第7話 綺麗なダンジョン
【レイナード side start】
ここはコウガ王国。
我が主である国王ルッツガルド・イエーガーに呼ばれたため、執務室でもある彼の自室に向かっている。
「はあ、まったく今度はなんだよ。また、宰相の仕事を増やす気かよ」
「おう!きたな。まあ座れ」
彼とは国王と宰相という関係だが、それ以前に友人でもある。
私は他に誰もいないので、くだけた話し方になった。
「なんだ?また訓練施設を増やしたいとかか?もう予算がないぞ」
「違う!違う!またちょっと留守にする用事が出来たんでな」
はあ?このクソ忙しいのにか?
見るとルッツは満面の笑みだ。
こいつがこんな顔をする理由は一つしかない。
「・・まさかと思うがマスターが見つかったのか?」
「おうよ!そのまさかだ!ある場所で例のサインが見つかってな。なんと俺が指名されたんだ!」
おう、やっぱりそうか。何年ぶりだ?マスターの出現は。
あの「大いなる闇の存在」の出現が約十年前の事だ。
いきなり各地の地中から、紫色の煙が現れて、人々の身体を蝕み始めた。
少しでもそれを吸い込んだ人間は見る間に衰弱し、1分でもその中にいれば致死性となる毒の煙。
薬も無く、神官の回復、毒の治療も効果はなく、あきらめかけていた時、ある人間の呼びかけで集まった5人の若者。
その5人に、これは極秘だが魔界の魔王までもその5人に加わり、死闘の末、見事地下深くに潜んでいた「大いなる闇の存在」を打ち滅ぼした。
その時の5人はその後<世界を救った5人組>として最大限の栄誉を持って迎えられた。
その5人のうちの一人がわが主だ。
この世界の北のはずれにあるコウガ王国。
俗にニンジャの国と呼ばれる。
素早い動きからの一撃必殺の技。
暗闇でも関係なく戦える眼力。
魔術とも違うニンジュツという妖しい魔法。
そしてその中で最も強い男が国王であるルッツガルド・イエーガーだ。
圧倒的に強いがその気さくな人柄で住民が増え、あっという間に大国の仲間入りになった。
ちなみに他の<世界を救った5人組>メンバーだが・・。
南側に広がるサウストリア全域を統治するのは、この5人組の一人、勇者 アレクセイ・ライトマイヤー。
ライトマイヤー共和国という名で、選挙制度で指導者を選ぶ国だ。
そこにオブザーバーとしてアレクセイがいるが、実際は彼の国というのが一般的な見解のようだ。
それほどまでに彼の存在は大きい。この5人組のリーダーとして先頭を常に進み、闇に立ち向かう。人間としても清廉で正直者であるためこの国への移住が後を絶たない。
そしてこの世界の中心付近にあるミッドメル国。
中央には世界最大の魔法を研究する機関がある。
その名をミッドメル魔法学院。
初代校長は、<世界を救った5人組>の一人、ミサト・ジョーノウチ。
魔法使いの頂点に立つ彼女には、扱えない魔法はなく、放たれる魔法の威力は最低でも天地を揺るがすとも言われている。
その魔法学院の周りに人々が住み、やがて街が出来、都市となり、やがて国となった。執政機関は、その学園の中心メンバーで執り行われる。
世界最強の魔法使いでありながら、その温和で柔らかい性格にひかれて移住する者も多い。
そして流浪の大聖女と呼ばれるマリア・ヴィクトリア。
戦いで負傷した戦士、冒険者を集めて降らす「奇跡の雨」はどんな傷、欠損部位でも完治すると言われる。また非公式だが蘇生も可能な聖女でもある。そしてなんといっても特筆すべきはその容姿だ、世界最高の美女と呼ばれ初対面の男は例外なく卒倒するとまでいわれている。
あっ、私もそうだったな・・。
ただ流浪と言われるだけあって、一つの国では満足せずに常に旅をしているようだ。そんな彼女は、今は西のとある国に滞在していると聞く。
最後の5人目は、謎に包まれているため多くは分かっていない。
風来人のモリノと呼ばれ、常にマントで全身を隠していて、男女の区別も不明だ。モンスターテイムと時空魔法の使い手と呼ばれているが今はどこにいるのかわからない。ただ仲間内ではその力は絶賛されており、たまにそれぞれの仲間のところにひょっこり現れるそうだ。
