第3話 初仕事
連れてこられたのは、見事に散らかった部屋の一室だった。
不用品とりあえず詰め込んでおきました、といった感じで大小様々な物が乱雑に置かれて埃まみれの室内で相当に汚い。
ちらりとヨルンに視線を送れば、意地悪そうな表情でニヤリと笑った。
「他の魔物と一緒に働かせるのは危険だからな。一人で物置を片付けとけ」
「承知しました。掃除道具だけご準備いただけますか?」
淡々と答えるリアに少し不審そうな顔をしたものの、強がりと思ったのか掃除道具を押し付けるとさっさと出ていった。
室内をチェックして、早速仕事に取り掛かる。
嫌がらせのつもりだろうが、引っ越しと清掃のアルバイト経験はある。幸い水場も近く掃除用品も元の世界のものとそう変わらない。
(それに今はすることがあるほうが有難い)
一旦事実として認識したものの、この状況を完全に受け入れたわけではない。元の世界に戻ることができるのか、魔王の気まぐれで繋がった命もいつどうなるか分からないのだ。考え始めれば不安でたまらなくなるから、目の前の仕事に没頭したかった。
仕事を始めてどれくらい経っただろうか。種類別の仕分けや分別作業はほぼ終わり、部屋の一角は元の状態に近づけたと思えるぐらいには磨き終わった。
「ふぅ、さすがにちょっと疲れた……」
全身埃っぽく薄汚れていたものの、綺麗になった部分に座りこんだ。こんな状況なのだから衛生面を優先すべきだし、汚れたらまた綺麗にすればいい。
一息つくと、疲労感が全身に広がり眠気が襲ってくる。
(バイト終わりだったし、精神的にもちょっと忙し過ぎたしなあ)
リアは自嘲的な笑みを浮かべた。冷酷そうな魔王にあんな風に突っかかって我ながら無茶をしたとは思う。
『短気は損気』
ずっとそう言われていたし、自分にも言い聞かせているのだが、あまり自重できたためしはない。
(まあ仕方ないよね?オコジョだし)
「TVで見た時、リアのことが思い浮かんだの」
動物番組で取り上げられたオコジョについて友人は嬉々として語ってくれた。
つぶらな瞳でモフモフの毛並みと可愛いらしい外見だが、気性が荒く凶暴な生き物。
親しい友人は一様に納得し、高校時代は時折「オコジョ」とからかい交じりに呼ばれることもあった。
そんな記憶に心が緩んだせいか、ますます瞼が重くなっていく。
(起きないと。でも5分だけなら——)
そんなことを思いながら、リアはあっという間に意識を手放した。
(――なんか、フワフワする?)
目覚める前のぼんやりした頭でそう思った。
優しい心地よさに口元が緩む。懐かしいようなこの感覚は、幼い頃に経験したもの。懐かしさに引きずられながらも、意識が浮上していく。
「んー……?」
ぼんやりと寝ぼけたまま顔を上げたリアだったが、目の前に信じられないものを見て飛び起きる。
「っつ!!!!?」」
ゴン、と壁に思い切り後頭部をぶつけた痛みで完全に目が覚めた。
目の前には人形のようにピクリとも表情を変えない魔王の姿がある。
(ヤバい!あれだけ大口叩いたのにサボって居眠りしてるとか、印象最悪だろ!!)
恐らく寝落ちしてからそんなに時間が経っていないはずだ。僅かな時間休憩しても、咎められることはないかもしれないが、誰も見ていないのだからそれを証明することができない。
「っ…、申し訳ございません!」
素直に謝罪する他なかった。役に立つと言ったのに言われた仕事が終わっていないのだから、口先だけと思われても仕方ない。
下げた頭に優しい感触が伝わってくる。それはまどろみの中で感じたものと同じで、恐る恐る視線を上げると、表情を変えずリアの頭を撫でる魔王と目が合う。
(これは、いったいどういう状況なんだ?)
視線を逸らせずにお互い見つめ合うような状況が続いた。
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