06 学外活動・前編
学外活動、もとい、動物園に行こうの会当日。あたしは遅刻した。
十分くらいなら、何てことないだろうと軽く考えていたんだが、あたし以外のメンバーは全員時間内に集合していたらしく、あたしはミレイにこっぴどく叱られた。
「ケイカちゃん! わたしと二人の待ち合わせならまだいいけど、今日は五人待たせてたんだからね!」
確かに、美少女五人を待たせるような凡人女はちょっと罪深い。
「はぁい、ごめんなさい……」
実際、怒っているのはミレイだけで、他の四人はニヤニヤしながらあたしたちのやりとりを眺めていた。
ちなみにミレイは、深いグリーンのワンピースを着ていた。初めて見る彼女の私服。性格に似合う、清楚なものだとあたしは思った。よく似合っている。もちろん、そんなことは口には出さないが。
さて、動物園に行きたい、と言い出したのはヒロミだった。そんな子供っぽいところなんて、とアイリが反対したのだが。
「それっていかにも理科部らしくない? ここって生物部でもあるでしょう?」
と部長の鶴の一声があったので、全員賛成した次第である。
内心あたしも、女子高生六人で行くような場所では無いだろうと思っていたのだが、ゾウが見えた段階でつい駆け出してしまっていた。
「うわぁ! なんだかこういうの久しぶり!」
同じようにゾウの柵に駆け寄ってきたのはヒロミだった。
「アタシも久しぶり! 小学校の遠足以来じゃないかな?」
「そうだよね!」
しばらくゾウを眺めた後、ふと振り返ってみると、シホが動物園のパンフレットを熱心に読んでいた。
「ふれあいコーナーは十三時からだ、ハイネ」
「じゃあ、お昼ごはん食べたらすぐ行く感じ?」
「そうだな」
ふれあいコーナーには、どうやらウサギとモルモットが居るらしい。ハイネがそういうものが好きそう、というのは、いかにも姫のイメージ通りだった。
というか、ハイネ自身がウサギに似ているとあたしは思った。ゾウの次はキリン、シマウマと見て行ったが、彼女はぴょんぴょん跳び跳ねながら楽しんでいたからだ。
アシカの所に着いたとき、あたしはそれを口に出した。ハイネに対する、初対面時の苦手意識はすっかり消え去っていた。
「ハイネってウサギに似てるよね」
「そう? ウサギって可愛いもんね。でもボクって、アシカくらい泳ぎも得意なんだよ!」
「ハイネがウサギなら、私はオオカミなのかな……」
シホが思い詰めたような顔をするので、あたしは言った。
「確かにオオカミかも。ほら、一匹狼っていう言葉があるけどさ、本来オオカミって群れで行動するでしょう? 和を乱そうとしない辺りがオオカミっぽい」
そんなあたしの返答が意外だったのか、シホは頬を赤く染め、視線を泳がせた。
「シホって、この身長にこの顔でしょ? 外見のことは言われ慣れてるけど、内面言われるとこうなっちゃうの」
「ハイネ、余計なことを言うな」
「ケイカってば、姫から騎士を奪おうとしてない?」
さらに余計なことをヒロミが言った。
「そんな発想になるのはヒロミだけだから!」
「またまたぁ」
実のところ、シホの態度は可愛らしいと思ってしまったが、ヒロミの言うような感情までは抱いていない。
「ところで、ハイネちゃんとシホちゃんっていつから知り合いなの?」
ミレイが助け船を出してくれた。
「小学生のときからずっと一緒なんだ!」
まずはハイネが答えた。
「高校は、別々になりそうだったんだが……ハイネが頑張ってくれてな」
そうしてシホが、こんなことを話してくれた。
ハイネは元々、うちの学校には到底入れないような学力の低さだったらしい。それが、シホと同じ高校に行きたいからと中三から猛勉強。ギリギリではあったが、晴れて合格したとのこと。
「そんなわけで、この前のテストもぜーんぜんできませんでした! 実は週明けから補習です! いぇい!」
「なーにがいぇい、だ」
シホがコツンとハイネを小突いた。
「勉強なら、ヒロミに教えてもらえば? こいつ、余裕で学年トップだったし」
アイリがヒロミを指すと、彼女はぶんぶんと頭を振った。
「いやいや、教えるのはまた別だから! それに、アタシの空き時間は全部アイリの物だから!」
「あたしの空き時間は一秒たりともヒロミの物じゃないからね?」
二組のバカップルのいちゃつきはさておき、あたしたちは順路通りに動物園を周り、昼食を取ることにした。
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