3.マウスかガラケーが使えればネット小説は読めた

 時代背景と自分の感覚を説明したところで、約二十年前のネット小説について話を続けたい。

 前提としての情報ばかり押し付けて申し訳ないのだが、当時生まれてない人のために説明すると、ネット小説というものは当時まったく注目されていなかったが、ネット小説と呼べるもの自体は世の中で流行していた。

 お前は何を言っているんだという話だが、わかる人にしかわからないい方で言うと、

「魔法のiらんどはあったけど、ネット小説は書籍化されてなかったよね」、となる。

 つまりどういうことかというと、「ケータイ小説」は存在していたし有名だったが、それはあくまでケータイ小説であって、「ネット小説」とは違うのだ。

 じゃあケータイ小説とネット小説はどう違うのかという話になるが、ケータイ小説というのは「ケータイで読める主に女子向けの小説」で、ネット小説というのはそれ以外だ。区分的な話をすればどちらもネット上の小説なのだから、理論上、ケータイ小説はネット小説の一ジャンルでしかない。

 (ちなみにネット小説のほとんどは、ガラケーそのものの機械的な問題で、パソコンでしか読めなかった)


 で、現代に振り返って自分が言いたいのは、

 この構図って今のなろうと大まかには同じじゃね?ということである。


 (ケータイでネット小説が読めなかったという点はともかくとして)現在だって、別に異世界転生チートハーレムばっかりがネット小説ではないし、なろう小説でもないが、世間的に言えばなろう小説ってのはそんなもん、という認識である。

 それと同じで、ケータイ小説もおそらく流行の要素が主流じゃない物語はあったと思うが、圧倒的割合で「特定の物語要素」だけだった。

 では「なろう」でいうところの「異世界転生チートハーレム」にあたるケータイ小説の物語要素は何だったのかということになるが、

 これは言わずもがな、「ドラッグ・援助交際・いじめ・婦女暴行を交えた学校生活とイケメンと恋」、だった。

 わりと若者がやらかしそうなダークな世界を女子高生視点で書きました、という、いわゆる「やらかした陽キャ」の世界が主だった。もちろん文章力も語彙もストーリーもお察しで、とりあえずいじめかドラッグか不治の病に苦しむ主人公をイケメンが都度助けてくれるのが山場だった。

 そんなやらかした陽キャが出てくる作品群はどんどん書籍化され、それ以外のネット小説は自作のホームページという舟に乗ってネットの海に漂う。そんな線引きされた世界があったのだ。今でいえば、ガチガチのなろう作品だけが徹底的に書籍化されて、他はパソコンからしか読むことができない時代だと思ってくれればいい。


 そして勘の鋭い、あるいは同時代を生きた読者ならわかると思うが、当時小学生か中学生の陰キャ真っ盛りな自分としては、

 ニチアサの女児向けアニメをチラ見するくらいの恥じらいはあったが、何が悲しくて自分と同年代かちょっと先輩世代の明らかに頭の悪そうな連中が好き好んでやらかした失敗、あるいは不幸な物語を好き好んで見るのか、ということで、理解も共感も得ることなく、自分は普通にライトノベルを読んでいた。

 それでも世間的にはケータイ小説は有名だったし話題だったし、本屋では売れていた。

 ケータイ小説という「少女漫画よりもう少しダークな作風の世界観の小説」、という陰キャにはさして興味のない本の群れはこうして一時代を築いて、それからどうなったかは知らない。

 興味がないのでそれ以上の情報はないのだ。

 しかし自分がどれほど興味なかろうと、どう考えても理論上はケータイ小説がネット小説、つまるところ「なろう」の源流・古典であることには間違いないと自分は

 それだけの話だ。

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