第8話 仲間たちのあれこれ
マールは楽しそうに荷物をまとめている。まあ荷物と言ってもほんの少ししかないが。大きいものはベッドくらいしかない。
まとめてアイテムボックスに突っ込んでしまえば簡単だが、マールから
「それだと引っ越しの気分が出ないでしょ!」と怒られてしまった。
なのでいつもの荷台で引っ越しだ。
そんなマールにちょっと涼んでくると言って裏庭に出た。
家の前にある大きめの木に仕込んでおいたサインがなくなっていたのだ。いつも思うがよくこんな小さな印を見つけるもんだな。
しばらく裏庭の隅で待っていたら気配が近づいてくるのがわかった。
「ルッツか」
「はい、マスター!お久しぶりです!」
「お前も元気そうでなによりだ。国王自らこんな所にきて良いのか?」
「あはは、マスターが来いと一言いえばいつでも俺ら5人は集合しますよ。しかし今度はえらく若くなりましね」
「ああ、容姿はさすがに俺じゃ決められないからな。おっと昔話はまた今度だ。ルッツ、お前に頼みたいことあるんだが」
「なにを他人行儀な。以前みたいにただやれと言って下さいよ」
「ああすまんな。実は西のレストラーデ王国のことだ。最近の事件が知りたい。特に王家のな」
そこでルッツから聞いた事。
・レストラーデ王が事もあろうに実の娘のライム王女に殺された事
・そのライム王女は逃亡中で途方もない懸賞金がかけられている事
・王妃は哀しみのあまり、閉じこもっていたが最近になって自分の子供の ジョージを王位継承に薦めている事
・レストラーデ国の実際の執政機関である5人の有識者がそれを認めずに、ライム王女の生死確認をその条件に出している事
なるほど。だいたい俺の予想通りだな。
「でもその執政機関の5人は王妃の言う事を誰も信じてないとの事です」
「・・その王妃の手口、やつに似てるな・・」
「・・・・」
「
「ええ、おそらく」
妲己。
圧倒的な美貌を武器に国々の王に取り付き、その国からすべてを吸い上げて最後には滅ぼす希代の悪女だ。
年齢不詳で神出鬼没。いつも最後の最後で逃げられる。
「お兄ちゃ~ん、どこ~」とマールの声。
一瞬で姿を消すルッツ。さすが世界最高の忍びだ。
「おお、もうちょっと涼んでからにするから先に寝てろ」
「もう!荷物の整理手伝ってよ~」
「悪い悪い、すぐ行くから」
「今度はお兄ちゃんですか、でもずいぶん可愛い娘でしたね」
「ライム・フォン・レストラーデ。第一王女だ」
「はああ?・・さすがマスターだ・・やってくれますね・・」
「まあ、成り行きでな」
「これでマリアは喜びますな」
今度は俺が驚く番だ。
「!ま、待て!なんでここでマリアが出て来る!」
「あれ、言いませんでしたっけ?今、彼女はレストラーデの聖女ですよ、執政機関の5人の内のひとり」
なに~!!
「それにマリアはライム王女を溺愛していたんですよ。言ったらすごく喜びますね」
「・・それはいいんだが、マリアには絶対この場所のこと言うなよ!」
「あたりまえですよ。言ったら彼女は一直線、最短距離でここにすっ飛んできます。山も海も無視してね」
はあ~、ここでマリアが出て来るとはな・・。
「結婚の約束なんかするからですよ」
「ち、違う!それはマリアが勝手にそう思い込んでいるだけだ!俺は一言も言って無い!」
「まったく・・、あんな世界最高の美女をほったらかして・・。でも王女の件は俺も安心しました。まさか世界で一番安全な場所にいるなんて。ここならさすがの妲己も手を出せないでしょう。ちなみに今のマスターの職業ってなんですか?」
「掃除人だ」
「はあ?い、今何と・・」
「だから清掃だ、ゴミを拾って街を綺麗にする」
「まさかあの王女も?」
「ああ、毎日リヤカーを二人で引いてゴミを集めている」
「・・世界を救ったマスターと超大国の第一王女が掃除人・・」
「おいおい、それを言ったらあの王女にどやされるぞ。掃除こそ人の心を綺麗にするってな」
「なるほど、いい指導者になりそうですね」
「ということでせわしなくて悪いが、進展があればまた教えてくれ」
「今度来た時は、じっくり酒付き合ってもらいますからね」
「あっ!それとルッツ、<魔導士>っていうJOB聞いた事あるか?」
「いや無いですね」
「そうか、ならば悪いがミサトのところで聞いてきてくれるか?」
「了解です。それから最近ここら辺でモリノを見たやつがいるみたいなんでそのうちひょっこり現れるかもです」
「わかった、やつは俺よりアブナイからな」
「あはは、向こうも同じ事思ってますよ。最後にマスター、明日引っ越す家の物置にプレゼント置いといたんで。じゃまた」
と言って煙のように消えたルッツ。
なんだもう引っ越し先まで知ってるのか。
