04 三組の姫と騎士
部員候補が四人になった翌日。
二組のバカップルを勧誘したときと同様、昼休みに、あたしとミレイは二人で三組の教室に向かった。
「ちょっと緊張するなあ……」
「さすがのミレイでも?」
「だって、アイリちゃんやヒロミちゃんと違ってとっつきにくそうなんだもの」
三組の姫とは、
白川さんは、眉目秀麗という言葉をそのまま形作ったような、顔立ちの整ったおかっぱ頭の女の子である。ハイネという珍しい名前に見合う、美麗な少女だ。
そして、そんな白川さんと連れ添っている松風さんは、身長百七十五センチという長身の女の子。白川さんは百六十センチくらいとそれほど低くないのだが、二人が並ぶと、さながら姫と騎士のようで、そんな名称がついているのである。
「特に、松風さん。キリっとしてて、ちょっと恐いよね」
ミレイはそう言うが、そういう利発そうな顔立ちは同時に美しくもある。ベリーショートの髪型も相まって、威圧感は確かにあるが。
三組の教室を覗くと、窓側の前後の席に、彼女らは座って話していた。意を決したミレイは、二人に話しかけた。
「初めまして、白川さん、松風さん。わたしは青葉美礼と申します」
「ん? 知ってるよ。一組の美人さんだ」
初めにそう返してきたのは、白川さんの方だった。小首を傾げ、潤んだ丸い大きな瞳でミレイを見上げている。松風さんはというと、きゅっと唇を結び、自分からは何も話さないでおこうとしたようだった。
「美人さんだなんて、ありがとうございます」
「まあ、ボクの方が可愛いけどね?」
「そうですね」
あたしはこの瞬間、白川さんを苦手だと思ってしまった。一人称が「ボク」であることはなんとなく伝え聞いていたが、実際に耳にすると違和感が物凄い。真っ白なワンピース姿が似合いそうな可憐な少女が「ボク」と言っているのだ。しかも、自分の方が可愛いとまで。
「時間も惜しいですし、用件をお話ししますね……」
ミレイが理科部についての説明を終えると、ようやく松風さんの方が口を開いた。
「私、バイトしてるから、活動には参加できそうにないんだが」
「いえ、けっこうですよ。名前だけの登録でも」
松風さんがアルバイトをしているというのは初めて聞いた。うちの高校は原則禁止だから、大っぴらにバイトをしていると話すということは、何か家庭の事情があるんだろう。
「ハイネ、どうする?」
「シホが入るなら入る」
「判断をこちらに委ねるなよ……」
二人は迷っている様子だったので、また放課後に理科部に来てもらう流れになった。
アイリとヒロミは、居るとややこしそうだったので、白川さんと松風さんは、あたしとミレイの二人で案内した。
「へぇ! 荒れてるけど片付ければ居心地良さそうじゃない?」
白川さんがそう言って、アイリと同じく辺りを物色しはじめた。
「ハイネ、勝手に触るな」
「まあまあ、良いですよ。わたしたちも、何があるのかよく知りませんし」
ミレイがそう言うので、白川さんが遠慮なく段ボールをあさると、今度は古いファッション誌に習字道具が出てきた。本当にここは理科部だったのだろうか。
ガサゴソと宝探しをする白川さんに呆れながら、松風さんがミレイに聞いた。
「他にもう二人、居るんだよね?」
「ええ。桜木藍理さんと、千歳広海さん」
「……二組のバカップルじゃないか」
松風さんは眉をぴくりと動かし、嫌そうな表情を浮かべた。一方の白川さんは、手を止めて松風さんに向き直った。
「マジで!? あの二人とは話してみたかったんだ! ねえシホ、面白そうだし入ろうよ!」
「いいけど、私は名前だけだからな」
「お二人とも、ありがとうございます!」
「ボクのことは呼び捨てでいいよ、ミレイ。そしてケイカ」
「私もシホでいい」
こうして、理科部再建のための条件は整ったのであった。
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