第6話 初めてのダンジョンアタック

夏季ダンジョン解禁から1週間。

一時期のお祭り騒ぎは、やや静まってきたがまだしばらくは続くだろうな。サム親方に聞くと、始めの一か月は誰もが魔物討伐、お宝探しに明け暮れ、次の1か月はゆっくりと探索するパーティがやってくると。

そして次のダンジョン再創成までは、レベル上げ、各種魔石採取クエスト、そして「願いの箱」探しが中心になってくると。


今回親方経由で持ち込んだダンジョン内部の清掃の話は大歓迎だそうだ。

もちろん再創成直前なんかは掃除の必要が無いが、逆に今の時期は通路も通れないほど、ゴミが溢れかえっていると。


ただ今回は初めてという事もあり、俺たちに注目が集まってしまうのを避けるため事前にダンジョン協会から、掃除人が入って清掃するとアナウンスしてくれたそうだ。なので訝しげに寄ってくるとか、ちょっかいを出されることはなさそうだな。


ということで、親方や先輩たちに見送られ、俺とマールはダンジョン地下一階に下っていった。

ちなみにダンジョン入口のステータスチェックは問題無しだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うわあ、たくさんある~!なによこれ!ゴミ屋敷じゃないの!」

地下に入った途端、捨てられたゴミがうず高く積もっていた。

さっそくマールが悪態をついてるが、実は呆然としてしまった。

まさかこれほど汚いとは思わなかったからだ。

でもやるしかないな。俺たちはそのために来たんだ。


まずいつものように、<鑑定>をしながら不用品をどんどんリアカーの荷台に積んでいく。一杯になったら、合図をして上にいる仲間たちに引っ張り上げて貰う。

地下一階へは階段のほかに緩いスロープもあるため、そこを使ってリアカーを引っ張るのだ。

やがて空のリアカーが戻って来るので、同じ作業の繰り返しだ。

ここで捨てられた武器、防具、アイテムの量は、上の広場と比べ物にならないほど多い。

まあそうだよな。捨てるならわざわざ外に持っていくことはないからな。

昼になったので、一旦昼食休憩のため、地上に戻った。

なんだか、手伝って貰っている先輩たちが嬉しそうだ。

理由は簡単だ。上に運び出すゴミの中に、そこそこのお宝を紛れ込ませたのだ。それもすぐ分かる上の方に。

もちろん見つけた者の早い物勝ちなので、毎回彼らでもめてたそうだ。

あはは、でも本当にいい物はすべて俺たちのアイテムボックスにあるのさ。


ということで、外へのゴミの運び出しも喜んでやってもらうことになった。午後も夕方まで階段近辺の清掃に終始してしまったので、マールの魔法の出番はなかったな。

まあそのうち奥に進むので焦らずいくことにする。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここは仕事を終えて、街へ帰る途中のいつもの魔法練習用の空き地。

一日中ダンジョン内で清掃してたから、さぞマールは疲れているかと思っていたのでパスするつもりだったが、「全然平気」とのことだ。

ああ、そうか。装備で筋力や体力を大幅に増やしたからな。

そういえば、重たいはずの武器なんかは軽々持ち運んでいたな。


あれから、魔法の威力の調整は順調にいってる。

今では普通の魔法使いと同じくらいの小さい炎が出来るようになっている。だが小さくても威力が変わらず物凄い。今は小さい火で小さい効果になるように練習中だ。


「ねえ、この【ユニークスキル】<全てを慈しむ者>ってなあに?」

自分のステータスボードを見ていたマールがいきなりそんなことを言ってきた。そういえば、そんなのあったな。

清掃や戦闘に関係なさそうなので、後まわしにしてたが。

なのでマールのステータスボードのその箇所に向けて<鑑定>を。


【ユニークスキル】

<全てを慈しむ者>

その者への愛情の深さにより変化する回復術

手をかざすことで可能


え?回復してくれるの?

「ねえお兄ちゃん!どこか怪我して無い?わたしが治す!」

い、いやちょっと待て、今は大丈夫だ・・。

「ちぇ~、せっかくどこまで治せるかやってみたかったのに」

うう、なんか実験台にされそうだな。


とその時岩陰でなにやらごそごそと音がした。

??

