第5話 表の装備と裏の装備


俺は唖然として言葉も出ない。

まさかあのレストラーデ王国とはな。


レストラーデ王国。

西のはずれに位置する超大国。

たしかあの国は、王家と国を統治する機関がはっきりと区別されている国だ。王家は国の象徴として存在し、実際の国の運営は、宰相、英雄、大賢者、勇者、大聖女の5人によって執り行われていると。


だが今は象徴となっている国王が、実際の全ての実権を握っていると聞いた事がある。その国の第一王女?しかも王位継承権第一位?


だが今はそんなことを考えている場合ではない。

次に進まないと。

「マール、聞いてくれ。ここにあるスキル書がある。これをお前に習得した貰いたいんだ」

「え?なんで?お兄ちゃんじゃないの?」

あはは、俺はしがない街の清掃人だぞ。そんな俺よりお前の方がどんなにふさわしいか・・・。

「・・お兄ちゃん・・その言葉・・今すぐ・・今すぐ取り消して!」

え?

「なによ!なんでお掃除する事がそんなに悪い事なの!はずかしいことなの?違うわ!街を綺麗にすること、この仕事がどんなにすばらしいか!ゴミが一つも落ちてない道がどんなに輝いてるか!・・みんな笑顔なのよ・・綺麗な街に住んでいることが・・だから・・だから・・そんなこと言わないで!自分のことそんなに言わないで!・・わたし、お兄ちゃんと一緒に暮らせてやっと分かった事があるの・・・お掃除大好きなの・・そうわたしが出来ること・・今のわたしに出来る事・・ひとつでもゴミを拾う事・・ゴミをひとつ拾うことで笑顔がひとつ増えるのなら・・わたし・・わたし・・ううう」

ああ、ああ、ごめんなマール・・俺が悪かった。

そしてもう一度強くその身体を抱きしめた。

俺の胸で泣きじゃくっている存在に言った。

「でもこれをお前に覚えて貰いたいのは本当なんだ」

「・・うう・・うう・・そうなの・・なんで・・」

「お前と二人で生きていくことのためだ」

「え?」

「俺はお前の前に立って、敵を、不安を、悪夢を蹴散らす。お前には俺の後ろ、いや背中を守って貰いたいんだ」

「・・わたしが・・お兄ちゃんの・・背中を・・」

「いやか?」

「・・ううん!いやじゃない!それ!あたしがやる!」

「だからお前には強くなって欲しいんだ。わかるか?」

「・・うん!うん!わかった!」


俺はマールの頭の上に【召喚術の書】を置いて祈りを捧げた。



【名 前】 ライム・フォン・レストラーデ

      (レストラーデ王国 第一王女 王位継承権第一位)

【年 齢】 12

【JOB】 魔導士 

【職業レベル】 1

【一般スキル】

<火魔法><水魔法><風魔法><土魔法><雷魔法><召喚術>

【特殊スキル】 

【ユニークスキル】

<全てを慈しむ者>


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


さっきまで残りの未鑑定アイテムの<鑑定>や整理をしてようやく終わったところだ。

マールが魔導士という聞いたことが無い職業だったこともあり、急遽それに見合う武器や防具を探していたのだ。

使用出来る一般スキルを見る限りだと、これは魔法使い職に近いだろう。

神官職になると解放される<光魔法>や<闇魔法>と同じに、魔法使い職だと、<火魔法><水魔法><風魔法><土魔法><雷魔法>の五つが一気に解放されるからだ。


「マールって魔法使ったことあるのか?」

「覚えてないけど、たぶん使ったことない」

ああ、そうかまだ全部思い出してないんだったな。


ここで困ったことが出てきた。

お互いのレベルアップの方法だ。

俺は掃除人なので、掃除をするとおそらく経験値が入る。だがマールは?

そうだ魔法を使わなければ経験値が入らない。おそらく魔物を倒すことが一番の近道だろう。


俺とマール。

二人で掃除すると、俺にだけ経験値が入る。

二人で魔物討伐すると、マールにだけ経験値が入る。


二人で何かしながら、両方に経験値が入るような仕事ってあるんだろうか。う~ん、悩ましい。


そんな事をあれこれ考えていた俺にマールがヒントを出してくれた。

「ダンジョンをお掃除するというのはどう?」

え?今でもしてるだろ?

