第二章 第一話 幽霊

 大人の汚さを知った



目の前では大きな花達

中心には尾形弘樹の満遍の笑みが映された写真


耳にはお経と

情報量が多い夜だった


人間なんて90まで死なない

そう思っていた


私は黒い礼服で足を組み

数珠をはめた右手で頬杖をついていた


暇だからではない

それどころか


人生で一番

興味が湧いた日と言っても過言ではない



お経を唱えるお坊さんの後ろに

遺族代表の叔母さんがハンカチを握りしめて

肩を震わせながら泣いている


その横に

ひたすら頭を下げている女がいた


一人だけ座らず

そして誰からも咎められない


女は泣きもしない

ぎこちない礼服で


ただ頭をひたすら下げていたのだ


幽霊なのだろうか

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