おっとさっさと家に入ろう。マールがうるさいからな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、引っ越すということで、清掃作業を昼までにしてもらった。
なので地下二階へは明日以降と言う事にして、地下一階の掃除、再度の見回りを行った。
「もうこの階は大丈夫そうね」とマール。
ああ、そうだな。あちこちにゴミ置場を設置したので、通路とかはひとつもゴミが落ちてない。
ということで昼前に俺とマールは上がらせてもらった。
家に帰り、荷物を積んで、最後に世話になったこの部屋の掃除だ。
もうここには来ないからと言って、そのままにして去ることは出来ない。
俺たちは清掃人だ。立つ鳥跡をなんとやらだ。
来た時よりも綺麗にして、最後に二人で家に向かって一礼した。
「よし新しい家に行くぞ!マール!」
「へい!あにき!」
俺たちはいつものリアカーを押して次に向かった。
やがて見えて来た一軒家。
早速荷物を引き入れるが、ここで更に掃除だ。
もう俺たちは掃除すること、綺麗にすることは息をすることと同じだ。
何も言わなくても、それぞれがやることをやる。
見るとマールは本当に楽しそうだ。埃まみれになっても泥だらけになっても、雑巾がけでびしょびしょになっても笑顔だ。
やっと夕方になって落ち着いてきた。
「とりあえずこんなもんか?」
「そうね、あとはぼちぼちとね」
今は部屋の真ん中においたテーブルで向かい合って夕飯だ。
明日は地下二階への挑戦だからたくさん食べとかないとな。
「・・お兄ちゃん・・本当にありがとう・・」と突然マールが泣き出した。ん?どうした。
「ゴミと一緒に捨てられたわたしなのに、いまこんなに幸せで・・」
いや、これも全部出会うべくして出会ったんたぞ、俺たちは。
「・・ねえ、お兄ちゃんって何者なの?」
ああ、こんな風に言われるのは何回目だろう。
どうしようも無い暴れん坊だったアレクセイを叩きのめしてから、それから二人で旅を続け、その間も何回もやり合った。アレクセイは俺が寝てる時、食事をしてる時、風呂に入っている時も構わず襲い掛かってきた。それをことごとく撃退していった。気が付けばアレクセイは自分の道というものを見つけていたな。俺はそれに少し手助けしたやっただけだ。
あの闇との最後の決戦の前の晩に、今のマールと同じことを言われた。
「なあ、アニキ、あんた何者なんだよ」と。
あのミサトも同じだ。
名前からして前世は日本人だということは分かっていた。
女の子一人でいきなり転移させられて、不安だったんだろう。
神殿から逃げ出して、森の中で迷っていた。俺も新しく転移したばかりで何もわからない。おそらく女神さまが、そんな俺たちを偶然出会ったようにしてくれたんだろう。
わんわん泣きながら俺に向かってまだ覚えたばかりの魔法を連発してた。
それらを全部受け止め、更に俺は言った。
「お前の力はそれだけか?情けないぞ!元の世界に帰りたいなら俺を倒してみろ」と。それからミサトとの魔法の訓練が始まった。彼女の怒り、悲しみのこもった魔法を全て受け続けた。こいつとも二人で旅を続けていた時ミサトから言われた。
「師匠!もう私は元の世界に帰らない!帰りたくない!だから教えて!師匠って誰なの!神さまなの?」と。
ルッツも、モリノもそしてマリアも同じだ。
俺の成長、いややつらの成長をすぐそばで助ける、見守る。
道を作るんじゃない。誘導するのでもない。
ただ彼らが歩きやすいように、目の前の道を綺麗にするだけだ。
ああ、なるほど!俺はこの時から掃除人だったんだな。
余計な石ころでつまずかないように、見えない落とし穴にはまらないように。まだ初心者のうちは、いくつかの未来を見せて、中級者になったら陥りやすい罠や甘言に注意を促し、自分というものが出来てきたら、もう関与せずに彼らが自由に生きられるようにする。
そうだ、俺の大好きだったあのRPGのヒーロー、ヒロインのように。
「マール、お前には俺が何も見える?」
逆に聞いて見た。
「え?・・恩人・・神さま・・大事なひと・・大好きな人・・いっぱいありすぎてわかんない・・」
「その中で一番マールが見たい人間は?」
「・・大好きなお兄ちゃん・・」
「ならばそれが俺だ」
「え?」
「違うんだったら、俺はそうなるように努力する。お前の望みは出来るだけ叶えてやりたい」
「・・お兄ちゃん・・うん・・うん・・それで・・いい」
マールを抱き寄せて言った。
「これからもよろしくな。俺の可愛い妹」
「うう、お兄ちゃん・・ううう」
「よし、じゃあ今晩から別々のベッドで・・」
「あっ!それはだめ!」
「え?せっかくベッドをもうひとつ買ってきたのに・・」
「それとこれとは別!」
