第11話 <魔導士>のこと

次の日も同じように地下二階の残りの掃除をしようとエントランスホールに向かっていたが、意外にも立ち入りが禁止されていた。

ええ?何でだよ。


見ると大勢の冒険者が、ある一団を取り囲んでいる。

冒険者ギルドのギルドマスターやダンジョン協会のお偉方の姿も見えた。

どうやら他の国からの超有名な人物が来てるということだ。

なるほど、それで一般人は立ち入り禁止か。


こうなるとマールの存在はまずいな。

今日はあきらめて帰るかと思っていたら、情報通の掃除仲間がやってきてこういった。

「あの世界を救った5人のうちの一人、大魔法使いのミサトがきてるみただぜ」と。

なに?なんでミサトがこんなところに・・。

俺はマールを掃除仲間の中に隠しておいて、そのエントランスホールのそばまで行ってみた。


清掃用の通路があるので近くまで行けることが出来るのだ。

まあ職員専用通路ってやつだな。

そこからホールを見ると確かに魔法使いのローブを着た一団が見えた。

その中央に明らかに他の魔法使いとは違った豪華なローブをきた女性がいる。え?ミサトじゃないぞ。非常によく似てるが違う。

俺はミサトと二人で1年以上旅をしてきたのでよく知ってる。

なぜだ?と思っていたら、一陣の風が吹いて、俺の足元に一枚の紙が飛んできた。む?これは忍びが良く使う伝達方法だ。


おそらくルッツの配下の忍びが置いておいていったのだろう。

それには「いつもの魔法練習の場所で。彼女らも一緒に」と書いてあった。おお、懐かしいなこれはミサトの字だ。

ということは目の前のミサトは影武者なのか。


戻って来て親方に聞くとどうやら、その影響で掃除のためにダンジョンに入るのは無理そうだということになった。なので今日は休みということにして街に方へ向かった。


そしていつもマールと魔法の練習をしている場所に行くと、ある女性が一人でいるのが見えた。ミサトだ。今度は本物だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


マールとナルモをリアカーのそばで待たせておいて、ミサトに近づいた。

途端に抱き着いてきて泣き出した。


「・・うう、師匠・・会いたかったです・・なんで黙って・・」

「ああ、悪いな。お前も元気そうだな。魔法学園はどうだ?」

「・・もうあそこの校長は師匠の方が適任です!わたしは師匠のそばの方がいいんですう!!」

おいおい、始めて会ったばかりのころの女子高生に戻っているぞ。

相変わらず泣き虫なやつだ。

「だって~」

昔と同じように頭をなでであげたらやっと落ち着いてきた。

「すぐそうやって子供扱いするんだから・・」とミサト。


でもよく分かったな。俺の姿は以前と全然違うぞ。

今は15歳になったからな。

「私たち五人は、師匠がどんなに変わろうがすぐ分かります!」

今の俺たちは周りから見ると明らかに変だよな。

15歳くらいの少年に、20歳中ごろの美女が泣きながら抱き着いている。

「でも安心しました。姿変わっても師匠は師匠ですね」


「ところでなぜ急に来たんだ?あのダンジョンに何か用なのか?」

「せっかく何年かぶりに会ったのに、もう」

「あはは、ルッツにも言われたな。今度ゆっくりと話するから」

「約束ですよ!絶対ですよ!」

「わかったわかった」


「ところで彼女が例の<魔導士>の子ですか?」

「ああ、そうだ」

「実はここに来たのはダンジョンではなく彼女の事で・・」

マールか。なんでだ?

「彼女を魔法学園に入学させることは出来ますか?」


はあ?いきなりすぎだぞお前。

「うふふ、いきなりなのは師匠ゆずりです!じゃあはっきり言いますね」

おう!

「ルッツに言われて過去の文献や古文書を調べてわかりました。

彼女のJOB<魔導士>は、100年ぶりの出現なんです」

なに?


