第4話 本当のわたし


朝、太陽が昇る前に起きた。

今日が夏季ダンジョンの解禁日二日目。

解禁して一日近く経つがこの日こそ俺たち掃除人の書き入れ時となる。

夜中になってからダンジョンから帰還してくる冒険者パーティが最も多いからだ。しかもふらふらになって地上について、目当ての武具防具アイテムを入手できたやつらは、そのほかのそこそこいいアイテムなんかは結構捨てていく事が多い。まあ眠いと言う事もあるんだろうな。


そのため日の出とともに作業を開始する必要がある。

マールもせわしなく支度をしている。

「ちょっと来てくれマール」

「なあに?お兄ちゃん」

「う~ん、もうちょっと顔を汚す必要があるな」

「え?これでも泥だらけだよ~」

でも可愛すぎる。いつも帽子を深く被せて、布のスカーフで顔を隠しているが、それでもだ。それに最近やっときちんと食べられるようになったので顔色も良く、全体的に女の身体にもなってきてる。

こんな美少女はいい意味でも悪い意味でも目立ちすぎる。悪いやつらや貴族たちも放って置かれないだろう。盗賊に攫われて奴隷商に売られるかもしれない。


「今日だけ休め。一番人の出入りが多い日だからな」

「いや!いやよ!お兄ちゃんとちょっとでも離れたくない!」

「あ~今日だけだぞ」

「でも!でも!」


困ったな。すぐにでもあのダンジョンで清掃という名のアイテム回収にいきたいが。

でもちょっと待てよ。昨日はすぐ寝てしまったが、まだ鑑定できてないものが多数あるな。その中で役に立つものはないだろうか。

剣や鎧はこの際後回しだ。

指輪やネックレスとかを見てみるか。


【安寧の指輪】

精神的安定を受けることが出来、魔法詠唱時間を半減できる

成功確率66.7%

レア度:反則級


【青のネックレス+5】

水属性魔法の魔力を+5する

かつ水魔法攻撃を30%の確率で跳ね返す

レア度:レア級


【マスカレードマスク+50】

美人度を50%UPさせる。男女装着可能

レア度:超レア級


【反逆のチョーク】

忠誠度が逆転する。裏切り行為に有用

レア度:伝説級


今あるのはこんなところか。

う~ん、役に立ちそうなものはないか・・。

しかたがない。今日のお宝に期待するか。

「ねえこれは?」

とマールが手に取ったのは眼鏡の形をした【マスカレードマスク+50】だ。

「はあ?ますます美人になるぞ、だめだそんな危険なもの」

と言ったが、試しだよとか言ってそれを装着したマール。

・・なに?誰だお前は・・・。

そこにいたのはごく普通の女の子だ。そうどこにでもいるような・・。

ええ?なにごと?

「どう?綺麗になった?」

いや、その反対だぞ。

「?ほんと?」

と言ってもここには鏡が無いからわからないだろうな。

でもとりあえずこれで、問題無く外へ連れていけそうだ。


・・・もしかしたら美の基準が折り返したのか?

目の前の子は普通だ、じゃあ前のマールはなんなんだよ・・・。


おそらくそうだろうな、風呂から上がったマールは今でも眩しくて直視できない程だしな。でも念のため、顔を汚して帽子を被せた。

「よし、OKだ、可愛く無くなったがいいだろう!」

「うん。お兄ちゃんにだけは本当の自分を見て貰えるから」

お、おう・・。


「よし行くぞ、マール!」

「合点だ!ケン兄」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


少々出足が遅れてしまったが、なんとか仕事場に着いて、清掃をしながらお宝探しを開始した。

やっぱり今日はすごいな。あっちこっちに山になって捨てられている。

もちろん本当に使えないのがほとんどだ。


最初にいつもの清掃担当の連絡通路に来た。ここにもいくつか捨てられた山が出来てる。


その山のひとつに行き、使い物にならなくなって燃やすだけになったものを取り除く。

つぎに+1、+2といった付加価値が付いている物をまた別の山にする。

その頃には、元の山の1~2%ほどの小さな固まりができる。

これこそ本当のお宝だ。

さすがにここでは詳細な<鑑定>は出来ないのでまとめて自分のアイテムボックスに放り入れる。

次に+10以上の付加価値のついた中で優れた武防具をこれまた、GETする。中にはー30とかー50とかの呪いのアイテムもあるので注意が必要だ。その後残った付加価値のものは、また捨てるだけの山に戻す。

こうしておかないと、低い付加価値のアイテムだけの山が出来上がってしまうため怪しまれる。


そして次にマールが集めてくれた山に取り掛かる。

マールはまた、ばらばらに捨てられたものの別の山を作っていく。


そうして昼前までに6個の山を片付け終えた。

もちろん本当に不要な武防具、アイテムはまとめて荷台に積んで、所定のゴミ置き場へ。先輩たち清掃人からのゴミもそこに捨てられているため、更に<鑑定>で、良いものだけを探す。


