第5話 ペット扱い

すっきりした気分で浴室を出ると、ノアベルトは手にした書類を戻し同じソファーに座るよう促してきた。


(さっさと仕事場に戻りたいんだけどなー。この格好……ちょっと怪しいし)


いつの間にか準備されていたのはレトロなメイド服、もとい侍女が着るようなワンピースだった。丁寧にフリルのエプロンまでついている。

着ていた服は汚れていたし、サイズもちょうど良かったので文句はないのだが、リアの中で変態疑惑が浮上していた。


ロリ×メイド、文化祭でのクラスの出し物であったメイド喫茶のおかげでこちらの需要が高いことを、身をもって知るはめになったのだ。宣伝のために校内を回ったわずか30分で不快な視線に晒されたリアは、身の危険を感じてその後は裏方に徹することになったという苦い思い出がある。


渋々ながらソファーに腰を下ろすと魔王は距離を詰めてリアの隣に座った。それによりリアの警戒心は一気に高まる。嫌な視線を感じないからといって油断してはいけないのだ。


そんなリアの尖った視線をよそに魔王はリアの頭にパサリとタオルを落とした。


「えっ?」

そのままポンポンと優しく押さえるようにして、髪に残る水気をタオルに吸わせていく。


(これ、あれだ……。珍獣というかペット扱いなんだな)


さきほどの食事の与え方は餌付けだったのだろう。わざわざ抱きかかえて運ばれた時も、半乾きの髪を丁寧に乾かそうとする様子も手慣れていると言い難かったので、さながら初めて動物を飼う子供のように思えてくる。


(人間と関わりが少ないようだったし、ましてや異世界からの人の子であれば物珍しいのかもしれない)


正直そんな扱いは気に食わないが、変態相手よりかずっとましだろう。リアはそう思うことにして、心の中でそっとため息をついた。


(それにしてもいつまで続くんだ、これ)


ようやく髪が乾いて解放されるかと思いきや、魔王はリアの髪を指で丁寧に梳いている。何が楽しいのか全然理解できないし、ペット扱いもそろそろ限界だ。


(もう十分我慢したはず)

そう考えたリアは、なるべく感情を出さないよう気を付けながら口を開いた。


「――陛下、仕事があるのでそろそろ失礼いたします」

許可を得る形ではないが、元々与えられていたリアの仕事を思い出させ、かつ角が立ちにくいよう言い回しに気をつけた。


「ああ」

リアの思惑が通じたのか、あっさりと魔王の手が離れた。


気が変わらぬうちにと立ち上がりドアに向かおうとしたところで、急に腕を引かれて背後から抱きしめられる。


「……甘い匂いがする」

耳元で聞こえた囁き声はこれまで変わらない口調だったが、魔王の行動に羞恥と怒りが込み上げてきた。


「触るな、変態!!役に立つとはいったが、ペットになる気はない!」

思い切り足を踏みつけると、魔王の腕の中から素早く抜け出す。


「二度と触るな!そういう仕事なら他を当たれ!!」

部屋を出る前に睨みつけながら捨て台詞を吐くと、リアは乱暴にドアを閉めその場を後にした。

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