「魔法使いは五つの魔法が使えますよね。ってあたしは誰に向かって言っているのかしら」

お、おう。続けてくれ。

「<魔導士>はそのすべての魔法を組み合わせて、新しい魔法を作れるんです!これがどんなにすごいことか!」

はあ?意味が分からないぞ。今ある既存の魔法のほかの魔法?

そんなの聞いた事ない。


「例えば、風魔法の<トルネード>に火魔法の<ファイヤ>、この二つを同時に使えるんです。すると燃え盛る竜巻が出来ます」

・・まさか・・。

「ええ、他にも土魔法と水魔法を併せて巨大な泥沼の作成も可能です。かつそこに雷魔法も合わせると感電する泥沼になるんです。五つの魔法の組み合わせで、何十通り、何百通りもの魔法が可能になるんです!」

・・なんだよそれ・・。ちょっと待て!

「今はその五つの魔法だけだが、他の魔法、例えば神官の光魔法、闇魔法、その上位の太陽魔法、月魔法とも合体が可能なのか?」

「はい、おそらく」

「・・実はもう召喚魔法も巻物で取得してるんだ」

「はあ?ならばもう彼女は魔法では無敵かと」

おおおう・・・。


「少し彼女と話をしてもいいですか?」

「ああぜひそうしてくれ。あ、ミサトとばれないようにな」

「ええ、師匠の友人ということで。ちなみにもう一人の猫族の女の子はどういう子なんですか?」


そうだな、ミサトなら言っても大丈夫だな。

「彼女はラッキーキャット族のナルモだ。運パラメータが999だ」

「はああ????・・・もう・・師匠といると・・これだから・・」

ははは。ルッツもそんな反応してたな。


ということでミサトをマールとナルモに紹介して、みんなで一旦家に帰ってきた。


さっそくミサトがマールに魔法の手ほどきをしている。

この世界で最高の先生だぞ。圧倒的な魔法の力で、強大な魔物をことごとくしりぞけ、あの闇の存在をも震え上がらせた最強の魔法使いだ。

そんなミサトが初めて教えた<魔導士>としての合体魔法、それは・・。


「出来た!先生!出来ました!」

もうミサトを先生呼びだ。

「やって見せて、マールちゃん」


ありえない力を持つその二人の最初の合体魔法。

火魔法のSL①のファイヤと水魔法のSL①のウォータ。

この合体で作ったもの・・それはお湯。


「あ!ちょうどいい湯加減です!」

「あら、ほんとね。じゃあ三人で入りましょ。ナルちゃんも一緒にね」


ということで女子三人はお風呂。俺はほったらかしにされて風呂の前で待機・・・。はあ・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


やっと出て来たミサトと俺は裏庭で夕涼みだ。


風呂から出て来ても、女性陣は<ウィンド>と<ファイヤ>を併せて、前世のドライヤーみたいな温風で髪を乾かしたり、<ウィンド>と<ウォータ>で扇風機みたいな風を作ったりしてた。

ちなみにお湯を出す時に「ホットウォーター」、温風は「ホットウィンド」、冷風は「クールウィンド」という名前の魔法にしたとのこと。

そのまんまだが・・まあいいだろう。


今は夏季だから必要ないが、暖炉に<クレイ>と<ファイヤ>を併せてマグマみたいな固まりを作ることも出来そうだと言っていた。

暖炉にマグマって・・。


「なあミサト、やっぱりマールを学校へ入学させるのは・・」

「うふふ、実はダメ元で言ってみただけなの」

は?

「もう!師匠と少しでも一緒にいた女の子は、何が一番の望みなのかわかるんです。最大の幸せ・・それはこの人とずっと一緒にいたいということ・・わたしもそうなのよ・・なのに・・黙っていなくなるなんて最低!

