第3話 ダンジョン解禁!
いよいよこれから「夢幻の穴倉」夏季ダンジョンが解禁される。
2日前の昼頃に、ダンジョンが再創成される兆しが見えたという周知がダンジョン協会より出された。
その場で現在ダンジョン攻略のために潜っている冒険者たちは一斉に強制帰還される。これは決められている事なので文句は言えない。たとえ、ボスをあと一撃で倒せそうになっているところだとしてもだ。
まあ、近々再創成があるかもと周知されているから、それも納得の上でのダンジョン攻略だからな。
そして昨日ついにダンジョン内部の構造の変化が確認された。
同時にアスランデの街およびその近隣地区へのお触れが出された。
お触れと言うのは、各地に置かれているのろしによる合図だ。
それほどまでにこのダンジョンの早期攻略が注目されているのだ。
理由は三つある。
一つ目は、10階、20階、30階の各ゲートボスと呼ばれる強敵の初回撃破によるボーナス。
主にお宝だ。貴重な武具、アイテム。
夏季ダンジョンと呼ばれる今回の季節のダンジョンは強力な武器が多く出る事で知られている。
ちなみに秋季ダンジョンは、主に防具。
冬季ダンジョンは、指輪等のレアアイテムの出現頻度が高い。
そして最も人気が高い春季ダンジョン。
ここではなんとスキルや魔法書が手に入る確率が高いのだ。
ありえないスキル、
また、管理している冒険者ギルドでは、各パーティをランク付けしていて初心者や低レベルは地下一階からの開始だが、高レベルのパーティは21階、中級者レベルは11階からの開始を義務づけている。なので彼らは自分より低位の階層には挑戦できない。まあ妥当だな。
二つ目は、30階のゲートボスを倒した後に出現してくる最終ボスの存在。ダンジョンボスとも呼ばれ、このボスを最初に倒し、その証を持ちかえれば、一躍英雄になれるのだ。それはどこの国に行っても最大限の歓迎をもって迎えられる。
一つ目は、お宝。
二つ目は、名誉。
それでは三つ目は?
それは「願いの箱」と呼ばれる存在だ。
「願いの箱」は見つけた誰であろうと、その者の願いを1つだけ叶えて貰えるという伝説のアイテムだ。
その願いはなんでもよく、一国の王になろうが、大魔王になろうか、全世界を手中におさめることも出来るとまで言われているのだ。
たがもう何十年もそれの出現が確認されていない。
しかしながら、それは必ず存在するとされている。
ではなぜそれが信じられているかというと、過去にその箱を発見した冒険者が自分の望みどおり神になったからだ。
その神から毎回、「願いの箱」の存在が証明されている文書が発行されるのだ。もちろん神の情報なので嘘偽りは無い。
しかもその神になった冒険者の情報では自分は地下5階で見つけたという事もあり、誰でもチャンスがあるとのことだ。
そして今日がその夏季ダンジョンの解禁日。
今は朝7時半くらいか。
解禁時間は8時だ。
時計は無いが、日の出と共に巨大な砂時計がひっくり返させる。
この砂時計は約1時間。
そして夏季はこの砂時計の3回目の砂が全て落ちた時がスタートだ。
もちろんこの情報は前日に周知されているので、今では数多くの冒険者パーティがいまや遅しと入口で解禁を待ち望んでいる。
ちなみに夜中に入り込み、フライングしようとする冒険者も多いが、
全員入口で例外なく捕まる。そして今季ダンジョン探索は出禁となる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さてもうすぐ解禁だな」掃除人の先輩がそう話してきた。
「ケンタやマールは初めてだろ?俺たちにとっても稼ぎ時なんだぜ」
「え?なんで?あたしたちもダンジョンに潜るの?」とマール。
「ちげえよ。俺たちにそんな力ねえって。稼ぎ時というのは帰ってきたやつらが落とすアイテムさ」
「アイテム落とすの?」