ええ~、はあ、そろそろお前も兄離れをしてくれよ・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「くしゅん!ふえ~、熱があるみたい~」
次の日の朝、風邪をひいたみたいでマールに少し熱が出た。
「ほら、引っ越し頑張りすぎだ。汗びっしょりでそのままにしてたから」
「だって~」
「今日は一日、ゆっくり寝てろ。帰りに薬草と元気が出るうまい物買ってくるから」
「うう、くしゅん・・・」
というわけで、今日は俺一人だ。
掃除道具置場で道具を準備してたら、ルッツの言ってたモノがあった。
「あいつめ、まだこんなもの持っていたのか」
それは俺が愛用していた剣だ。もう使わないだろうとルッツに預けておいたのだ。
【ブーメランブレード】
一回の振りで7つの斬撃を飛ばせる 外れても再度敵に襲い掛かる
材質はオリハルコン
レア度:超反則級
もう俺は剣士でもないんだがな。でも懐かしいな。
とりあえずアイテムボックスに入れとくか。
それからさっきから気づいている事がある。
この家の周りを何人かのルッツの部下が守っている事を。
おそらく精鋭の忍びたちだろうな。
俺でもよほど気を付けないと分からないほどだ。
なので安心してマールを置いていくことが出来る。
ダンジョンに着いてサム親方に訳を話し、地下二階への清掃はマールが復活してからという事にして貰った。
だが、階段下の様子だけ見たかったので、一人で地下二階へ降りる事にした。今では筋力もかなり増えているため、ボス級の魔物でなければ俺一人でも十分対応できる。
なのでここは地下2階に降りてすぐの場所だ。
やはりここもゴミや捨てられた武防具が多い。
そこは広間のようなところで、3~4つくらいのゴミの山ができている。
まずはここから綺麗にして奥へ進んでいくかと考えていたら、そのゴミの山のひとつから「にゃあにゃあ」という声が聞こえる。
??
猫のようだが、こんなダンジョンにいるはずがない。
十分警戒してその声の方に近づいた。
暗くてよく見えないところにそれがあった、いや、それがいた。
古い箱の中に座って、手を淵にかけこっちを見てる。
よく見るとなにやら看板?立札?みたいなものがある。
読むと「可愛い猫ちゃんはいかがですか?」「愛くるしいというのはこの猫のこと!」「貴方は運がいい」「いまなら三度の食事だけで君の物に!」と汚い字で書いてある。
確かに猫だ。いや猫族か。普通の小さい女の子で猫耳としっぽだけが人間と違う。フードやマントで隠せは人間と変わらない。
「捨て猫なのか?」
と言ったら、そいつは首を縦に振ってる。
訝し気に見てたら、また看板に何か書き始めた。
「いよ!イケてるだんな!掘り出しものでっせ」と書いてある。
よし、見なかったことにしよう。
俺は知らない振りでその場を離れようとした。
「待つにゃ!」
え?話せるのか?
「にいちゃん、可愛いあたしが目に入らないにょ?」
よし、聞かなかった事にしよう。
逃げようとしたら飛び掛かってきた。
「ちょ、ちょっと待ってにゃ!もう何日も食べて無いにゃ!可哀そうにゃ!え~ん、え~ん」
うん、しらじらしい芝居だ。どうしたもんか。
とその時何人かの冒険者が近寄って来た。
「あっ、こいつだこいつ!以前俺の弁当取って逃げやがったやつだ」
「どうする?ここでぶっ殺すか?それとも奴隷商に売るか」
おっと穏やかじゃないな。しょうがない。
「お兄さん方、待ってくれ。こいつは捨てられていたんで、俺が拾ったんだ」と主張の指輪に念を込めて言って見た。
「なんだと!てめえの飼い猫か!だったら弁当代寄こしな」
え?あっ!しまった。そういえば・・。
その猫を見ると舌を出してる。くそ~、なんてこった。
もう<主張>してしまったんで、取り消しは出来ない。
俺は彼らに弁当代(だいぶぼられた)に払わされた。
冒険者たちはいなくなったが、そいつはまだ箱に入っている。
こいつにかかわらない方がいいな。
そう思い、地上へ戻ろうとしたが、そいつが後を付いてくる。
え?なんで?
「だってあたしのご主人さまにゃ」
なに?おう、そうなってしまうのか?
むう、よし地上に出たら、そのへんの草むらに捨てて・・。
「あ~!その目は、あたしを捨てようと考えてる目にゃ!そうはいかにゃいのだ!」
と今度は俺の足にまとわりついてきた。
くそ~、どうしてくれようか。こいつ。
しょうがない。
とりあえず家でご飯食べさせてからマールと相談するか。
そう言ったら、すぐに荷台の上に駆け上がり、
「ほれ!早く引っ張るのにゃ」と威張っている。
やっぱりどこかの草むらに捨てよう・・・。
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