・・だからね、マールちゃんに言っても断られてるのはすぐわかるの」


お、おう、そ、そうか。


「さて、わたしは明日には帰るつもりです。なので今晩だけ昔のように師匠の生徒でいさせて下さいね」

と言って、マールのベッドを横につけてみんなで寝られるようにしたミサト。「さあ、みんなで寝ましょう!」

おいおい・・。って、そうかミサトも始めはこうだったな。

もちろんその先の関係になることはなかったが。


今はいつものとおり右にマールがいる。そして左にミサトがそれぞれくっついてきた。ちなみにナルモは、彼女専用のでかいバスケットのベッドに入って俺たちの枕元にある。

つまり3人に囲まれている状態だ。しかも、ミサトとマールは俺を挟んで楽しそうにおしゃべりをしている。

うう、寝づらい・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日も朝からミサトは、マールに魔法の手ほどきをしている。

俺は一旦冒険者ギルドに行って、今日のダンジョンの状況を確認してみた。どうやら昼頃から入れるということらしい。


「じゃあ今度来たときはゆっくりと話しを聞かせて貰いますからね」

と言ってミサトは帰って行った。


よし!やっとダンジョンに潜れるぞ!


現在は地下二階の半分を掃除およびお宝探しを終えている。


地下二階にもゴミは多い。まあゴミといっても大半が、壊れた剣、破損が激しい胸当て、焼けこげだらけのローブ、ポーションが入っていた瓶なのだが。

それらを片っ端から三人で荷台に乗せて、いっぱいになったらあらかじめ決めておいた置場に持っていく。最後にマールの魔法の<ウォーター>で水を撒いて、<濁流のモップ>や普通のモップで床をならして終了だ。


ちなみに魔物は倒されると、身体や服、武器なんかは魔石を残しすべて煙となって消えていく。なので、魔物から出るゴミは無い。ゴミはすべて冒険者が落とす、または捨てていくものだ。


それもある程度は仕方がない事だと分かっている。もちろんゴミについてのマナーやルールも大事だが、彼らは命がけで魔物と戦っているのだ。


そんな戦いの最中に、落ちていた瓶で足を取られた事になれば致命的だ。

「そっか、掃除にはそんにゃ意味もあるんだにゃ~」とナルモ。

「だからわたしたちも頑張らないとね」

冒険者には冒険者の仕事があり、俺たちには俺たちの仕事がある。

まあ、冒険者全員が綺麗好きになれば逆に俺たちの仕事はなくなるがな。


そんな事を話しながら掃除していたら、またナルモが何か見つけたようだ。今度はなんだ?

「へんにゃ、この空間」

「なになに、どうしたの?」

マールとナルモがマップを見ながら話している。

「ここに一部屋あっていいのに」

俺もマップを見たが、まるまる一部屋分が壁になってる。

周りをみても扉もない。隠された扉を見つける事が出来る<トレジャーアイ>で見ても、扉は見えない。


「上下のマップはどうだ?」

ごくたまにだが上からの落とし穴、もしくは下の層からの上り階段なんかもある。でもこんな浅い階だったら、とっくに見つけられていると思うがな。いや逆か?地下一階や二階では、あったとしてもどうせろくなものじゃないとあきらめたか、それともそんな労力は深い層で使うべきと割り切っているかだ。


「にゃるほど、これって地下三階からの隠し階段で入れる部屋のようにゃ」

うん、どうやらそうみたいだ。地下一階側は何も無い普通の部屋だ。

俺たちもそこは掃除をしてるので覚えている。ナルモにも見て貰っていて怪しいところはない。

だが、地下三階の、マップではそこもここと同じ壁の中。

そして地下四階のそこは何も無い土の中。


なのでおそらくは、地下三階に見えない入口があり、かつそこから二階に上がる階段を使ってこの部屋に入るんだろう。

それが証拠に、先ほどからナルモの「やまびこのイヤリング」からかすかに音がするのだ。


「だから今はだめだな。地下三階も掃除対象だからその時に来てみるか」

「そうするにゃ」


ということで地下二階の掃除はこれで一旦は終了だ。まだ上に持っていけない分のゴミはあるが、ひとまとめにしておいてある。


よし明日から地下三階に挑戦だ。


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