第二話 幽霊

 今日は弘樹の為にありがとうございました。

弘樹もこんなにも多くの人に見守られて喜んでいると思います……


喪主の父

隆文は漁師をしていた

礼服は着らずいつものタンクトップ

腕は血管の見える美しい肉体美が


今日はおじさんの頼りない腕に見える



まばらな拍手のあと

目の前にはお寿司やオードブルが

均等に並べられていた


弘樹の昔話をしながら食べる老人

泣いている叔母さんを慰める親戚

酒に逃げる喪主


正直食べられる気がしなかった

葬儀場のレストランルームから駆け足で逃げ出した。



廊下では子供の頃からお世話になっていた

散髪屋から話しかけられた


杏ちゃんじゃない

大きくなったわねぇ

どうしたの?もうご飯は要らないの?



少しだけ頭を下げ

散髪屋の叔母さんの隣にある

エレベーターで一階へと降りた


エレベーターが開くと

納骨の箱がショーケースに飾られた

出口が見える


この嫌な空気を

いつのまにか吸わないようにしていたのか


走って出口を出ると

葬儀の日だとは思えない


星が綺麗な夜が私を迎えた

口を大きく開け

世界一大きな深呼吸をする


まだ線香の香りがした

それが礼服からなのか


それとも出口から匂うものなのかは

分からないが


それでも中よりはマシだった

葬儀場特有の大きな駐車場を一回りする


駐車場の外は高速道路があり

どこに向かうのか分からない

車の音がひたすら響いている


出口が空いた音がした

外でサボっているのがバレるのも嫌なので


急いで戻ろうとした



「 あっ 」


目の前には先程の幽霊が

出口でタバコに火をつけようとしていた

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