第9話 ラッキー?アンラッキー?
「あたしはナルモって言うんにゃ。ナルちゃんて呼んでいいにゃ」
荷台の上でふんぞり返った猫が一人でしゃべり出した。
「種族はラッキーキャット族。別名幸運を運ぶ猫にゃ」
はあ?そんな種族、俺でも聞いたことないぞ。
「でもあたしだけ、アンラッキーキャット族にゃ・・」
むむ?なにやら深い訳がありそうだが・・聞かない。
「普通は、その訳を聞くのが人情にゃ。そこから会話のキャッチボールが生まれてだにゃ」
「着いたぞ」
「え?ここって冒険者ギルドにゃ。まさかいくらあたしが可愛いからってここで看板猫にして、売り出して有名になったら売り上げをかすめる気だにゃ?」
・・やっぱりさっき通った池に沈めるべきだったか。
「お前、ダンジョンの中にいただろ?あそこは一人では入れない。冒険者は必ずこのギルドで登録して、かつ複数でアタックするように言われている。お前の他のパーティメンバーはどうしたんだ?」
「はう!そ、それはだにゃ・・」
俺はこいつを掴んで持ち上げた。途端に手足が丸くなる。おお猫そっくりだ。というか猫か。
「・・やめるにゃ~。化けて出てやるにゃ~」
お前は死んでないだろう。まったく。
「あらケンタくんどうしたの?魔石の買い取りなら向こうよ」
俺は最近知り合い(といってもマール経由だが)になった受付のお姉さんのところに行き、この猫の事を聞いて見た。
「あらあ、ナルモちゃん、また捨てられたのね」
「・・ふにゃあ・・」
え?また?
「うん、この子って幸運を呼ぶ猫の種族なんで、たまに人数に余裕のあるパーティに連れ出されるの。まあ小さいし、罠も外すことができるからね。もちろん目的はレアアイテム探しのためなんだけどね。でも逆なの。散々苦労して開けた宝箱でも何も入ってなかったり、粗悪品ばかり。それでいつもその場でパーティー解消されて捨てられるの。本当はそういうのはだめなんだけどね」
でも良くダンジョンで生き残れるな。
「すばしっこいのだけがとりえになったのにゃ・・」
なるほど逃げまくって、帰って来るのか。
「え?じゃあ今度からケンタくんが面倒見るのね。よかったわねナルモちゃん」
「うん、いいご主人に拾って貰ったにゃ」
「じゃあケンタくん、よろしくね」
・・はあ、やっぱりこうなってしまうのか。
とりあえず、早くマールの待つ家に帰ろう。
薬師の店で、熱さまし用の薬と、栄養のある食事を買ったが、油断するとナルモが食べてしまうので、大事なものはすべてアイテムボックスだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「マール、ただいま」
「お帰りなさ~い!あれ?その猫ちゃんなあに?」
俺はとりあえずこれまでの経緯を話して聞かせた。
「あらあ、あなたも捨てられていたところを拾われたのね、わたしとおんなじね。でも食事の前にまずお風呂よ。お兄ちゃんは出て行って!」
え?は、はい。あ?マールはもう調子はいいのか?
「うん、一日中寝てたらもうすっかり。でもせっかくお薬あるからあとで飲んどくね。明日は大丈夫だよ」
追い出された俺は納屋で掃除道具の後片付けだ。
やがてマールの「お待たせ~」の声で家に入った。
ええ?これがさっきの薄汚い猫?
よっぽど汚れていたのか。さっきと全然肌の色が違う。
眼もぱっちりとして、茶系の髪も綺麗だ。
くたくただった猫耳もしっかり立ってて、しっぽもふさふさになってる。
なによりマールの妹といってもおかしくないくらいの可愛さだ。
服もマールの服をあちこち詰めて着ている。
「えへへお風呂久しぶり。気持ちよかったにゃ」
「そうよ女の子は毎日入らないとだめよ」
もうすっかりマールはお姉さん気取りだ。
「ナルちゃんごはん作るの手伝って」
「うん」
あれ?俺の時と全然態度が違うぞ。
こいつこんなに素直だったか?