「ああ、解禁されたばかりのダンジョンはあちこちに武具やアイテムが落ちてるそうだぜ。そこでやつらは片っ端から拾いまくるんだ。でも持てるのには限界がある。ポーターでも雇っていれば少しは違うだろうが、この時期ポーターを雇う金は十倍以上に跳ね上がるんだ。なので金も無いパーティは、容量オーバーになるとすぐ地上に戻ってくる。そしてろくに鑑定もしないで、ダメそうなものは捨てて、またダンジョンへ潜っていく。俺たちはその捨てられたアイテム目当てさ。中にはすんげえお宝がたまに出るんだぜ」
おお!なるほど!少しハイエナみたいな行為だなと思ったが、それが掃除人の役得なんだろうな。しかも俺には<鑑定>スキルがある。
また<主張の指輪>も装備してる。
なのでマールを連れて隅に行って、俺の作戦を話した。
<鑑定>スキルの事も言ってある。
「うん!あたし目がいいからどんどん見つけてケン兄に教えるね」
「いいのが手に入れば、久しぶりに肉が食えるぜ」
「わあい!気合入っちゃうね!」
俺はそんなマールの頭をなでた。
途端にあり得ないほど可愛い女の子の顔になったマール。
「・・よせ、可愛くなってるぞ」
「ええ~、うふふ~、もっと言って~」
「・・ばかやろう・・真面目に仕事しろ!」
やがて大きな鐘の音が響いてきた。
夏季ダンジョンの解禁だ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「誰も帰って来ないなあ」とマール。
そりゃ、そうだろう、まだ始まって一時間も経ってない。
さっきの先輩に聞いても「早ければ昼頃からぼちぼち帰って来るが、多いのは15時過ぎからだろうな」とのこと。
なのでしかたなく、通常の清掃の仕事を続けている。
たまにエントランスホールから聞こえてくる歓声。
なんだろうと聞くとさっきの先輩が、
「あれはタイムアタックの成績発表だろう」と。
タイムアタックは、お宝やボス撃破は二の次でとにかく早く下へ下へと到達してそのタイムを競う勝負だ。
だから魔物との戦闘は極力せずに、ほとんど逃げてるそうだ。
「全員が盗賊職のパーティもあるんだぜ」とのこと。
そんな事を話していてやがて昼になったあたりからぼちぼちと帰還者が増えてきた。
当初はお祭り騒ぎで始まったが、魔物との戦闘もあるため負傷したり亡骸になって帰ってきてる冒険者もいる。
こういうのを見ると、ああ遊びじゃ無く、命がけなんだなと思う。
でも神殿に行けば、多少の欠損部位の治療なんかは出来るため、金さえあればまた健康になってチャレンジ出来るのである。
そのため広場にはその神殿からの出張所みたいな建物もある。
めでたく?軽微な負傷のみで帰ってきたパーティは、これも神殿での回復治療のあと、すぐにダンジョンへと戻っていく。
そのころになるとだんだん、舌打ちとともに武具やアイテムを捨てていく冒険者も出てきた。
そして我先にとそんなアイテムに群がって行く先輩たち。
だが俺は慌てない。しょせん先輩たちには<鑑定>など無いし、彼らは見た目だけで判断し、つぎつぎと捨てられたものに飛びつく。
だが俺はそれ以前に長年の異世界生活で、古いもの、汚れているもの、何の変哲も無いものこそが、実は本当のレアなお宝なんだと知っているのだ。
例えば、強そうな冒険者がさっき捨てた短剣。一見刃こぼれしてて、すぐにダメになりそうなので、誰も拾わない。
だが俺の目にはこう映っている。
【知恵の短剣】
知力+30、敏捷+20の付加が付いた短剣
レア度:超レア級
ちなみにレア度は、粗悪品、下級、中級、上級、レア級、超レア級、伝説級、超伝説級、反則級、超反則級、最上位は、世界創生級となっている。
それをさくっと拾って自分のアイテムボックスに素早く入れる。
マールにはもちろん<鑑定>スキルは無いため、コツを教えてある。
