん!やっつけたのね!」

「なんなのにゃ、あれ・・」


よかったなんとかなったな。だが俺は動けない。

バラバラになったダークダストイーターの破片はいくつか足に刺さっていたのだ。しかもやつの身体は酸で出来ているような魔物なので、刺さった破片からもしゅうしゅうと煙が出ている。

なんとか我慢しその破片を全部抜いたが、今度はその指先も酸にやられたようだ。


「きゃあ、お兄ちゃん!すぐポーションを!」

「それよりマール、お前スキル使えるか?」

「え?スキル?って・・、ああ!あれね!」

おうやっと思い出してくれたようだ。

いままで使う機会が無かったもんな。


「どうやるのこれ!わかんない!でも・・えい!」

無造作に俺に向けて手をかざしたマール。

その指先から白い何かが出て来て、俺を包み込み瞬時に・・。


「はあ?なんだこれ!」

「すごい・・」

「あっという間にゃ・・」


なんと一瞬ですべての怪我、ヤケド等が完治した。

神官の光魔法で、同じような治癒魔法があるが、詠唱やらで時間がかかるもんだぞ。それを無詠唱で1秒もかからず手を伸ばしただけで・・。


これがマールの<ユニークスキル>の<全てを慈しむ者>か。

対象への愛情が深ければ深いほど、その力が増すという・・。


「あたし初めて使ったのに・・」

「ああ、ありがとうマール。おかげで助かった。なんともないぞ」

「よかったあ!」

まてまて抱き着くのはまだ早い。

俺は二人に目配せして、あの暗い通路の奥に注意を向けさせた。


「もう、大丈夫ってララちゃんが言っている」

「うん、何も感じないにゃ」

「よしゆっくりと進むぞ。でも警戒を怠るなよ」


俺たちはゴミをかき分け奥へと進んだ。ほどなく突き当りに着いたが反対にここはゴミが無い。そうか、ダークダストイーターが全部食らったんだな。もうここは安全だろう。


もとの場所に戻る時に、ダークダストイーターの魔石と、なにやら見慣れない魔道具らしい物が落ちていた。ドロップアイテムか?

だがまずは、ダークダストイーターの件はきちんと報告しないといけない。俺たちは一旦エントランスホールのダンジョン事務所に向かった。


「なに?そんな魔物が地下三階に?」

「ああ、たしかにあそこはゴミの山だったな」

と係員たち。

「よくお前たちで倒せたな」

なので一人が氷結系の魔法を使えたことと、打った矢がたまたま急所に当たった事などを話した。


なんとか納得して貰ったが、このことは結構重要視されたようだ。

すなわちダンジョン内のゴミ問題として。


結局暫定的に、俺たちがあちこちにまとめて置いたゴミを専用の清掃員が地上に持って片付ける事になった。いままで階段でリアカーが登れなかったからな。


つまり俺たちの仲間の清掃員とそれを守る冒険者が一人。

これについては冒険者ギルドにて護衛のクエストとして依頼することになった。


今後は俺たち三人がどんどん下層に潜っていきながらゴミをまとめていく。後でそれらのゴミを地上に運ぶ清掃部隊が続く。

と言っても、まあこれは地下五階までくらいだろうな。

それより深い層は、綺麗ではないがそれほどゴミは落ちてないと。


そんな取り決めをしてたんで今日はこれで終わりだ。

冒険者ギルドでダークダストイーターの魔石を売却しようとしたが、珍しいものであるため、換金には時間がかかると言ってた。


「ねえ、一緒に落ちていたあの道具って何?」

家に帰って来てマールにそう言われた。

そういえば、なんか拾ったな。小さなわっかのような道具だ。

指輪より大きいが、ブレスレットより小さい。それがふたつ。

なんだろうな。見たこと無い。早速鑑定だ。


「ワープホールリング」

双方で物質を移動できる リングの大きさ変更可能

ただし無機質な物体であること 距離無限

レア度:超伝説級


なんだって?

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