第24話
「ダーク!頑張るから見ていてね!」
ご主人様がウィンクする相手は、元魔王でありご主人様の下僕の1人であるダークだ。
「はい、来賓席で見守っています。ご武運を」
その言葉を聞いたご主人様は破顔し、ぎゅーっとダークに抱きつく。12歳になったとは言えど、ご主人様の背は小さい。ダークは自身の胸の位置にある頭をそっと撫でる。
ご主人様が嬉しそうに、えへへと笑う。
俺の横にいるサンがふたりの様子を見て、胸を抑える。サンにとっては失恋の痛みすらご褒美だ。
(この変態め‼︎)
見ていられないと思い、二人の邪魔しに行こうとするとサンに止められた。邪魔をするなということだろう。
知った事かと俺を掴むサンを睨むと、首を振られた。
「無粋な真似をしてはいけませんよ。ティンク様」
「何様のつもりだ?手を離せ!」
「愛する二人の邪魔をするのは、例えティンク様であっても許されませんよ。そしてお嬢様も望んでおりません」
「ご主人様とダークが愛し合っていると言うのか⁉︎」
俺の勢いにはまったく怯まず、サンは静かに頷く。
(あり得ない‼︎)
声を大にして叫びたいが、グッと目を瞑り我慢する。
12歳になったご主人様は、ダークを恋人に選んだ。そんなご主人様は週に一回はダークとデートをする。
ダークとの恋愛を反対する俺はいつもサンに捕まる。俺はご主人様と共に同じ人生を歩んでるから腕には自信がある。つまりサンなんて倒おうと思えば倒せるし、振り払って逃げるなんて簡単だ。だけど、「人の恋路を邪魔するなんて無粋ですよ……」と、いつも言われるので、仕方なく我慢していた。
でも今日は別だ!
今日は待ちに待ったイリゼ国の剣術大会だ。そしてその大会にはレオナール様も出席する!レオナール様にご主人様が浮気している姿なんて見せられない!
「どちらにしろ醜聞になることは確かだ。名目上ではダークは名誉教授、ご主人様は生徒だ。人に見られたら困るだろう?」
「人に?おかしなことをおっしゃる。ここは貴賓室ですよ?」
無理がある言い訳なのは分かってる。承知の上で言っているのだ。
俺達はいま、剣術大会の来賓の一人であるダークのために用意された貴賓室にいる。ダークが来ることを聞いていたご主人様はダークの部屋に突入したのだ。
俺は……その姿だってレオナール様に見られたくない!
「ティンク様……幼い頃の愛など消えるものです。ましてやご主人様はレオナールに何度も振られております。恋心が冷めても仕方がないでしょう」
「お前が、ご主人様の何を知っていると言うのか?」
「その言葉はティンク様にお返ししましょう。ティンク様こそ、ご自分の理想をお嬢様に押し付けているのでは?」
まるで洗脳するかのようにサンの目は怪しく光る。俺が間違ってると認めてしまいたくなる。違うはずなのに!
「サン、ティンクをいじめないで!ティンクはダークと私が年の差があるのが気に入らないのよ。愛があれば関係ないのに……」
ねーっと言ってふたりで見つめあうご主人様とダークの姿にイライラする。
(これ以上、見たくない‼︎)
そう思うと自然と体が部屋を出ていた。
そのまま廊下から建物の外へと向かう。
剣術大会はイリゼ国の王城にある円状の闘技場で行われる。闘技場の下には貴賓室があり、廊下から階段を登ると全てが見渡せる貴賓席に行ける。
まだ大会が初めまるには時間がある。貴賓席には誰もいないし、貴賓席の下の観覧席も空席になっている。もちろん討議場には誰もいない。今は俺だけだ。
貴賓席で思いっきりため息をつく。
ご主人様はレオナール様と朝夕の食事を共にしなくなった。かろうじてランチは一緒、授業を受ける時は隣同士の席だけど、それだけだ。その姿はまるで仲の良い学友だ。ふたりの間に恋心は微塵も見えない。同級生だってそう思い始めてる。俺は……真相を知っている俺としては辛くて仕方ない。
言いたいけれど、言えない。それがこんなに辛いなんて思わなかった。
「ティンク!」
声をかけられて振り向く。俺が背後の気配に気づかない人間はわずかだ。その僅かな人間が呑気に手を振る。
「お前の主人は優勝候補だそうだ」
「お前のご主人様だってそうだろ?」
ふっ、と笑う口元は自信に満ちている。ご主人様は剣術において、まだレオナール様に勝ったことはない。今回は勝てるのだろうか。
「今回はお前の主人が勝つさ」
「どう言う意味だ?」
「そのままさ。今回は負けることになっているんだ。全てにおいて。成績だってそうだろう?」
「あれは弓のせいだろう?お前のご主人様は未だに苦手だ。どうしたらあそこまで下手なのか分からないよ」
「ああ……あれね」
「嫌な言い方だな。何かあるのか?」
そのまま黙ってしまった。今回はイレギュラーが多い。俺とこいつがこんなに近くにいる事もない。そもそも繰り返しの人生で会ったのだって2回だけだ。
「どちらにしろ、今回の勝利はフェリシエンヌ様だよ。お祝いの花束でも用意しておけよ」
そのままスッと去る奴の姿を見送っていると、闘技場の影にいるレオナール様の姿が見えた。
どうやらレオナール様の指示で俺の元に来たらしい。
「ピンクのカーネーションにするか……」
俺の呟きは晴天の空に飲み込まれた。
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