ちなみにマールの変装は問題無いようだ。

今までだと、冒険者たちから良く声がかかっていたのだ。

だが今日は誰からのちょっかいも受けない。

ごく普通の大勢いる清掃人の一人だと認識されているようだ。


午後も同じような清掃&お宝探しをして終了だ。

さすがに夕方には、落とし物が少なくなっている。

でも先輩の話だとだいたい3日は続くとのこと。

明日も早朝から来るので、掃除道具と少々の戦利品を荷台にのっけて街まで帰還だ。俺が引き、マールが押す。

なお、荷台に乗せてあるものはカモフラージュ用として無難な武器とか載せてある。まあ他の先輩たちへのけん制だな。

もちろん本当に価値のあるものは、二人のアイテムボックスに入っている。


「ああ~!疲れたあ~!」

家に帰るなりベッドにダイブしたマール。

「おうご苦労さん」

「えへへ、今日頑張ったよ、ほめてほめて!」

よしよしと言って頭をなでたら途端に満面の笑顔になった。

う~ん、ちょっとチョロイな、兄ちゃんは心配だ。


「ねえ鑑定はどうするの?今日やっちゃう?」

「そうだな、明日もまた増えるだろう。あまり溜めてもしょうがない。風呂と晩飯のあとやるか。マールも手伝ってくれ」

「は~い」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


大漁だった。


どれもこれも素晴らしく性能が良い。レア度も上位のものだ。

高いプラス表示の付加価値の付いた武防具も山のようにある。

だが俺たちは、清掃人だ。

ダンジョン攻略で生計を立てているわけではない。

親方や先輩に聞くと、それらはもうすぐやって来る闇業者に売ることもできるそうだ。ただし安く叩かれると言ってたな。

だが、闇業者だけにどんなにやばくても買い取ってくれるそうだが。

まあ今はそんなに金に困っていない。

俺たちは真面目な清掃人だからな。


だがその中でとんでも無いものが出て来た。

それも三つ。


まず一つ目。

これはぼろきれに包まれていたアイテムだ。

小さいボールくらいの大きさだったんで気が付かなかったようだ。

【覚醒の宝珠】

覚醒の儀を受けることが出来る。ただし効果は1回かぎり

レア度:レア級


レア度としては大したことはないが、タイムリーとして大歓迎だ。

あとでマールに使用することで、彼女の本当のステータスが判明するからだ。


次にこれだ。

一見すると、俺たちの商売道具であるモップだ。

木の棒の先にある、やたら太い動物の毛?が無数についてる。

うん、何度見ても普通のモップだ。だが・・・。

【濁流のモップ】

裏・清掃道具のひとつ

毛先から無限に水が湧き出る 量も自由に調整できる

レア度:伝説級


おお、初めて出て来た裏・清掃道具!

確かに水が湧き出るのであれば、いちいち洗いに行かなくてすみそうだな。それだけの機能なのかな・・しかし量ってなんだ?後で検証するか。

これは<裏・清掃>のスキルを持っている俺しか装備出来ないな。


そして最後のこれ・・・。


一見汚い羊皮紙だ。おそらく食物でも包んでいたんだろう。ところどころソースの染みみたいな跡がある。

【召喚術の書】

召喚術を習得することが出来る

レア度:反則級


ありえない。価値も計り知れない。おそらく一万人の市民が贅沢に一か月過ごせるだけの黄金と同じくらいだろう。


召喚術師は神官職の上級職だ。

神官職をレベル55まで上げて初めて転職出来る。

過去でも俺の知る限り、この<召喚術師>になれた神官はあまりいない。つまり大神官や大聖女レベルだ。


一般の冒険者は職業レベル20~30くらいが一般的だ。

中級者はレベル40前後。上級冒険者でレベル50~60。

それ以上になると、S級や伝説の冒険者となる。


そしてこの【召喚術の書】。

これはいわゆるスキル書と呼ばれる。

つまり<召喚術師>になれなくとも<召喚術>を習得することができるのだ。


すべての神官職が心底欲しているこの書。

これを憶えてほしい人間はもう決まっている。


「マール、ちょっと来てくれ」

「え?なに?」

「いまからお前に<覚醒の儀>を施す。いいな?」

「!!・・うん・・でも・・」

「でも?」

「・・ねえ、お兄ちゃん・・、わたしの・・わたしの本当の正体がわかってもそばにおいてくれる?」

「・・ああ、お前がどこかの王女だとしてもな」

「・・知ってたの?」

「あのドレスの紋章だ。紋章に王冠クラウンを付けていいのは王家だけだと決まっている。それはどこの国だとしてもだ。ただお前の国の紋章は見たことも無い。っていうかお前記憶が戻ったのか?」

「ううん・・思い出したのは、一番思い出したくない過去だけ・・」

「悪い。いやな事を考えされてしまって」

「・・ねえ本当にわたしが誰でも・・一緒にいてくれる?」

「ばかやろう・・、当たり前の事、聞くんじゃねえよ」

と言ったら俺に抱き着いてきたマール。


そして突然気が付いた。

俺がこの世界に転生してきた目的を。

今俺の腕の中にいるこの小さな存在。

強く抱きしめれば途端に壊れてしまう娘。

こいつを、守る事が俺の目的のひとつだ。

そしてこいつのそばにやって来る恐怖、不安、闇、心配事。

それらを一掃スイープすることが俺の仕事、役目なんだと。


俺は再度マールに言った。

「いまからお前に<覚醒の儀>を施す。俺を信じられるな?」

「もう!わかってるくせに!わたしがこの世界で一番信じられる人がお兄ちゃんなのよ!」

「・・ありがとうな」


俺はマールの目の前に【覚醒の宝珠】を置いた。

やがてマールは俺の目を見つめながらその宝珠に手をかざした。

そして彼女のステータスを表示した途端、その宝珠は砕け散った。


【名 前】 ライム・フォン・レストラーデ

      (レストラーデ王国 第一王女 王位継承権第一位)

【年 齢】 12

【JOB】 魔導士

【職業レベル】 1

【一般スキル】

<火魔法><水魔法><風魔法><土魔法><雷魔法>

【特殊スキル】 

【ユニークスキル】

<全てを慈しむ者>


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