「ううん、違うの。ダンジョンの周りの広場や道や、エントランスホールじゃなくて、ダンジョンの地下」

はあ?

「ダンジョンに潜るのか?」

「うん、お兄ちゃんは掃除をして、わたしは魔物退治をするの」

・・むむむ?それって・・、掃除人と魔法使いのパーティだと?

前代未聞だぞそんなの・・でも・・なるほど・・もしかしたら。


明日、親方に聞いてみるか・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はあ?何言ってるべ。そんなの許可出来るわけないっぺ」

とサム親方。

この人は俺がこの世界にきて初めて知り合った人でかつこのダンジョン全般の清掃を担当している俺たちの元締めみたいな人だ。


「でもダンジョンの中って本当に綺麗なの?」とマール。

「え?オラも入ったことねえからわからんけんど、問題ないんじゃねえべか?」

「いや親方、深い階層はそうでも、浅い階層、特に地下1階とか2階とかはひどいもんだって聞いたことあるぜ」と先輩が助け船を出してくれた。

「ああ、なるほどな。ほぼすべての冒険者が通るからか」と親方。

「じゃあ試しにその地下1階だけ限定で綺麗にするってのはどう?」と俺。


「じゃがなあ、そんな冒険者雇う金はねえずら」

「いや、まずは俺とマールでやってみるよ。地下一階クラスの魔物なら二人でなんとかできるからさ」

「う~ん」

「じゃあ絶対地下二階には行かない事、弱い魔物だけ相手にすること。危なくなったらすぐ逃げることを約束するから!ねえお願い親方!」とマール。この親方はなにげにマールに弱い。むむ?スケベオヤジめ。

「よし、試しにやってみるべな。だがボーナスとか出せんぞ。それでもいいか?」

「おお!」「わ~い」

「わかった、オラから冒険者ギルドとダンジョン協会に話しをつけとく。だがくれぐれも気イつけてな」


だが今はまだ解禁して間もないため、まだ内部は冒険者で混雑しているとのことだ。しかもまだ捨てられるお宝は多いので、3日後からという事になった。


その日も、<鑑定>を活かしていろいろなお宝を持ち帰ってきた。

ただ終了時間は1時間だけ早くした。何をするかと言えば、マールの魔法の練習だ。荷台を二人で引きながら、街への帰り道の途中、少し道を外れて開けた場所にきた。


マールの職業レベルはまだ1なので、とりあえず<火魔法>のSLスキルレベル①の「ファイヤ」を取得した。

他の水魔法とか風魔法のSL①も覚えられるが、まずは火で練習してからだ。


「よし、この的に向けて「ファイヤ」を出してくれ」と俺は捨てる予定の盾を土に差しておいた。

「うん、やってみるね!」


魔法の発動のやり方について、マールが最近仲良くなった冒険者の魔法使い(綺麗なお姉さん!)にそれとなく教わったものだ。

本当は俺の方から教えてもいいんだが、以前の俺の知識は極力使わないようにしている。


「いい?マールちゃん、とにかくイメージが大事なの。自分でその火をイメージするのよ。始めは本当に小指の先ほどの火しか出来ないけどね。少しでも火が付けば後は練習あるのみよ。だんだん大きくなっていく炎を見ると本当に嬉しくなっちゃう」

「なんか呪文みたいな物はあるの?」

「う~ん、ひとそれぞれね、無詠唱でもどっちでもいいんだけどね。あたしは心の中で「出でよ、ファイヤ!」とか唱えているけど、なかには声を出した方が気合が出ると言う先輩もいるから自分でいろいろやるのがいいわ」


