09 体育祭・前編
体育祭当日。あたしはミレイと一緒に玉入れに出場した。強制的に参加させられる競技の中で、一番人数が多かったからだ。
あたしは元バスケ部だが、玉入れはバスケとはわけが違う。それに、こんな行事に本気になんてなれないし、適当に玉を拾って投げてやり過ごした。
ちなみに、一年生女子によるリレーの理科部対決は、すでに他の生徒も把握していた。
「千歳さんが勝つんじゃない? 彼女、勉強でもトップだけど、運動もできるって噂だよ?」
「いや、松風さんだろ。あの身長だし、脚長いし」
男子たちがそう話しているのが聞こえ、あたしはそちらを振り向いた。
「やべっ、葉っぱコンビの片割れに聞かれた」
「あぁん?」
ヤバい。つい、声が出てしまった。男子たちはそそくさとその場を立ち去った。
「どうしたの? ケイカちゃん」
「何でもないよ、ミレイ。それより見やすい場所を探そうか」
あたしはミレイを連れて、リレーのゴール地点がよく見える場所までやってきた。よっぽど二組と三組の実力がかけ離れているのでなければ、最終的にはアンカー対決になるのは自明だった。
「あっ、二人もやっぱりここに来たんだね」
そう声をかけてきたのはハイネだった。傍らにはアイリも居て、無愛想にレーンを見つめていた。
「ねえアイリ、ヒロミが勝ったらハグくらいしてあげたら?」
あたしがそんな冗談を言うと、アイリは食って掛かってきた。
「しねぇし。何度も言うけど、あたしら付き合ってないからな!」
「えー? 付き合ってなくても、ハグくらいはしてるよ?」
そう返してきたのはハイネだった。アイリはハイネにも文句を飛ばした。
「そりゃあ、あんたらは姫と騎士の間柄だからな」
「んふ? ボクたちはもっと深い関係だよ?」
そんなやり取りをしている間に、リレー開始のピストルが鳴った。あたしたちは、慌てて前に向き直った。
どの組も、順調にバトンが渡されていく。ヒロミとシホが受け取ったのは、ほぼ同時だった。
「いっけぇー! シホー!」
ハイネは周囲の目線もはばかることなくシホに声援を送る。あたしは本来なら一組を応援する立場だが、既に勝負はヒロミとシホの一騎討ちとなっており、そちらに目線をやった。
「凄い、どっちも譲らないね……!」
ミレイが息を飲んだ。二人は最終カーブを曲がった。
勝ったのは――シホだった。
「あー! ダメだったか、悔しい!」
ゴール地点にへたりこみ、ハァハァと息をついて、ヒロミが叫んだ。
「いや、いい勝負だった。ありがとう」
シホがヒロミに手を差し伸べ立たせると、二人は固く手を握った。
「さすが松風さんだよな」
「あの恵まれた体格だもん、当然だよ」
誰かが話すのが聞こえ、ヒロミは大声で言った。
「あのねぇ! こういうのは、偏った体格って言うの! 恵まれてるかどうかは本人が決めることだから!」
その瞬間、シーン、とその場が静まり返ってしまった。声の主は分からなかったが、相当バツの悪い思いをしていることだろう。
その静寂を破ったのは、ハイネだった。
「まあ、ボクの美貌は恵まれたものだけどね?」
そう言ってサラリと髪をかきあげたハイネに、皆が釘付けになった。本物の美少女が言うことなのだ、誰も文句は無い。それに、彼女の気迫に反論できる者など居やしない。
「えーと、ヒロミ。私はこの身長で良かったと思ってる。背が高いのは恵まれたことだと考えてるよ」
「ごめん、気にしてるかと思ってさ」
「いいんだ、ありがとう」
そうして、体育祭のハイライトは幕を閉じた。
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