ああ、いままで一人でしかも女の子だもんな。
したたかにやっていかないと舐められるからな、この世界。
結局食事は3人前くらい食べてた。こんなに食べたのは久しぶりだと。
その後、ナルモのステータスを見せてもらった。
ラッキーキャット族というのが珍しかったのだ。
【名 前】 ナルモ(ラッキーキャット族)
【年 齢】 10
【JOB】 シーフ
【職業レベル】 5
HP 17
MP 19
筋力 10
体力 12
知力 14
魔力 18
敏捷 24
運 9(LOCKー1、LOCKー2、LOCKー3)
【一般スキル】
<トレジャーハント><弓術>
【特殊スキル】
【ユニークスキル】
ふむ、10歳なのか。
人間族とは違って各種族ごとに「覚醒の儀」のタイミングがあるんだな。
【一般スキル】の<トレジャーハント><弓術>の二つは問題ない。
シーフ職だったら全員持っているものだ。
だがこの「運」のパラメータにあるやつ・・こんなの見たことがないぞ。
(LOCK)ってなんだ?鍵っていう意味だよな。
「なあナルモ、この運のパラメータってなにか意味があるのか?」
「わからにゃい。始めからあったにゃ。しかも数値はずっと9のまま」
はあ?レベルが5なのに、一つもUPしないだと?
多分それは本当だろうな、だいたい初期はそのくらいだ。
でもこれってダンジョンでお宝を探すレベルの運じゃないぞ。
ふと思ってナルモの装備も見てみた。
【装備】
「上着(マール所有)」
「ズボン(マール所有)
「チョーク(ラッキーキャット族)」
「ブレスレット(ラッキーキャット族)左右」
「靴(マール所有)」
う~ん普通だ。とりあえず前の服はもうぼろぼろだったんで、今は全部マールのおさがりだ。
固有の装備は首と両手か。
「ナルモ、そのブレスレットみせてくれ」
「あ、これ外れにゃいんだ。ほかのも」
はあ?・・本当だ。どうやってつけたんだこれ。
つなぎ目が無い。これじゃあ、一生取れないぞ。
「もう身体の一部ににゃっちゃった」とナルモ。
ただ、ブレスレットに触った時、少し嫌な感触がした。
なので<鑑定>だ。
【束縛のブレスレット】
呪われた防具 装着者の力を封じる 重ね掛け可能
レア度:超レア級
なんだと・・。呪い?
「これはいつから付けてるんだ?」
「う~ん、気がついたら・・・」
チョークも同じだ。
ナルモに呪いの装備が3つ。
そして「運」のパラメータのLOCK、つまり鍵も3つ。
この装備が外れれば、つまり呪いが解ければ何が出てくるんだ?
そしてその理由も分からない。
なぜ生まれたばかりの子供にこんな装備を付けるんだ?
このナルモってのはいったい何者なんだ?
実はこういった呪いのアイテムを解除する方法はいくつかある。
神殿で祈りを捧げることだが、何日もかかる場合が多い。
大聖女に依頼すれば、その場で解除できるのだが、この街には居ない。
マリアなら・・、う~んそれは最後の手段だ。
もうひとつある。それは呪いの解除の
実はそれを売っている店があるのだ。
先日ちょっとその店を覗いた時に見つけておいたものだ。
ただかなり値が張る。しかもその店は 故買屋だ。
故買屋は盗品やら、いわくつきの品物を扱っている。
もちろん非合法なので、大ぴらには宣伝してない。だいたい夜しか営業してなかったり、全然別形態の店で、暗号を言うことで取引が出来たりする。俺はとある冒険者の紹介でいくつか拾ってきたアイテムをこっそり売っているのだ。
街はずれの倉庫の中にそのカウンターがある。
一見すると店に見えない。
「ちわ~す」
「おお、ケンタじゃねえか、また掘り出し物か?」
明らかに怪しいを絵に書いたような親父が出て来た。
「そういえば、この前お前に売って貰った胸当て、いい値段で売れたぜ。他にもあれば買い取るぜ」
「いや、今日は買いに来たんだ」
「へえ、珍しいじゃねえか。おうよなんでも言ってみな」
「たしか呪いの解除用の巻物があったな」
「ほほう、なかなか渋いじゃねえか。だがあれは人気がある。値が張るぜ」
く、あいかわらずがめつい親父だ。ずっと売れてなかったくせに。
「いや金じゃなくて物々交換ってのはどうだ?」
「おう、それでもいいぜ。対等ならばな」
俺はバッグの中からその武器を出してカウンターに置いた。
まあ実際にはアイテムボックスから出しただけなんだけどな。
【波乱の短剣】
ミスリル製 筋力+10 紛失してもしばらくすると戻ってくる
