第三話 鈴鹿 鈴

 弘樹、弘樹 !!

首元の嘔吐物なんか気にせず

男の首を何度も揺らす


分かっていた

もう人間の体温じゃないし

私が


私が 


殺し……


目が覚める

夏だというのに寒さで目が覚める

スマホの時計は二十三時を回っていた


「あいつ、今日はサボりかぁ? 」


悪い夢をなるべく忘れるために

駐車場に戻ってきたであろう男に話しかける




「 お客さん、これで無料になるから 」

手作りといっても本物と見分けがつかない

三時間のサービス券を渡す


「ありがとう」

男はそう言うと車に戻っていく



この駐車場は

以前偽物のサービス券で何度か警察沙汰になっており、偽物カードを入れると

エラー音と共に百十番にかかるシステムになっている



車のエンジン音と共に

私は駐車場から少し離れる


その時

パジャマ姿の癖毛女が目に入ってきた



「お客さん、今から彼氏と夜逃げですかい?」


パジャマ女の驚いた顔は目からの情報として


後ろのエラー音は耳からと

脳はフルパワーで働き始めた


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