あと魔界の王については厳重に箝口令が敷かれているため、一切分かっていない。
そして彼らの中心には、わが王がマスターと呼んでいるこれまた謎に包まれた人物がいる。
<世界を救った5人組>を集めた人物としか分からない。
それも各国の最重要メンバーしか知らない情報だ。
一回だけ<世界を救った5人組>が全員集まった時に同席させて貰ったことがあるが、全員がその人物に心酔しているのがわかった。
呼び方も我が王がマスターと呼び、勇者のアレクセイはアニキと呼んでいた。魔法使いのミサトは師匠と呼び、大聖女のマリアに至っては、顔を赤くして私の旦那様と呼んでいた。
風来人のモリノもフードで顔を隠しながら、あんちゃんと呼んでいた。
また後で我が王に聞くと、魔界の魔王の無二の親友ということだ。
そのマスターが見つかったと言う。
生死も不明だったはずだが、我が王は少しヒントをくれた。
「マスターは、何度でも生き返るんだ。その度に違う人間、違う職業についてな」
信じられない事だが、我が王は嘘はつかないのでこれは真実だろう。
なので早く会いたくて子供のようにうずうずしている我が王をみてあきらめた。
「はあ・・わかった。用事が済んだらすぐ帰ってきてくれ。仕事を溜めておくぞ」と。
【レイナード side end】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少しずつだが、ダンジョン地下一階の奥へ進む事が出来ている。
ダンジョン協会の人に貰った地下一階のマップを見ながら進んでいる。
といってもマップ係はマールとアルラウネだ。
アルラウネはどうやら女の子のようだ。
マールはララちゃんと呼んでいる。
「そこの突き当りを右ね。すぐ横に休憩用のスペースがあるみたい。きっとそこもゴミの山だわ。あっ!ちょっと待って!ララちゃんが魔物が一匹いるって。・・えい!ふう、やっつけたわ。もう大丈夫!あらあ、やっぱり汚いわねえ、さあお掃除しましょ!」
もうこの階の魔物はマール一人でまったく問題ない。
先日のようなスライムの大量発生以外では俺の出番が無い。
このダンジョンは、魔物は一回倒したら終わりではない。しばらくすると同じ魔物や、ゲートボスやダンジョンボスも復活してくる。たまに珍しいミステリーボスなんかも突然出て来るので油断は出来ない。
だがマールの魔法使いとしての職業レベルも順調に上がっていて今は職業レベル8だ。今ではいかに威力を抑えるかということに努力している。普通と反対だぞ、それ。
また俺の掃除人の職業レベルも同じく8まで上がっている。
なので二人ともSL③の各スキルも取得済だ。
ちなみに以下がマール。
【一般スキル】
<火魔法> SL①:ファイヤ
SL②:ファイヤボール
SL③:ファイヤアロー
炎の矢を投擲する 貫通性あり
ファイヤボールより威力は上
<水魔法> SL①:ウォーター
SL②:ウォーターボール
SL③:ミストウォール
霧の壁を生成し認識を阻害する
<風魔法> SL①:ウィンド
SL②:ウィンドバリア
SL③:ウィンドアタック
周囲の木の枝や棒などを浮き上がらせて
敵に投擲する
<土魔法> SL①:クレイ
SL②:アーストリック
SL③:グラウンドアップ
地面を隆起させる
<雷魔法> SL①:スパーク
SL②:ボルトショット
SL③:スパークチャージ
物体に帯電させる
<召喚魔法>SL①:アルラウネ
SL②:狛犬
SL③:ウリ坊
召喚者が狙う対象に突進する
10体まで出現可能
俺は・・・。
【一般スキル】
<清掃> SL①:掃除用具装備可能
SL②:吸い寄せ(半径3mのゴミを一か所に集める)
SL③:重量軽減(重たい器具やゴミ等を少し軽くする)
<裏・清掃> SL①:裏・掃除用具装備可能
SL②:吹き飛ばし(半径3mのゴミを吹き飛ばす)
