08 お片付け

 季節は移ろい、六月になった。

 ミレイは放課後の部室に毎日行きたがったので、あたしもそうした。


「さーて、お片付けしよっか!」


 長い髪を一房にまとめ、ミレイは段ボールの中身を選別していった。あたしはゴミ袋を準備し、さらに細かく分別していった。

 何やら小説のようなものが書かれたルーズリーフ。これは燃えるゴミ。

 電池が入っていれば動きそうな、子供向けの変なおもちゃ。これは燃えないゴミ。


「やっほー! アタシも手伝うよ!」


 片付けに積極的だったのは、ヒロミもだった。アイリはというと、部室に入ってすぐパイプ椅子に座り、スマホをいじりはじめた。


「アイリもやりなよ! 部活規則書いたのアイリでしょー!」


 ヒロミが声をかけるが、アイリは知らん顔。


「ん、後でね」


 彼女はどうやらスマホゲームに夢中のようだったが、実際、後半の方は手伝ってくれた。


「こういうのってどうするの?」


 アイリが持ち上げたのは、古い模造紙だった。それは、この高校近辺の生物調査マップだった。写真と一緒に、簡単な説明が書かれていた。


「それは、一応残しておこうか。文化祭のときに役立つかもしれないし」


 ミレイはそう言って、アイリと一緒に模造紙を綺麗に折り畳んだ。あたしはチサトちゃんの言葉を思い出した。


「そういえば、文化祭は展示か何かしなくちゃいけないんだよね?」

「十一月だから、あと半年は余裕があるね」


 ヒロミが指を折りながらそう言った。


「その前に体育祭だよ、わたし、苦手だなぁ……」


 あたしはミレイのセリフに驚いた。彼女は運動神経も良く、体育の授業でもその実力を遺憾なく発揮していたからである。


「ミレイ、運動得意じゃん」

「えっとね、雰囲気が苦手なの。応援合戦とか、そういうの」

「なるほどね」


 アイリもミレイに同感のようで、うんうんと頷いていた。


「アタシは好きだけどなー! アイリに良いとこ見せられるだろうし!」

「ヒロミって運動もトップ?」


 そう聞くと、ヒロミはいやいやと否定した。

 二組のバカップルは、そういった感じで揃って顔を見せることが多かったが、三組の姫と騎士は、姫の方だけがよく部室に来た。


「シホって母子家庭なんだ。だから、週三でコンビニでバイトしてるの」


 ハイネがそう教えてくれた。どうやら昔馴染みのコンビニのオーナーが居るらしく、そこで働かせてもらっているようだった。

 本人の居ないところでそういう話を聞くのは、何だか申し訳ない気がしたが、ハイネは口を開けばシホの話ばかりするので仕方がなかった。


「シホって運動は得意な方なの?」


 ある日、ハイネにヒロミがそう聞いた。


「うん、まあまあできる方じゃないかな?」

「それは負けてられないなぁ。アタシ、リレーでアンカーするんだ!」

「マジで? シホもそうだよ!」


 どうやら、体育祭では理科部同士の対決が見られるらしい。あたしはわくわくしてきた。


「体育祭なんてダルいだけだと思ってたけど、楽しみができたなぁ」

「アイリにもっと好きになってもらえるように、シホには勝つ!」

「あー、勝っても負けてもヒロミに対する態度は変えないからね?」


 アイリがスマホから目を離さずにそう言うので、ヒロミがまたぎゃあぎゃあと騒ぎだした。そんな様子を、ミレイが微笑ましそうに見つめているのが印象的だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る