確率50%
レア度:超レア級
「ほう、なかなかいいものじゃねえか。だがなこれじゃあ釣り合わねえ」
やっぱりだめか。【呪い解除の巻物】はその上の伝説級だ。
この親父、鑑定スキルは持ってないが、長年の目利きの経験があるからな。油断できない。
じゃあここで様子をみるか。
「ならばこれはどうだ?」
俺はまた同じような短剣をカウンターに出した。
【蜻蛉の短剣】
アダマンタイト製 筋力+30 残像で刃の軌跡を惑わす
レア度:超伝説級
「・・てめえ、これをどこで手に入れた・・」
「ああ?俺は掃除屋だぜ、知ってるだろう?」
「・・まあこれで良しとするか、じゃあ巻物もってくるぜ」
「おう、ちょっと待ってくれ。冗談じゃない。これならあの巻物2つだろうよ」
「・・くそ~、やるじゃねえか・・わかった2つだな」
え?あるの?言ってみるもんだな。
やがて奥から【呪い解除の巻物】を2つ持って来た。
俺はそれを離れたところから<鑑定>した。よし本物のようだな。
俺と親父は、こぶしを合わせた。契約成立のしきたりだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
家にたどり着く少し前、不審な男を見つけた。
さっきもこの近辺をうろうろしていたやつだ。目つきが鋭い。
隠れて様子を見ていたが、どうやら家々を回って何かを、いや誰かを探しているようだ。
まずいな、あの家には今最も高い賞金が出ているマールがいる。
やがてそいつは俺の家に近づいてきた。
だが・・え?素通り?まるでそこに家などないような感じで他の家々へ向かって行った。
なるほど!わかったぞ。
いま俺の家の周りに薄い膜のようなもので覆われているのを感じた。ルッツの配下の忍びたちが認識を除外する術をかけているんだ。
さすがルッツだ、二重三重で守ってくれてる。
俺は小声で「ご苦労さん、ルッツによろしくな」と言って家に入った。
「ナルモ、ちょっと来てくれ。いまからお前にかかっている呪いを解除する」
「え?呪いにゃのこれ・・」
「まず一つ目だ、どこを外す?」
「う~ん、チョークかにゃ。これって暑いと蒸れるから。それに首にまいてあるから飼い猫みたいだにゃ・・」
あはは、それもそうだな。
俺は【呪い解除の巻物】を右手に、左手をナルモの首に巻いてあるチョークに手をかけ、祈った。
ほどなくその巻物とチョークが同時に煙となって消えた。
「どうだ?気分は?」
「う~ん、にゃにもかわんない」
「じゃあステータスを出してくれ」
【名 前】 ナルモ(ラッキーキャット族)
【職業レベル】 5
HP 17
MP 19
筋力 8
体力 12
知力 14
魔力 18
敏捷 24
運 99(LOCKー2、LOCKー3)
はあ?なんだと?
なんで一気に運が増えた・・、まさか・・・。
「・・ナルモ、もうひとつある。今度はどの装備を取る?」
「うん、じゃあ右手にゃ」
俺は同じようにブレスレットの呪いを解除した。
【名 前】 ナルモ(ラッキーキャット族)
運 999(LOCKー3)
・・うそだろ・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日俺たち三人は冒険者ギルドのパーティ登録のカウンターに行った。
いくら清掃のためとはいえ、地下二階以降はそのままのグループではだめだということらしい。
なので仮とはいえ、パーティとして登録することになったのだ。
今周りにはたくさんの冒険者がいるが、俺たちのことはよく知られている。まあ攻略中のダンジョンの清掃要員としてで、ダンジョン内が綺麗になることは奴らにとっても何かと都合がいいからな。
なので特にからんでくるとかは無い。
「はい、ケンタさんとマールちゃんとナルモちゃんね。最後にパーティ名を決めてくれたら登録は済むわ。何にするの?」
顔なじみになったお姉さんにそう言われ、俺は再度後ろを振り返った。
ブラシを持ったマール。
実はレストラーデ王国の第一王女で、過去最大の懸賞金がついた賞金首。そしてその横には、ありえないほどの「運」をもったラッキーキャット族のナルモ。こいつはほうきを持っている。
俺はといえば、モップをかついでいる。
俺は受付のお姉さんに笑顔で言った。
「じゃあ<ダンジョンスイーパーズ>で」
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