え?魔物?確かに魔物だ。でかい!1mくらいで硬そうな甲羅を持っている。アルマジロ?名前は分からないがとにかくそんなやつだ。

早速<鑑定>して見る


<キラーアルマジロ>

性格は凶暴 目の前の動く物に突進する傾向あり

下級魔物 魔石は武具を固くする材料となる 弱点は雷 腹


「マール!魔物だ!いけるか?雷に弱い!」

「任せて!」

その返事が終ると同時にマールの指先から明らかに雷?放電?みたいな白い光が伸びて、その魔物に当たった。

<雷魔法>のSL①:スパークだ。

「キュイイ!!」という声と共にひっくりかえり、じたばたしてる。

次にマールは、<火魔法>のSL①:ファイヤを同じくそいつの腹に向けて放った。あっという間に燃え上がり、「ギュルウ!!」と叫んでそいつは煙となって消えていった。そして残ったのは魔石がひとつ。

「やったやった!」と喜ぶマール。

うん、初戦闘としては上出来だ。

各魔法の威力は物凄い。しかも詠唱時間はほとんどなく、すぐに次の魔法が発動出来る。すごいなこいつ。


その後同じ魔物が何匹か出て来てこれも同じようにマールが全て倒してた。「あれ?レベルが3に上がったよ」

おお、そうか!よし後は家に帰って検証するぞ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


家の裏には、ここら辺一帯の住民のための共同井戸がある。

俺はそこから大きい桶に水を汲んで部屋の中にあるこれも大きいたらい?いやもうこれはバスタブだな、に水を入れる。


それを何回か繰り返すと今度はマールがそこに火魔法を当ててお湯にする。やっぱり女の子だから風呂に入りたいだろう。今までは、たらいでの水浴びだったから、座って入れるくらいのでかい桶を買って来たのだ。一人用の風呂だ。もちろんそれはマール用で、俺は他の住民と同じように井戸からの水をかけて洗う。今は夏だから問題ないが、そのうち俺も風呂に入るつもりだ。


あれから怪しまれないように少しずつアイテムやらを売って少し貯えが出来てきたのだ。食事も2~3日ごとに肉も食べられるようになった。


だが非常にまずい問題が出て来た。

風呂上がりのマールをまともに見ることが出来なくなってきたのだ。

まだ髪は短いままだが、それでもこいつの美しさはありえない。

しかもまだ12歳だろう?15歳の成人になったら、こいつを巡って男ども、いや国同士が争うぞ。

そのため家にいても、あの美人度を下げるマスカレードマスクを付けてくれと頼んでも、「お兄ちゃんが良く見えないからイヤ!」ということでかけてくれない。

まあ少なくとも仕事や買い物には付けてくれるが・・。


今日はマールの初戦闘というお祝いを込めて、屋台で買って来た肉の串焼き、野菜がたっぷり入ったスープ、サラダ、少し硬いがたくさんのパン、それと果物ジュース。

「わあ、すご~い!嬉しい!」

むむ、お前は以前はもっとすごい食事をしてただろうが。

「違うの、お兄ちゃん!こうやって安心して、ゆっくりと楽しく食べれることが一番なのよ!それもこの世で一番大好きな人と」

お、おう、そ、そうか。


食事も終わりマールのステータスの検証だ。

職業レベルが3になったので各種の魔法のSLスキルレベル②が取得できる。で早速SPスキルポイントを【一般スキル】全部に割り振って貰った


【一般スキル】

<火魔法> SL①:ファイヤ

      SL②:ファイヤボール  

          炎の玉を相手に投げる事が出来る

          大きさ、威力は詠唱者の知力に準ずる       

<水魔法> SL①:ウォーター

      SL②:ウォーターボール  

          水の玉を相手に投げる事が出来る

          大きさ、硬さは詠唱者の知力に準ずる 

<風魔法> SL①:ウィンド

      SL②:ウィンドバリア    

          風の幕を作成する

          軽微な攻撃、矢、魔法を受け流す

<土魔法> SL①:クレイ

      SL②:アーストリック

          落とし穴を任意の場所に作成する

<雷魔法> SL①:スパーク

      SL②:ボルトショット

          軽微な電気ショックを与える         

<召喚魔法>SL①:アルラウネ 

      SL②:狛犬

          召喚者に害をなす者から守る

         

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


やっとダンジョン地下一階のスタート地点の周りが綺麗になってきた。


綺麗な場所だと、冒険者はあまりゴミを捨てない。

汚い場所だと、捨てていく。なるほどな、まあ気持ちはわかる。


今はその階段付近の一角に廃棄スペースを作ってロープで囲ってある。

大きく「ゴミ置場」と立て札も作った。これだけで全然違う。


しかも最近では、そこのゴミ置場から使えるものを探し出すやつも出て来た。古くなった武器をそこに捨てて、少しでもいい武器を拾ってまたダンジョンに潜る。一種のリサイクルだな。

