12 期末テスト
ミレイが大田に告白された、というのは、大っぴらにはならなかった。それを知っているのは、当人たちと理科部のメンバーのみだ。そして、七月になる頃には、その話題を誰も出すことが無くなった。
そんなことより、大事なのは期末テストだ。ここでの成績が悪いと、夏休みに補習があるのである。ハイネは当然受けるものとして、本人は至ってヘラヘラしていたが、あたしは必死だった。
「お願い! ヒロミ、どうやって勉強してるのか教えて!」
放課後の部室で、あたしはヒロミに頭を下げた。するとヒロミは、困ったように眉根を下げた。
「えー? どうやってって、別に普通だよ?」
「その普通が知りたいの!」
部室には、全メンバーが揃っており、あたしたちのやりとりを眺めていた。
「こいつ、頭の出来が違うから……。そのくせ説明下手だから、聞き出そうと思っても無理だと思うよ?」
アイリがそう言うと、ヒロミは悲しそうな声を出した。
「アイリ、ひどい」
「まあまあケイカ。ボクと一緒に仲良く補習を受けようじゃないか」
ハイネが口出ししてきたので、あたしは跳ね飛ばした。
「夏休みに勉強だなんて、絶対に嫌だもん!」
「えっ、でも宿題はあるよ?」
ミレイまでもが口を挟んだので、彼女にも言い返した。
「それと補習はまた別! あたし、夏休みはダラダラ満喫したいの!」
「ダラダラするの? それって勿体なくない?」
そう言うとミレイは、ポンと手を叩いてこう告げた。
「ねえ、みんなで花火見にいかない? 確か、夏季補習より後にあったはずだから」
その提案に、部室中が沸き立った。あたしだけが、渋い顔をしていた。
「花火? なんかそういうの、ダルい」
「そうなの? ケイカちゃん、喜んでくれると思ったのに」
どうやらミレイは、あたしの勉強のモチベーションを上げるため、イベントを用意してくれようとしていたみたいであった。
花火、という言葉に、二組のバカップルが騒ぎ出した。
「アイリ、浴衣着てきてよ! お願い!」
「はぁ!?」
そして、三組の姫と騎士も浴衣の話を始めた。
「ボク、浴衣着てくるからね!」
「私は持ってないし、買うつもりもないからな」
「シホはいつも通り、スポーティーな服装で来なよ。カッコいいし」
ミレイはどうするのだろう。彼女の浴衣姿、きっと可愛いだろうな。いやいや、まだ行くと決めたわけでは無い。あたしは勉強に話題を戻した。
「とにかく、どうしても補習は避けたいの! ヒロミお願い!」
「じゃあさ、ちょっとだけ勉強見てあげようか?」
そんなわけで、テスト期間中は、放課後の部室でヒロミ先生による授業が行われたのだが……。
「ケイカちゃん、どうだった」
「ダメだった」
あたしは見事に赤点を取った。ヒロミの教え方が悪いと言うつもりは無いが、あたしがどこを理解できていないのかを理解してくれなくて、一向にはかどらなかったのだ。
夏季補習が現実のものとなり、昼休みに自分の机に突っ伏していたら、ハイネがぴょこんとやってきた。
「ボクが居るから寂しくないよ」
そう耳元で囁かれた。もちろん嬉しくもなんともない。さらに、事態はなんかややこしいことになっていた。
「おい聞いたか、三組の姫が稲葉に……」
「あいつら、やっぱりそういう仲だったのか?」
一組の男子や女子たちが、ザワザワとし始めてしまった。あたしはキッと声のした方を睨んだ。声はやんだが、噂はやまない。どうやら、姫が葉っぱコンビの片割れにご執心、ということになり、そのまま夏休みに突入してしまった。
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