第15話 外出許可

「リア様、本日のお召し物はどちらがよろしいですか?」

「………………」


片方はフリルをたっぷりあしらったゴスロリ風、もう片方はおとぎ話に出てくるお姫様が着るような鮮やかな空色のドレスで正直なところどちらも遠慮したい。これまでのドレスがどれだけシンプルで控えめだったのかを思い知った気分だ。


ジト目で見ているとステラは少し困ったような笑みを浮かべる。

「陛下がリア様のためにご用意したものですから」


(やっぱりそういう趣味なのか……?)

甘さたっぷりの可愛らしいドレスは、リアが着ればいずれも幼さを強調させることになるだろう。


以前から動きやすい恰好を、もっと言えばパンツスタイルを頼んでいたが、この世界で女性が男性のような恰好をするのは不作法だというのだ。手持ちの洋服は召喚された時の物しかないため、どれだけ不満でも準備してくれたものを着るしかない。


「――どっちでもいい」

「ではこちらを!甘くなりすぎないように差し色を入れて上品に仕上げましたの!リア様の愛らしさが一層際立ちますわ!!」

「お前の趣味か!」

思わず突っ込みを入れてしまった。


ステラは小さくて可愛い物が大好きらしい。

初めてリア様にお会いした時は自制するのが大変でしたわ、と翌日嬉しそうに頬を染めて言われた。ちょっと変わっているが、嫌がらせされるよりはずっと良いし、率直に話せるので気持ち的にも楽だ。本人に言ったらハグされるから絶対言わないが。


「ふふ、でも陛下からリア様への贈り物というのは本当ですわよ?リア様にお似合いになるお召し物を準備するよう言われておりますから」

「本当にやめてくれ。ただでさえ重くて動きにくい」


「お部屋と執務室のご移動だけなので、問題ございませんでしょう?」

それは最近のリアの不満でもあった。


ノアベルトは過保護すぎる。初日に衛兵——処刑は免れたが馘になったらしい——に絡まれたことを理由に行動範囲を制限されている。それなのに美味しいご飯やお菓子をこれでもかというぐらい与えられて、現在の自分の体重を知るのが恐ろしい。

部屋で簡単なストレッチや筋トレをしているが、焼け石に水だろう。


「……外に出たい」

「陛下に頼んでみてはいかがでしょうか?一緒にお出かけされるなら陛下もお許しくださるかもしれません」

身支度を整えながらステラはアドバイスをくれる。


(陛下の逆鱗がどこか分かんないからなあ)


先日の喧嘩でリアが反省していた部分ではないことに怒っていたと言われ、おまけにその原因を教えてくれないのだ。不用意に怒らせるのは避けたいから、あれ以来リアなりに会話にも気を遣っている。それに、ただでさえ衣食住を過剰なほど与えられていてこれ以上何かをねだるなど、図々しいにも程があるだろう。


そんな考えをステラに伝えると、目を丸くして感心したようなため息を吐かれた。


「リア様は本当に無欲な方ですわね。私、微力ながらお手伝いさせていただきますわ」

そう告げたステラはやたらといい笑顔を浮かべており、何となく嫌な予感がした。


「ステラ、変なことしないでよ」

心得たとばかりに頷くステラに不安を募らせながらも、リアは部屋を後にした。


「城下に行きたいか?」

午後の休憩時間、髪を撫でられながらの突然の質問に言葉が詰まった。


(これは素直に答えてよいものか……)


壁際に控えるステラに視線を向けると、満面の笑みで返された。何をしたかは不明だが、どうやらお手伝いしてくれた結果のようだ。


「……行ってみたいです」


躊躇いつつ答えるとノアベルトは顎に手をやり、しばし考える素振りを見せる。

(え、これどっちだ?)


「――では、3日後に連れて行こう」

「本当ですか!?ありがとうございます!」


素直に感謝を伝えると、まじまじと見つめられる。どうしたのかと首を傾げると、口元を押さえて視線を逸らされた。


不審な行動に意味がよく分からない。少しはしゃぎ過ぎたかもしれないと反省したものの、魔王の奇妙な行動はよくあることだ、と一人納得して気にしないことにした。


そのためリアは二人が意味ありげな視線を交わしていることに気づくことはなかった。

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