でもやはり一番いい物は、俺がすぐGETしてしまうが。


俺たちのこういった清掃作業が認められて、今では俺たちの仲間もこの入り口まで降りてきている。

まあ奥には進めないが。

俺とマールは、そんな入口を仲間のみんなに任せて、もう少し奥に入ることにした。


「お兄ちゃん気を付けて!何かいるって!」

順調に奥へ進み、とある小部屋に入ろうとしたときにマールが叫んだ。

教えてくれたのは、<召喚魔法>SL①で取得出来たアルラウネだ。

小さな人間のように見えるが、どうやら植物系の妖精とのこと。

今はマールの服の胸元から顔を出している。

その妖精からは「きゅ~きゅ~」と声が出ているが、何を言っているのか俺にはさっぱりだ。どうやら召喚者であるマールにしか分からないようだ。この妖精は魔物の探知や、ワナも見つけてマールに教えてくれている。


俺は入口からその部屋の中を覗いてみた。

うわっ!なんだこれは・・小さくぶよぶよした魔物が床一面にいるぞ。


<ブルースライム>

性格は温和だか、放って置くと無限に分割し増え続ける

見つけたら全て退治することが望ましい 弱点は火と雷 水は無効

下級魔物 魔石は需要が多いため良い換金アイテムになる


う~ん何百体いるんだ、こいつら。たぶんいまでも増え続けているんだろうな。


「よし全部退治するぞ!」

「え~、どうやるの?」

「俺に考えがある。まずこの部屋を水浸しにする」

「え?水って無効じゃないの?」

俺はマールに自分の考えを話した。

「え?ええ~~!!うわ~、それなら大丈夫かも!」

「じゃあ行くぞマール!」

「がってんだ、親分!」


ここで「濁流のモップ」を部屋の入口の床にたたきつけた。

見る間にそのモップの毛先の部分から大量の水が流れ出てきた。

流されるブルースライムもいたが、まったくダメージは与えられてない。


「マール!頼む!」

「うん!ボルトショット!」

と指先から白い放電を、床の上の水に向けて放った。

途端、水全体が青白くバチバチと音を立て始めた。

そうだ、水を媒体にして電気ショックを与えたのだ。

これには、全ブルースライムはひとたまりも無く、あっという間に大量の魔石となって消えていった。


俺の足元は「万能長靴」で一切感電はしないし、マールは放った本人なので感電はしない。

次に、清掃スキルSL②の<吸い寄せ>を使い、半径3mの魔石を一か所に集めていく。それをマールが大急ぎで回収していく。

後には何もない部屋が残るだけだ。まあ水浸しだが・・・。


ここで経験値が大量に入りマールのレベルが3から5になった。

ちなみに俺のレベルもひとつ上がっていた。

清掃?掃除?が評価されたのか?う~ん。


さすがに水浸しではまずいので、普通のモップで水を掻き出していたら、何人かの人間の声が近づいてきた。

「ここか?ブルースライムが大量発生した部屋は」

「ええ、何百体もいましたね」


「って何もいないぞ?本当のこの部屋なのか?」

「え?ええ、確かに・・」

「おい、そこの掃除の君たち!」


「はい、俺たちですか?」

「ああ、ここって大量の魔物がいなかったか?」

「いえ、俺たちが来たときには水浸しだったんでこうやって掃除を」

「う~ん、誰かが既に退治していったのか?痛っ!あれこの水少しびりびりするな」

「ええ、そうなんですよ。だから掃除しにくくて」としらじらしく俺。


「もしかしたら、他の冒険者が雷の魔法で退治したのかもな」

「でもあれだけの魔物の魔石、全部と取ったらひと財産できるぞ」

「お前たち、魔石取らなかったか?」と俺に言ってきた。

「ええ、確かめてください」と言って荷物や荷台を彼らに見せた。

すでに魔石は全部アイテムボックスに入っているので絶対ばれない。


「う~ん。本当だこいつら一個も持ってないぞ。よくわからんが、とりあえずこれで問題は無くなったな。お前ら邪魔して悪かったな。掃除を続けてくれ」


やがてそいつらは頭をふりふり戻って行った。


いなくなったのを確認して、俺とマールはハイタッチだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る