8度目の人生(5)
アダル国の国境線に魔王軍が集結している。アダル国は迎え撃つために兵を集結させている。私はその真ん中に降り立つ。
両軍から、誰だ⁉︎とざわめきが聞こえる。
私は右手を掲げる。右手から天へと向かって光が迸る‼︎
「派手ですね……」
ティンクがポツリと呟く。
「派手な方が目立って良いと思ったが……ダメだったか?」
「うーん、世界を守る勇者様って触れ込みで行くんですから、派手で目立ってかっこいい方が良いですよね。そう言う意味ではどんどん派手にいっちゃいましょう!」
ティンクの了解が得られた。ティンクがそう言うのであれば、私は彼のために派手な勇者になって見せる!
「愚劣で悪逆非道な魔物共よ!私は勇者アルノーだ!貴様達に正義の鉄槌を下してやるために現れた!人の力をお思い知るが良い‼︎」
大きな声で叫んで、その声を風魔法で拡散してみた。アダル国からは歓喜の声が上がり、魔王軍からはブーイングが来る。
つまりこの要領でやれば良いらしい。ティンクの私を見る目は冷たい気がするけれど!
「『極・雷撃の魔法』‼︎」
やはりここは派手にすべきだと思ったので、雷の雨を魔王軍に降らせる。魔王軍が自軍に張った結界を粉砕しながら、魔物達を攻撃する。
更に竜巻だ!
「『極・光炎竜巻』×10‼︎」
聖なる魔法と風魔法を合せた魔法で魔王軍を蹂躙する。魔物達が竜巻に巻かれ空を飛ぶ!竜巻に巻かれた魔物は風と光炎によって体が引き裂かれ、燃やされる。
魔王軍の半分はこれで消えたのではないだろうか。今まで人生が馬鹿馬鹿しくなるくらい弱い魔王軍に笑みも漏れる。これが努力の成果と言うものか!
「貴様――――!我こそは魔王軍四天王の一人――
叫びながら突進してきた魔物はジークシュベルト餌食になってもらった。
「四天王?」
「そう言いかけてましたね。しかしご主人様――口上の途中で相手を殺すのは儀に反しますよ?」
「そうか……それは申し訳ない事をした」
ふっと自重気味に笑う。お師匠様であればそんな事を言ってる暇があれば、剣を抜けと仰るだろう。
そう思いながら魔法と剣を振るい続け……1時間も立たないうちに魔王軍は全滅した。かろうじて生き残った魔物はアダル国軍が捕まえる。きっと捕虜として扱ってくれるだろう。
そんな中アダル国の騎士隊長が来て、王宮へと案内された。そこには打ち合わせ通り私がいた。聖女フェリシエンヌ・エルヴェシウス。つまり、私の身代わり精霊だ。
そこで私は私から勇者の認定をもらい、魔王討伐の旅に出るよう言われた。アダル国王と貴族達は手を叩いて喜んだ。
たった一人に責任を背負わせて高みの見物を決め込もうとするその根性には感服する。王宮にはハーレムと言われる女ばかり集めた王の快楽施設があるらしい。そこに身代わり精霊……つまり私も入らないかと誘っているらしい。
(こんな国を助ける必要があるのだろうか)
いや、天界の神も言っていたではないか。一部の人間が悪いから、みんな悪いと思わない事だと。王に罪はあれど、国民に罪はない。
だから王は後で地獄に落としておこう。
アダル国王に地獄落としをした翌日。私は一人で魔王の城に向かった。真っ青な顔で目の焦点が合わないアダル国王にはウケた。思ったより小心者だ。
そして私は魔王城に辿り着く。門を守るミノタウルスはバターナイフで撃破した。次々と現れる魔物達も倒して行く。
「本当に一人で十分ですね」
ティンクが呑気に私の横を飛ぶ。
今度はティンクを守る。私はそう誓いながら魔物を屠る。
城に入るのも2度目だ。魔王がいる部屋までの道は覚えている。ずんずん進むと四天王の一人、ラミアのムーンに会った。
「乳離れもしていない様な坊やがなにしに来てるのかしら?もっと大きくなったら、相手をしてあげても良いわよ〜」
「乳離れはとうにした。今みたいのは貴様の血だ!」
なんだか自然に言葉が出てきた。これは誰が言ってたセリフなのか?
しかし知らなかった……。ムーンは男好きだったのか。女好きで変態のサンに、男なら人間でもいいムーン。魔王軍は思ったより人材が豊富だ。
ムーンを撃破し、先へ急ぐ。吸血鬼のサンは気持ち悪いから素早く浄化する。
そして前回共倒れした相手、魔王を目の前に見据える。改めて見ると綺麗な顔をしている。前回の事を覚えていれば、私達を殺した相手を教えてもらえるのに……。
でもそれを言っても仕方ない!
私はジークシュベルトを魔王に向ける。
「人如きがその剣を持ったところで怖くもないわ!」
前回も同じ言葉だった気がする。
「死んでも同じ言葉が言えるかな?」
私は剣を上段に構えた。これで魔王軍の脅威は去る。それだけで繰り返しの人生にも意味があると……そう思った。
呆気なく魔王を倒し、私はその事を聖女の私に伝えた。これで世界は平和になる。戦う力を身につけて良かった。
でも魔王討伐はアルノーとして成し遂げた事だ。フェリシエンヌは依然として聖女だ。そう言う意味ではレオナール様は認めてくださらないだろう。だけどそれはもう良い。諦めている。
「これでレオナール様もご主人様を認めて下さいますね!」
ティンクは笑顔でそう言うけれど、もうそんな日は来ないだろう。でもそんな事はティンクには言えない。
私は身代わり精霊と交代し、いつものように、レオナール様に会える日を心待ちにする演技をする。
そんな中、魔王のいた土地はアダル国が統治する事になったとの情報を得た。戦士ヨルダンの故郷。そう言えば、ヨルダンは自国の政策に反対して奴隷落ちになったと言っていた。あの王が作っていたハーレムだろうか?なんとなく気になり、アダル国に行った。
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