8度目の人生(2)

 そして私はまた旅に出た。お馴染みの身代わり精霊は呼ばなくても来てくれた。これが勇者の力らしい。とても便利だ。


 精霊にはいつも通り商売と錬金術師オレリアに事を託す。大神殿が勇者という哀れな生贄を作ると困るので、天界の神に頼んで私を聖女に選んでもらった。精霊には神殿に行って、神官達が悪さをしないようにお仕置きしてとお願いした。

 精霊は人とは違う次元の生き物だ。お仕置きが度を越えなければいいけれど……。


 旅に出た私はまずはリリアを鍛えることにした。剣を与え素振りを教えようとしたら、私に斬りかかろうとし、『従属の誓い』の痛みがリリアを襲った。やっぱりダメ人間らしい。


 仕方ないので、身体を矯正的に動かす魔法を使って剣の型を1日中、1ヶ月間休む事なくやらせた。食事は胃の中に強制転送した。栄養さえ取れていれば人は死なないだろう。


 1か月後に魔法を解いて、打ってこいと言ったら『従属の誓い』の痛みがリリアを襲った。どうも私を殺そうと思った様だ。やっぱりやり過ぎだったみたいだ。これにはとても反省した。


 厳しくするからダメなのかも知れない……そう思った。飴と鞭で指導すると言うのをどこかで聞いた。だから私が厳しくして、ティンクが優しくすることにした。一日中の指導を止めて、3食昼寝付きに変えた。そして普通の人間に指導するレベルで鍛えてみる。


 するとティンクを人質にして逃げようとした。演技とはいえどティンクは私からリリアを庇ってあげたし、自分の分のおやつもあげていたのに‼︎


 頭にきたので『回復継続魔法』をかけて地獄に堕としてみた。


「全然うまく行かないわ」

 私の嘆きにティンクが呆れた声で答えた。

「だから無理があったんですよ」


 二人で同時にため息をつく。この地獄落としは前の人生で神官達に効果があった。これで心を入れ替えてくれれば良いけれど……。


 地獄堕としから一週間ほど経ってリリアを救出した。すると驚くほど殊勝になって帰ってきた。良い傾向だ。

 それからのリリアはまじめに修行をした。すると中々筋が良い。剣も魔法も使える。回復魔法が使えないのは元々の性格が悪いからかも知れないけど、攻撃魔法の強さには驚いた。やはり暴力的なのだと納得した。


 人並みの生活は必要だろうと思い、3食昼寝つきのままでお給料も用意した。そうするとリリアは更に頑張る様になった。


 そして5年間修行に励んだ結果、リリアは冒険者としてB級で登録された。初めからB級とは破格の待遇だ。リリアは私の手を取り、泣きながら喜んだ。私もとても喜んだ。リリアは改心した……そう思えた。

 

「え⁉︎フェリシエンヌ様!『従属の誓い』を解呪して下さるんですか?」

「ええ、だってリリアは立派な冒険者だもの」

 だから私はリリアに解呪を申し出た。リリアは泣いて喜んでくれた。私はこんなリリアになんて事をしていたのだろうと反省した。


 だけど人はそう簡単に変わらないらしい。


 解呪したと同時にリリアは私に剣を向けた。更に私が教えた雷の魔法を住んでいる街に落とすと脅してきた。


「この街の住民の殆どは死ぬでしょうね。こんな強大な魔法を教えて下さりありがとうございます!クソガキ様‼︎」


 キャーハハハ――と甲高い声で笑うリリアに声も出ない!リリアはずっと殊勝なフリをしてこの機会をねらっていたんだと分かった!どうしてこんな女に力を与えてしまったのか‼︎


 今のリリアは地獄に堕とすこともできない。地獄に被害が出る。それだけの力がついている。では手はひとつだけ!


「『隷属の首輪』!」

 更に強い術でリリアを縛る!だがその術はリリアによって弾かれた!

 まさかここまで力を手に入れてるとは‼︎だが私より強いと思わないことだ!


「『強・重力魔法』!」

「なんだこれは⁉︎」


 リリアは私が放った魔法により蛙の様に地面に縫い付けられた。私がリリアに教えたのは魔塔レベル。賢者の魔法は教えていない。つまりまだまだ未熟と言うわけだ。


「リリア……本当にお前は性格が悪いらしい。しかも目的のために私を騙すとは恐れ入った。騙されてしまった私は間抜けだな」

 やはりこう言う時はお師匠様モードだ。お師匠様はやはりかっこいい。


「どうやらお前を更生させることはできない様だ。仕方ない……お前にはふさわしい姿になってもらおう」

 私はお馴染みの変身の魔法を使う。ふと気付く。この魔法はリリアにしか使ったことがない。

 ぼん!っと音がして煙が出て、リリアは……黒光りするゴキブリに変身してしまった。ゴキブリになったリリアは、さささっと逃げていってしまった。


「……ご主人様……過去一番えげつないですね」

「そうね……でも過去に変身させた、あのなんだか分からない気持ち悪い物よりは良くないかしら?」


「いや……だってあれを好きな人はいないでしょう……」

 確かにそうだと思った。私も随分とリリアの事が嫌いになっていた様だ。


「無駄な時間を過ごしてしまったわ。どうしようかしら」


「そうですね……。ご主人様は十分に強いから今更この辺の魔物では相手になりませんし……そうだ!レーネックに行ってみたらどうでしょうか?今ならレオナール様はジェネロジテ学園で勉強中でいませんし」


「……レーネック」

 一度は行ってみたいと思っていた地。イリゼ国の海に面した最南端にある地。辺境の地。レオナール様の産まれた地。


 どうせ行くならレオナール様に案内されて、手に手をとって行きたいと思っていた。レオナール様の正式な妻として行きたいと思っていた。でも……そんな時は来るのか……。私にはもうレオナール様との未来が見えないのに……。


「そうね。一度は行っても良いかも知れないわ。彼の地の魔物は強いと聞くし……」

 ティンクがニコニコしながら私の周りを飛ぶ。ティンクが喜んでくれるなら良いかも知れない。


「でもね……ティンク。私は私のままではいけないわ。そこは許してね」

 私はにっこり笑って見せた。そう……フェリシエンヌの殻を脱ぎ捨てる時が来た。

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