8度目の人生(1)
「おはようございます。ご主人様」
私は目だけを動かしてティンクを探す。起きない私を心配してティンクが私の枕元に降りてきた。
「ティンク……良かった」
「ご主人様、俺は先に死んでしまいましたが、魔王は倒せましたか?」
「ううん、ダメだった。相打ちよ……」
私は笑って見せる。
私と魔王は第三者に刺され殺された。あれは誰だったんだろう。背中から刺された私と違って、魔王は私達を殺した人を見たはずだ。魔王に聞けたら……いや意味がない事は分かっている。もう忘れているだろう……。
この事はティンクには言えない。黙っていようと心で決めた。
「と言う事は……レオナール様には勝てませんでしたが、魔王とは良い線いったって事ですね。今回はどうしましょう」
「それなんだけど、ティンク。私の中にジークシュベルトがいるの」
「はぁ?どう言う事ですか⁉︎」
「ほら、魔王と戦う時に無理矢理言う事を聞かせたでしょう?それで主人って認定されたみたい」
私が右手を差し出すとジークシュベルトが生えてくる。ティンクはそれをまじまじと見ながら周囲を飛ぶ。その姿はとてもかわいい。
「と言うことはご主人様が勇者になったんですね」
「そうね。身体能力も前より上がったみたいだし、魔力も気の力もずっと伸びたわ。勇者ってすごいのね。加護のオンパレードよ」
「あれ?じゃあアルノーは?」
「たぶん普通の子供として成長してるはずよ。だからあの集落も普通になってると思うわ」
水晶玉を取り出しアルノーを写すと、元気に走り回ってる姿が見えた。両親も揃ってるみたいだ。
「……勇者って何なんでしょうね……」
その答えは私にも分からない。だけどアルノーが幸せそうで良かった……それだけは分かる。
「ではご主人様、今回はドミニクとヨルダンを連れて魔王討伐に行きますか?」
「うーん、これは前回も思ってて、今回は特に思うのだけど……とても言いにくいんだけど……」
「――邪魔なんですね」
「ええ、正直足手纏いなの。レオナール様が私におっしゃる理由が良く分かるわ。特に今回は勝手にかなりレベルアップしてるから、率直に邪魔だわ」
前回も私が鍛えたので普通の人間よりはずっと強かった。人間離れした力も付けさせたつもりだ。でも私から見るとまだまだだった。正直、また一から鍛えるのは面倒くさい。
「ティンクと二人で十分だと思うわ。今、魔王城行っても苦戦はするだろうけど、勝てる自信はあるわ」
「じゃあ、少し修行してから魔王討伐に行きますか?」
「う――ん、そうね。そうしましょう」
魔王には勝てる自信がある。これは間違いない。でもレオナール様には勝てる自信が持てない。なぜ彼はあんなに超越した力を持つっているのだろう。私は何度も繰り返してやっとこのレベルなのに。
「では今回のリリアはどうしますか?」
「……そうね。例えば鍛えて仲間にすると言うのはどうかしら?」
「えー?あの女ですか?」
「前回、地獄の神に聞いたのだけど、リリアは地獄を抜け出して、地上に戻ったそうなの。蛙なのによ?根性があると思わない?思わぬ活用法かも知れないわ」
「ふむ……」
ティンクが考え込んでいる。考えるティンクもかわいい。
「良いですが……『隷属の首輪』をつけてください」
「それは道義的に嫌だって言ったはずよ?そうね、代わりに『従属の誓い』でどう?」
「『隷属の首輪』に軽いやつですね。まぁ良いですよ」
ティンクがしぶしぶ納得してくれた。それだけで私は嬉しくなる。
その時、扉をノックする音が聞こえ、かわいい声で挨拶をするリリアが入ってくる。扉が閉まったのをみて、私はリリアの背中に飛び乗り、床に頭を叩きつける。やはり脅すとなればお師匠様だろう。
「おはよう。リリア、良い朝だな」
「な!あんた私になにをしてんのよ!気でも狂ったの⁉︎」
「狂ってなどいない。か弱い私を虐めていた貴様にプレゼントをくれてやろうと思ってな」
「はぁ⁉︎ どきなさいよ!クソガキ!」
リリアが身体をよじり、私から逃れようとする。しかもクソガキとか言い出した。本当に根性が悪い。
「ご主人様……本当に『従属の誓い』なんかで良いんですか?こいつ、かなり性格悪いですよ?」
ティンクがリリアの頭に上に乗ってため息をつく。
「なんなの!羽虫が頭で喋ってる!あんた何を連れて来てんのよ‼︎」
騒ぐリリアの言葉に私の怒りが頂点に達した!
「『従属の誓い』‼︎」
「ぎゃ――――――――――――‼︎」
リリアの叫びが部屋に響く!私のかわいいティンク羽虫と言うなんて許さない‼︎
思いっきり魔法を強くかける。『従属の誓い』は、『隷属の首輪』よりは強制力は落ちる。なぜなら『隷属の首輪』は主人を裏切ると強烈な痛みと共に死があるのみだけど、『従属の誓い』は主人を裏切っても激しい痛みが襲うだけだから。ただ裏切った時の痛みは、魔法をかける主人が調整できる。あんまりにも頭に来たから、死んだ方がマシと思えるレベルにしてあげた。本当にリリアには頭に来る‼︎
リリアは陸に上がった魚の様にビクビク身体が動いてる。その目には大粒の涙。よだれだって垂れている。この程度の痛みに耐えられないなんて……鍛えるしかない。リリア相手なら同情の余地なしでなんでもできそうな気がする。
「さて、リリア。今の痛みを覚えておけよ?私を裏切ったら同じ痛みがお前を襲う」
「はぁ⁉︎誰があんたなんかに!ギャア――――――――――――――!」
「アホか……」
ティンクがポツリと漏らす。私もそう思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます