18 告白

 あたしが目指したのは、一組の教室だった。

 きっと、今の時間なら誰も居ない。ミレイ以外は。


「……ケイカちゃん」


 窓際に佇むミレイは、ぽろぽろと涙を流していた。


「ミレイ、なんで泣いてるの?」

「分かんないよ」


 ミレイは右手でごしごしと涙をぬぐった。それでも、新しい雫がまた溢れだし、彼女の美しい顔はぐちゃぐちゃになっていった。


「あのね、ケイカちゃん」

「うん」

「ヒロミちゃんのことが、羨ましくなっちゃったの」


 この状況で出てきたのがヒロミの名前だったことに、あたしは当惑した。アイリではなく、なぜヒロミなのか。


「その……ヒロミちゃんって、素直に気持ちを出せるじゃない? 口に出して言えるじゃない? それが、羨ましくなっちゃった」


 あたしはミレイの横に並んで立った。少し、距離を開けて。


「確かにヒロミは正直な子だよね」

「うん。ああやって、ケイカちゃんに妬いてること、表に出せるのって凄いなぁって」


 横並びになったことで、あたしからはミレイの表情が伺いにくくなった。そして、何も口に出せなくなった。ただ、彼女の話をきちんと聞こうと思った。


「そっか……そうなのかな。わたし、アイリちゃんに嫉妬してたのかな。やっと気付けたよ」


 あたしは相槌さえ打てなかった。しばらく、静かな時間が流れた。ミレイの涙が止まった頃、彼女は再び語り始めた。


「役割決めのときだって、本当はケイカちゃんと組みたかった。でも、部長権限振りかざすみたいなこと、したくなかったし。そっか。やっぱり、そうなんだ」


 ミレイは窓際から離れ、あたしの正面に立った。それから、あたしの両肩にそっと手を乗せた。


「わたし、ケイカちゃんのこと、好き。大好き。嫉妬して、やっと気付いた」

「ミレイ……」

「ごめんね? 勝手にこんなこと言って」


 言葉は何も、思いつかなかった。だからあたしは、ミレイに抱きついた。


「ケイカちゃん!?」


 あたしがしばらくそうしていると、ミレイは恐々とあたしの背中に手を回してきた。そろそろこちらも、言葉に出さねばなるまい。


「ミレイ。あたしも、ミレイのこと、好きだよ」


 その瞬間、ミレイの手にぐっと力が入った。あたしたちは固く抱き締め合った。


「ケイカちゃん」

「うん」


 互いの顔が見えないまま、あたしたちはまた、言葉を交わし始めた。


「わたし、とっても嫉妬深いんだと思う。それでもいいの?」

「いいよ、もちろん。あたしたち、葉っぱコンビでしょう?」


 そう、二枚の木の葉が重なるように。

 あたしとミレイは、優しく口づけをした。

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