すなわち、新しい、綺麗、キラキラなものは望みがない。
汚くて古くて誰にも拾われないような物を探せと。
夕方になるにつれどんどん冒険者が帰ってきた。
それに比例し、捨てられていく武具、アイテムも多くなっている。
さすがに俺ものんびりできない。あまり時間が経つと、今度は<鑑定>持ちもやってくるためだ。
だが解禁の何日間は冒険者優先であるため、そんなやつらは入って来れない。掃除人は管理者側の人間なので問題ない。
なので俺は取り放題だ。
【赤眼ブレード】
材質はミスリル 刀身にある眼の模様が光ると対象の魔物の動きを封じる
ただし発動確率20%
レア度:超レア級
【憤怒のガントレット】
パーティ仲間が負傷すると筋力は+10される
憤怒のブレスレット+10を同時に装備した場合
更に+10の筋力ボーナスが付く
レア度:伝説級
【水上のブーツ】
水の上を歩けるブーツ
敏捷は+20
レア度:伝説級
【アイテムボックス(小)付きベルト】
縦横高さ1mの立方体の空間のアイテムボックス付き
レア度:レア級
おっと、もう暗くなってきたな。今日はこれくらいだな。夜中でも帰ってくる冒険者がたくさんいるので、明日はまた早朝から開始だ。
もちろん通常の清掃業務もあるので手は抜けないが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【マール side start】
ケン兄からベルト貰っちゃった。なんでもアイテムボックス付きだって。
嬉しい!なので最初に着ていたドレスとかしまって置こうっと。
今わたしはベッドの上。
いつもと同じお兄ちゃんの腕枕に抱かれて、寝顔を見ながら心で話してるの。あのねお兄ちゃん、わたしだんだん思い出してきてるの。
ううん、全部じゃないわ。強烈な思い出だけね。
就寝の支度をしている時お部屋に大勢の人たちが入ってきた。
「なに?無礼者!ここはライム・フォン・レストラーデの部屋なるぞ!」「へへへ、ちょいと邪魔するぜ。綺麗なお嬢さまよお」
「な!い、いますぐ出ていけ!」わたしは大声で叫んだ。
「へへへ、てめえ今の状況分かってのんか?ああ?」
「・・なんと無礼な!」
とその時奥の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「なにもたもたしてる!とっととその小娘をここから連れ出しなさい!」
え?お義母さま?今の確かにお義母さまの声・・・。
「へ、へい!すいやせん!おうてめえら!姐御のいうとおりにしねえか!」
わたしは訳もわからず、乱暴に小突きまわされ、自分の部屋を出された。そしてそれを冷たい目でみてるお義母さまと弟のジョージ。
「お義母さま!た、助けて!」
「ふん、いいざまね。なにも出来ないお嬢さまが・・。ねえジョージ少し黙らせてくれる?」
「はい、母上」
と言って、つい半年前にこの王家に入って来て、瞬く間にお父様の寵愛を受けたきたありえない程の美しいお義母さま。そしてわたしの1歳年下の弟として紹介されたジョージ。
「へへ、姉ちゃん。いつも可愛がってくれて感謝感激だぜ」
え?うそ?あなたあのおとなしいジョージでしょ?いつもわたしの後にくっついてきた・・。
「はっ!おめでたい女だぜ!いつもてめえのケツ見ながらムラムラしてたってのによう!」
うそうそ!そんなはずは!
そんなジョージはわたしの胸や脚を触り出し勝ち誇った顔をしている。
「おい、ジョージ、そんなことは後で好きなだけさせてやる。今は自分の仕事をしな!」
「・・わかったよ、姉ちゃん」
え?姉ちゃん?いつもは母上と・・。
「てめえら、こいつをさっさと手はずどおり荷馬車に積んで来い!」
と弟のジョージ。え?これが弟?
いつもと違い、20歳くらいに見える。
・・そ、そうだ!お父さまは?お父さまはどこ!
