05 理科部結成

 理科部再建に必要な六人が揃ったということで、あたしはミレイと一緒にチサトちゃんに書類を貰いに行った。


「もう揃ったの?」

「はい、思ったよりスムーズにいきまして」


 そうなのだ。あたしの見立てでは、もう少し難儀すると思っていた。ミレイが付け加えた。


「部室を見せたら、皆さん興味津々で……」

「ああ、あそこ、理科部らしからぬ物が色々あったでしょう? つまりはそういうこと。文化祭のときだけは、それらしくしてくれたらいいからね」


 チサトちゃんは、あの部室を本来の活動として使わなくても良いと黙認してくれたのだ、とその時のあたしは思った。

 手渡された書類には、部員の名前を自筆で書く欄があったため、一度全員で集まることにした。

 あたしとミレイは、放課後になるとすぐに理科部へ行った。六人が一度にこの部室に入るのだから、多少は整えておこうと思ったのである。


「そういえば、部長って誰に頼むの?」


 片付けながら、ミレイがそんなことを聞いてきた。


「おい、それはミレイがやれよ。言い出しっぺだろ」

「ええー! ケイカちゃんがやってくれてもよくない?」

「あたしは嫌だ。そういうのダルいもん」


 そうこうしていると、他の四人も次々にやってきた。口の字に並べられた机の三つの辺に、それぞれの「コンビ」ずつで座った。

 それにしても……と、あたしはここに揃った顔ぶれを見てため息をついた。

 あたし以外、全員、美少女じゃないか。

 ミレイはもちろんのこと、二組のバカップルも、三組の姫と騎士も、皆違った輝きを放つ美しい女の子たちだ。

 平凡なのはあたしだけ。

 ちょっとダラダラする場所が欲しかっただけなのに、どうしてこうなったんだろう。まあ、率先して動いていたのはミレイだから、彼女の力でこうなったのか。

 そんなわけで、他の四人も当然のようにミレイが部長にふさわしいと指名した。


「ボクたちに話しかけられる度胸があるくらいなんだもん、当たり前でしょう?」


 そうハイネが言うと、ヒロミも応戦した。


「アタシなんかアイリと引き剥がされてまで話聞かされたんだよ?」

「うう……わたしがやります……」


 観念したミレイは、書類の一番上の欄に自分の名前を書いた。続いて、あたしが書き、次々と回していった。


「じゃあ、わたしが仕切るね? いくつか決め事作っておこうか」


 ミレイはまず、この部室を使いたい人は、少しずつでいいから掃除をしていこうと提案した。もちろんそれは全員同意だ。

 次に、ハイネがこんなことを言い出した。


「部室内で不純同性交友は無しね?」


 食って掛かったのはヒロミだった。


「不純同性交友って何さ!?」

「ヒロミ、あんたがいつも、あたしにしようとしていることだ」


 アイリがじとりとヒロミを睨んだ。確かに、そういうのは困る。いや、どういうのかは具体的には知らないが。

 興味が出てきてしまったあたしは、アイリとヒロミに問いかけた。


「で、二人は実際、付き合ってはいないわけ?」

「そーだ! 付き合ってなんかいない!」

「うん、まだね? まだ、付き合ってないだけ」


 ヒロミはやたらと「まだ」を強調するので、詳しく聞いてみると、こうだった。

 アイリに告白してから一週間後、諦めないヒロミに業を煮やして、アイリはこんなことを言ったらしかった。


「三年間、あたしのことが本気で好きだったら、卒業式の日に付き合ってあげる」


 一生寄り添うつもりでいたヒロミにとって、三年間なんてなんのことは無い。一方のアイリは、そんな宣言をしてしまったことを後悔しているようだが、律儀な性格なのか、自分の言ったことは守るつもりでいるらしかった。

 二組のバカップルのそんな裏話を聞いて、口を開いたのは、今まで押し黙っていたシホだった。


「部活内規則に、不純同性交友は禁止、と書いておくか」

「さすがシホ、真面目だねぇ」


 シホが本気の様子なので、ハイネはケラケラと笑った。


「ぜひとも徹底して欲しいね。ちょっとさ、これにそういうの書いていかない?」


 アイリはルーズリーフを取り出すと、「部活内規則」と大きめの字で書いた。


「アイリちゃん、書記やってくれるの?」

「まあ、そういうことでいいよ、ミレイ」


 それからは、お菓子を持ち込んだら封をきちんとしておくだとか、スマホの充電は譲り合って使うだとか、理科とはおおよそ関係ない規則をあたしたちは並べていった。

 そんなことをしている内に、あたしは何だか楽しくなってきてしまった。最初は名前だけの入部、と言っていたはずのシホも、なんだかんだ乗り気で規則案を出していた。


「ねえ、休日に皆でどこか行かない? 学外活動ってことでさ!」


 いつの間にか、あたしはそんなことまで口走っていた。


「いいね、ケイカちゃん!」


 すぐさまミレイが応えてくれて、今度は学外活動についての相談が始まった。

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