SL③:斬撃(剣の斬撃と同じ 裏・掃除用具専用)
ちなみにマールの召喚術のSL②とSL③はまだ出現させてない。
まあ、もっと地下深くなってからの出番だな。
ここの地下一階をマールと一通り見て回ったが、やはりゴミが多いのは地上への出口と地下二階をつなぐ通路だ。次に冒険者が休憩できるほどの大きさで見通しの利く場所。
このふたつ以外はさほど汚くはなかったので、しらみつぶしに掃除しなくてよさそうだ。
となると後は地下二階へ降りる階段あたりだけになるな。
なじみの冒険者に聞いたところ、地下二階も同じような散らかっているとのこと。地下五階あたりからゴミが気にならないと言っていた。
ならば、当面は地下四階までを目標にしよう。
地上に戻り、サム親方にその旨相談したら、快くOKしてくれた。
あの地下一階の綺麗さを見た冒険者が皆絶賛していたことのこと。
かつ、初めてこのダンジョンに入った冒険者からも他のダンジョンにはない快適さでまた来たいという感想もあったようだ。
う~ん、じゃあその他のダンジョンってかなりやばいかもと思ってマールに話したところ、「でもこのダンジョンくらいなんでしょ?季節ごとに変わってアイテムなんかも増えるのは」と。
なるほど、そう言われてみればそうだな。
他のダンジョンはゲートボスやダンジョンボスを倒した時に宝箱が出現するくらいだ。だから壊れた武器は捨てられるが、それ以外はみんな持ち帰るだろう。
とりあえず地下一階についてはこれで清掃終了という事になった。
明日からはいよいよ地下二階へ挑戦だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ダンジョン内部の清掃業務が軌道に乗ってから、俺たちの生活環境も格段に改善されてきた。
まず魔石の換金だ。地下一階なのでそれぞれが大したことがない金額だったが、それでもどんな魔石でもパンひとつは買える。
以前大量に入手したブルースライムの魔石は思ったより高額で換金できることがわかった。だいたいひとつで、ちゃんとした食堂で食べれるくらいに。しかもそれがあと何百もある。
まあ、一気には売れないので小出しにはしてるが。
なので普段着や、家の中の小物なんかは、ちょっとずつ良い物になっていった。食事なんかもふたりでお腹いっぱい食べられるくらいになった。
今は引っ越しを考えている。
マールのためにちゃんと風呂もある部屋だ。
そのためいろいろと物件を見て回っている。
そんな時のマールはやたら機嫌がいい。
新しい部屋を見るたびに、「うふふ、これが二人の愛の巣ね」とか、
「将来に備えて子供部屋も」とか言っている。
おいおい、新婚夫婦だぞそれ。
今日もそんなハートマークを目に浮かべているマールを連れてあちこち見てまわっている。貸家の多くは、地方からやってくる冒険者にためにギルドが確保してあるのだ。俺たちはその一覧というか地図を貰って、じっくりとあちこち巡っている。
「あ、これ良さそう!」
とマールが言ったそこは小さな一軒家だ。
今の家みたいに長屋形式で連なっているのではない。
古いが造りはしっかりしている。裏には庭があり、しかも隅には物置もある。掃除道具置場にぴったりだ。
ダンジョンへ向かう街の出入り口にも近い。
俺たちは一旦冒険者ギルドに行って鍵を貸してもらった。
これで中に入れる。
中に入って驚いた。なんというか落ち着ける家だ。部屋がふたつあり、キッチンも別にある。なにより風呂場がついているのもいい。
二階は無いが、それでも今の家より3倍は広い。しかも一軒家。
「決まりね!」とマール。
値段はそこそこだったが、今の俺たちで払えない金額では無い。
まだ換金してないレアなお宝はアイテムボックスに豊富にあるしな。
ということでギルドに戻り正式に契約した。
明日、ダンジョンから帰ってきたら引っ越しだ!
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