「じゃあ、やるよ!お兄ちゃん!」

と言って小さな手を併せて祈り出したマール。

そしてそのまま前に突き出したら・・。


え?うそだろ・・。

確かに最初は小指の先ほどの炎だったぞ。

見る間に腕の長さ、それもすぐ超えて1m・・それでもどんどん長く。

「マ、マール!ストップだ!ストップ!」

だが聞こえなかったのか、その巨大な炎をさっきの的へ向けたマール。そして盾に到達した瞬間、轟音とともにその土台の土ごと吹っ飛んだ。俺もその爆風で1mほど飛ばされた。

「お、お兄ちゃん!大丈夫?」

「・・・ああ、大丈夫だ、それよりお前本当に初めてなのか?魔法」

「うん、本当なの!」

ああ、確かにそうだな、レベル1だったもんな。

・・あっ!もしかして・・・。


「マール、お前のステータスでパラメータ部分をみせてくれ」

どうせ低いだろうと思って、今までは見たこと無かったが・・・。

【名 前】 ライム・フォン・レストラーデ

【レベル】 1

HP   9

MP 304

筋力   5

体力   7

知力 341  

魔力 298

敏捷   8

運   11


・・なんだ・・こんな極端なパラメータ見たことないぞ・・。

筋力は力、体力はHPの基準となるため、これらのパラメータは剣士や戦士等で重要視される。魔法使い系は知力は魔法の威力に関連し、魔力はMPの基になる。


・・他の魔法もとんでもないのか?

俺はマールにその他の魔法のSL①を全て取得してもらった・


【一般スキル】

<火魔法> SL①:ファイヤ

          炎を生成する

          大きさは詠唱者の知力に準ずる

<水魔法> SL①:ウォーター

          水を生成する

          量は詠唱者の知力に準ずる

<風魔法> SL①:ウィンド

          風を起こす

          風力は詠唱者の知力に準ずる

<土魔法> SL①:クレイ

          土の固まりを作成する

          大きさ、硬さは詠唱者の知力に準ずる

<雷魔法> SL①:スパーク

          軽微な電気を発動する

          強さは詠唱者の知力に準ずる

<召喚魔法>SL①:アルラウネ

          女性の姿をした植物モンスター

          探知探索に有用


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あのあと<召喚魔法>以外を試してもらったが、どれも予想をはるかに超える威力だった。

今は家に着いて食事の準備をしているが、マールはしょんぼりしている。

「あんな威力が高いとダンジョンで使えないね・・はあ、どうしよう」

可哀そうだな。少し助け船を出してやるか。


「なんだ、マールらしくないぞ。いつもの元気はどうした?」

「だって~」

「あはは、あの冒険者のお姉さんに言われた事をすればいいんだよ」

「え~?でもあれはどんどん大きくしていくんだよ・・。あれ以上大きくなったらダンジョン壊れちゃうよ・・」

「だからさ、逆に考えろよ」

「・・え?逆?小さくなるように念じるの?でもそんなこと・・あれ?・・ええ?・・そうなの!ああ!出来るかも!!」


・・まったく、普通の魔法使いは全員が威力を高めるために精進してるというのに、こいつは威力を抑える方を考えるのか。

誰もいなかったぞ、そんなの。

「うん!うん!なんか出来るかもしれない!お兄ちゃんありがとう!」

あう、こ、こらお湯を沸かしている時に抱き着くんじゃない!


「だからその力を制御できないとダンジョンにいけないんだぞ」

「うん!わたし絶対にものにして見せる!」

「わかった、それまで俺以外の前で魔法は使用禁止だ、いいな」

「おう!えへへ!」


それから昼間は清掃&落とし物拾い、夕方は離れた空き地でマールの魔法の練習、夜は持ち帰った武器防具、アイテムの<鑑定>。

それから装備の充実も併せておこなった。

拾ってきた武器のなかから、マールに合いそうなものを選ぶ。


【守りのワンド+15】

装備者の筋力、体力の両パラメータに+10される

付加価値がその分上乗せされる。

レア度:超レア級


【半減のスタッフー20】

装備者の知力、魔力の両パラメータを半減する。

付加価値がその分上乗せされる。

レア度:超レア級

まあこれは、マールの魔法の威力が落ちなかった時の保険だな。

出番がない事を祈ろう。


ちなみに俺の武器は前回取得した「濁流のモップ」だ。

まだ「濁流」の部分は不明だが、棒の部分がかなり丈夫で武器としても十分だ。


次にマールの装備だ。

【マジカルハット】

魔法使い専用 魔法詠唱時間33.3%短縮

レア度:レア級

  

