03 二組のバカップル

 中間テストは散々な結果だった。

 元々、背伸びしてここの高校を受けたので、あたしの学力レベルはこの中じゃ下の方なのだ。


「ミレイ、どうだった……」

「うーんと、まあまあかな」


 この様子だと、相当できた部類だろうとあたしは思った。


「その顔に加えて勉強でもトップ取るつもり?」

「まさか。学年トップは多分、彼女だよ」


 彼女、というのは、二組の千歳広海ちとせひろみのことだ。有名人である彼女の名前は、クラスは違えどフルネームで言うことができた。

 千歳さんが有名な理由はいくつかある。

 入学式での新入生挨拶は、受験時に一番の成績だった生徒が任されているという噂がある。それで、挨拶をしたのが、その千歳さんだったというわけである。

 千歳さんは目鼻立ちがくっきりとした中々の美人で、ポニーテールを揺らして壇上に上がる姿は、けっこう見ごたえがあった。

 そして、彼女は「ターゲット」の一人。どうやら帰宅部らしいのである。


「じゃあ、早速行ってみる?」

「ミレイが二人に話しかけてよ? 二組のバカップルに関わる勇気、あたしには無いからね」


 彼女が有名な理由のもう一つが、それである。

 千歳さんの所属する二組には、桜木藍理さくらぎあいりという、ストレートのロングヘアーが印象的な帰宅部の女の子が居る。千歳さんが、入学早々彼女に「付き合ってくれ」と告白して玉砕し、つれない態度を取られているものの、結局常に一緒に居るというのは周知の事実である。

 あたしには、女の子同士の恋愛とかがよく分からないが、本人たちが楽しそうならそれでいいんだろうと思っている。


「暑い! 近寄るな!」

「アイリ冷たいー!」

「あたしは暑いんだ!」


 昼休み、二組の教室を開けると、そんな楽しそうな? 様子が目に飛び込んできた。


「せっかくテストも終わったんだし、これからはもっと一緒に過ごそう? ね? アイリ!」

「ヒロミはテスト期間中だろうとお構い無しだったじゃないか!」


 桜木さんという子は背が低い。百五十五センチのあたしより小さく見えるから、百五十センチほどじゃないだろうか。

 一方の千歳さんは、ミレイと同じく百六十センチ以上はあるだろう。

 そんな彼女らだから、猫が大型犬に襲われているように見えるのだが、二組の皆さんは素知らぬ顔。きっとこれが「いつもの光景」なのだ。

 さて、この状態で、ミレイは一体どう行動に出るのだろう? とあたしはどこか他人事のように、二組の戸口に突っ立っていた。

 すると、ミレイは何の遠慮も無く教室の中に入って行った。


「千歳さん、桜木さん、初めまして。わたしは青葉美礼と申します」


 ミレイは柔和な笑顔で彼女らに近付き、うやうやしく挨拶をしたのだった。話しかけられた二人はポカンとした顔を浮かべている。

 返したのは、襲われている方だった。


「青葉さん、ちょっとこいつ引き剥がしてくれない!?」

「わかりました」


 言われたとおり、ミレイは千歳さんの肩をぐっと掴んで、自分の方に引き寄せた。


「痛い痛い痛い!」

「すみません、どうしてもお話がしたいもので」


 あんな細腕のどこに力があったのか、ミレイはかなり強く千歳さんを引っ張ったようだ。


「それで、話って?」


 大型犬から解放された桜木さんは、訝しげな表情でミレイの瞳を見つめた。彼女は近くで見ると、童顔でかなり可愛らしい顔立ちをしていた。


「実は……」


 ミレイが手短に説明を済ませると、二人はこんな反応をした。


「それじゃ、アイリと過ごせる場所ができるってこと!? アタシ入るよー!」

「待て待てヒロミ! あたしは了承してないからな!」

「まあ、名前だけ登録するのでもけっこうですから」

「いや、実際行ってみていい? その理科部って部室にさ」

「ヒロミ、マジで言ってる?」


 桜木さんは浮かない顔だったが、それでも放課後に二人は部室に来てくれた。




「へぇ……色々あるね。なんか、楽しそうかも」


 部室の中身に興味を持ったのは、桜木さんの方だった。ガサゴソと段ボールをあさっては、ほーんやらへぇーやらと声を漏らしていた。


「なんで星占いの本とかあるの?」


 桜木さんにそう聞かれてしまったが、こちらも分からないのでかぶりを振った。その他にも、髪を切るためのスキばさみやら、大きめの鏡やらが出てきたが、過去の理科部は一体どんな活動をしていたのだろうか。

 一通り物色を終えた桜木さんは、ミレイに向かってこう言った。


「青葉さんって、ヒロミのストッパー役にもなってくれそうだし、いいよ。あたしも入る」

「ありがとう、桜木さん!」

「アイリでいいよ。こいつもヒロミでいい。で、そっちは……」

「ミレイでいいよ」

「あたしもケイカで」


 これで、あたしたち四人は部活を再建する仲となった。


「一組の葉っぱコンビと、こんな形で関わることになるなんてねぇ?」


 アイリはそう言うと、いたずらっぽい笑みをヒロミに向けた。


「そうだね、アイリ。こちらとしても光栄かな?」

「……あたしたちって、二組でも有名なわけ?」


 あたしがそう聞くと、二人は揃って頷いた。あちらの方が有名だろうとは思うが、何ともいたたまれない。


「それでね、あと二人必要なんだけど……やっぱり、あの二人かな?」


 ミレイの言う「あの二人」については、アイリとヒロミも把握しているようだった。アイリが言った。


「三組の姫と騎士、だね」


 そう。次の「ターゲット」は、三組に居るのであった。

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