「へ!お父さまだってよ。せっかくだから対面させてやるぜ」とジョージ。やがてジョージは消えて、ほどなくあるものを手に持って現れた。
え?なに?その手に掴んでいるもの・・。
つぼ?花瓶?・・え?なんで赤いのが滴っているの・・。
え?ええ?首!首なの!人の首!うそ・・。
・・ああ、その優しい青い瞳・・いつもわたしを可愛いと言ってくれたその口・・。・・お父さまの・・・。
いやああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうあれからどのくらい経ったのだろう。
何もわからず、何も考えられず、涙ももう出ないわたし・・。
道具にように扱われ、荷物のように運ばれ・・。
時には、わたしを巡っての言い争いも聞こえた。
わたしを抱えて逃げ出した男が、目の前で真っ二つにされたのも見た。
そして何回か持ち主が変わって、最後に麻袋に詰められて捨てられた。
ああ、これでお父さまの所に行ける・・あの優しいお父さまに・・。
でも運命は不思議。ここでまた持ち主が変わり、今度は掃除具と共に運ばれて着いた先は貧相な家。
ここで死のうと思った。
でも連れてきた男の目を見た。
・・ああ、なんて目をしてるの・・お父さまと同じ・・優しい目・・。
やがて目の前にある桶に何度も水を汲んできてくれた。
「身体を洗え」と。
そうね。どうせこれから辱めを受けるのね。こんな汚れた身体だもの。
わたしも少しでも綺麗な身体で死にたい・・。
でもそいつは後ろを向いた。なぜ?なんで?
そして出されたスープ。お世辞にもおいしいと言えなかった。
でもその男の目を見るだけで、そのスープの味が変わったのを感じた。
そう、暖かく、優しい。わたしを包んでくれるような味・・・。
もうそれからは無我夢中で食べた。
そいつが「お代わりある」と言ったのを聞いて、もちろんおかわり。
おかわりなんてはしたない事したの初めて・・・。
そして信じられないことに私にベッドを勧めて、自分は床に寝るという。
やめて!やめて!そんなに優しくしないで!死ねないじゃない!
でもその目を見た途端、なぜだか涙が出てきた。
無性に誰かにそばにいて欲しくなって、そいつにいった。
「一緒に横にいて」と。
なんでそんなことを言ったのか自分でもわからない。
でもそいつは何も言わず、わたしの横に寝てくれた。
そう何もせずに・・・。
もうだめ、涙が自然に・・。
わたしはそいつの腕にくっついて泣き出した。
まるでなにかに追われるように。
そしてあいつ・・今度は私の肩を掴んで抱き寄せてくれた。
・・今度も何も言わずに・・。
それからお父さまの最後を想い出して泣いた。
初めて声を出して泣いた。大声で泣いた。
身体中の水が全部で出たと思うほど泣いた。
泣いて泣いて泣きつくした。
でもあいつは何も言わず、より強く抱いていてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そいつというのは、もちろんケン兄の事。
今もすぐそばで口を開けて寝てる。うふふ、可愛い・・。
そしてこの場所。
決してふかふかじゃない汚れた布団。
たまに窓の隙間から吹き込んでくる風。
そして二人には狭すぎる小さな部屋。
でもこんな気持ちのいい場所は初めて。
ずっとこうしていたい。朝になってもこのままケン兄の顔を見ていたい。
あれ、へんね、また涙が出てきちゃった。
お兄ちゃんのシャツで拭いちゃおう・・。
「・・んん?・・ああマールか・・そうか体勢がきついのか・・」
と言ってまたわたしが楽になれるようにしてくれた。
「・・よし大丈夫だ・・起こしてごめんな」
と言ってまたすぐ寝息を立て始めたケン兄。
ゴミと一緒に捨てられたわたしにここまで親切にしてくれて、暖かく接してくれて、仕事を世話してくれて・・わたしを襲わずにいつも抱きしめてくれる。
そこまでしてくれているのに「ごめんな」なんて言わないで。
また、涙が出て来たじゃない・・もう・・・。
【マール side end】
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