【涼風のチュニック】

攻撃、魔法攻撃の威力を40%受け流すことが出来る

レア度:超伝説級


【俊足のブーツ+25】

敏捷に+20される

付加価値がその分上乗せされる

レア度:超伝説級


そして俺。

【剛腕のグローブ+30】

筋力に+20,体力に+30される

付加価値がその分上乗せされる

レア度:反則級


【ミスリルベスト+20】

ミスリル糸で作られたベスト 体力に+10される

付加価値がその分上乗せされる

レア度:伝説級


【万能長靴+30】

裏・掃除用具  床からどんな影響も受けない

敏捷に+30される

レア度:伝説級


【身代わりのペンダント+3】

致死性の攻撃を受けた際、身代わりとなる 運+10

付加価値の数字が使用できる回数

レア度:伝説級


これは俺とマールがひとつずつ持つ。


そして二人ともこの上に掃除中に着るマントをはおる。

これでレアな防具はほぼ隠れる。


この結果、マールのステータスはこうなっている。

【名 前】 ライム・フォン・レストラーデ

【職業レベル】 1

HP    9(+68)

MP  304 

筋力    5(+25)

体力    7(+25)

知力  341  

魔力  298

敏捷    8(+45)

運    11(+10)

【装備】

「守りのワンド+15」

「マジカルハット」

「涼風のチュニック」

「安寧の指輪」

「俊足のブーツ+25」

「アイテムボックス(小)付きベルト」

「マスカレードマスク+50」

「身代わりのペンダント+5」


ちなみに一般的な冒険者は、レベル1の時各ステータスが5~12だ。

そしてレベルアップの度に、各スタータスが0~+3ぐらいでUPしていく。なのでどれほどマールの知力と魔力が桁違いというのは分かるだろう。


そしてこれが俺のステータスだ。

【名 前】 ケンタ 

【職業レベル】 5

HP  149 

MP   12

筋力   19(+50)

体力   20(+60 +30)

知力   13  

魔力   10

敏捷   13(+30)

運    11(+10)

【装備】

「濁流のモップ」

「剛腕のグローブ+30」

「ミスリルベスト+20」

「万能長靴+30」

「身代わりのペンダント+3」

「主張の指輪」


うん、だいたい満足のいく装備になったな。

だがここでもうひとつやることがある。

ダンジョンの地下一階に降りる時、必ずステータスのチェックをされるのだ。当然、こんなレアもので装備を固めた掃除人なんているわけもない。

なのでここは俺の【特殊スキル】<ステータス操作>の出番だ。

これは、初めて女神さまに会った時から使っているスキルだ。

転生人だとJOBや職業レベル、ステータス等が説明出来ないものがほとんどだからな。


そのため、他の人間やチェック用の水晶玉には俺たちはこんなふうに見えているはずだ。


【名 前】 ケンタ 

【年 齢】 15

【JOB】 掃除人

【職業レベル】 5

HP   35 

MP   12

筋力   19

体力   20

知力   13  

魔力   10

敏捷   13

運    11

【一般スキル】<清掃>

<清掃 SL②>

【特殊スキル】

【ユニークスキル】 

【装備】

「掃除用貸出モップ」

「掃除用貸出エプロン」

「掃除用貸出長靴」



【名 前】 マール

【年 齢】 12

【JOB】 魔法使い

【職業レベル】 1

HP    9

MP   12  

筋力    5

体力    7

知力   11  

魔力   10

敏捷    8

運    11

【装備】

「ワンド(下級品)」

「魔法使いの帽子(下級品)」

「掃除用貸出マント」

「掃除用貸出長靴」

【一般スキル】

<火魔法 SL①><水魔法 SL①><風魔法SL ①>

<土魔法 SL①><雷魔法 SL①>

【特殊スキル】 

【ユニークスキル】


これで準備は整った。

いよいよ明日からダンジョン内部の掃除だ!

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