第17話
「レオ、母が再婚することになってね。今度、結婚式をするんだ。だから一緒に僕の国に行かないか?」
ご主人様がレオナール様をアダル国に誘ったのは夕飯のあとだった。
10歳になり順調に学年を上がっていくご主人様の成績は学年1位。レオナール様は2位だ。これは弓の授業での差が出ている。
レオナール様は思ったより不器用で、2年経った今でも、あまりうまいとはいえない。動かない状態でなら、やっと的に当てることができる……そんなレベルだ。
だが、それでは実戦で使うには程遠い。弓なのだから当然動きながら的に当ててこそ、実用的と言えるのだが、走りながらだと矢をつがえることすら難しい。2年経ってもこの状態では、クラスの中で落ちこぼれになっても仕方がない。
レオナール様の従者ルドルフの話だと、いつもこの調子だと言う。初めのうちはいつも上手くいかない。だがある日突然何かに目覚めたように天才的な才能を発揮するのだと、そう言っていた。そしてそれまでどんなに周りに馬鹿にされようとも、辞めるように言われたとしても、やり続けることができる。それこそが一番のレオナール様の才能だと言っていた。
ご主人様とは真逆だ。俺のご主人様はある程度習うと、そこからすぐに応用へと持っていける。おそらく頭も良いし、身体能力も高い。そして飲み込みも早い。だから、簡単に師を超えていく。唯一勝てなかったのは剣豪のお師匠様。その方だけだ。
レオナール様は今までの繰り返しの人生ではご主人様を凌駕していた。今は弓以外は互いに譲らない争いを繰り広げている。実技試験ではご主人様が勝ち、筆記試験ではレオナール様が勝利した。そして総合ポイントでご主人様が学年一位となった。
お互いを讃えあう二人を見るクラスの生徒達の目は生温かい。もう男同士でも好きなら良いんじゃない?って空気が漂い始めている。しかも朝食はともかく、昼食と夕食を別々に食べていると、喧嘩でもしたのかい?と周囲が心配して、声をかけてくることすらある。
レオナール様はクラスの皆が声をかけてくることはないだろうと言っていたが、今や皆が普通に話しかける様になってきた。レオナール様はご主人様の人柄のお陰だと言うけれど、それだけではない。
今回のレオナール様の目は穏やかだ。昔は殺伐としていた時もあった。6度目の人生で俺がレオナール様に声をかけに行った言った時なんて、怖くて怖くてチビるかと思った。まぁ、あの時は場所も場所だったのだけれど……。
「フェリの母上は寡婦と言っていたね、良い相手ができたのかな?」
「そうだよ。身内だけで静かにやる予定だから少人数なんだ。去年の参観日に母とはあまり話せなかっただろう?だから、母がレオも呼んだら?って言ってくれたんだ。少人数で気兼ねなくできるから良いだろうって」
「そう仰ってくださるなら無下にはできないね。ちなみにお相手は?」
「元魔王国、現在ウルス国の王ダーク様に仕えている人間ヨルダン様だよ。元はアダル国の子爵家の人間でウルス国に外交官の補佐役で行ったんだけど、ダーク様に気に入られて部下に取り立てられた方なんだ」
実際のヨルダンはご主人様を一眼見ようと、ムーンに近づき、そしてムーンのお気に入りになり、ご主人様にも気に入られて、そのままアダル国とウルス国を繋ぐパイプ役として表舞台に立っていた。だけどそれは秘密だ。
「ああ、両手剣使いのヨルダン様は有名だから、私だって知っているよ。ここ一年姿を見かけないって聞いていたけれど、どこかに行っていたのかい?」
「ああ、母を守るために武者修行の旅にね」
ヨルダンは昨年、リリアに負けて人質になった。それから随分と反省し、ご主人様の地獄の特訓に一年間付き合った結果、ムーンより強くなった。そしてそこでプロポーズし、二人は結ばれる事になった。
あのご主人様の地獄の特訓に耐えれたのだ。この先何があっても平気だろう。地獄の特訓、それはその言葉の通り、地獄での特訓だ。
ご主人様に『絶・回復継続魔法』をかけられたヨルダンは、剣を2本持たされ地獄へと送られた。そこで絶え間なく襲ってくる地獄の眷属よ、時に戦い、時に逃走し、時に殺されそうになる、特訓とは名ばかりの罰ゲーム。それが俺の感想だ。
ご主人様は実戦に勝る経験はない!と持論として持っている。だから俺には止められなかった。たまにご主人様と地獄にヨルダンの様子を見に行ったが、段々と瞳の色が濁っていくヨルダンを見ながら、正気を失ったらどうしようと、俺はいつも心配していた。
しかしながら愛の力とは偉大だ。ご主人様がムーンがヨルダンの無事の帰還を心から祈っていると言うと、ヨルダンの目は正気を取戻し、また地獄の眷属に立ち向かっていった。
実際のムーンはヨルダンの心配もしていたが、今度は『保険』という新たらしい概念を生み出し、商売として起こしていた。月々の掛金を払うことで、有事の際は保障がでるシステムだ。儲かって仕方ないと笑うムーンに哀しみの色はなかった。
(ヨルダン、本当に良いのか?今ならやり直せるぞ?)
そう心の中で何度も呟いた。
「そうなんだね、私で良ければぜひ出席させて頂きたい。フェリの母上にも、もう一度お会いしたかったし、ヨルダン様にもお会いしたい。それと……ダーク様は結婚式に出席されるのだろうか?」
「ダーク様?どうして?」
「ダーク様はこの学園の名誉教授じゃないか。いつか授業でお会いする機会もあるかと思っていたが、教鞭をとられたとの話も聞かないから、少し残念だと思っていたんだ」
「聞いてみるよ。でもヨルダン様はダーク様の側近だからね。たぶんお見えになるはずだよ」
これでダークの出席も確定した。ダークはご主人様に代わりウルス国の王として、この大陸にある国家と友好関係を築くために、あちらこちらに飛びまわり、昼夜問わず忙しいのに。
でもダークの事だから、ご主人様の呼び出しとあれば何があっても駆けつけるのだろう。そろそろご主人様ロスの筈だろうし……。
(そう言えば最近は見かけない。どうしたんだろう……)
「では、決まりだね!一ヶ月後に迎えの馬車が来るから、それで一緒に行こう」
これで二人の旅が決定した。馬車での工程だと、アダル国まで1週間だ。宿の手配、食事の手配、やる事はいっぱいある。
ここは面倒臭いから、最近ご主人様に相手にして頂けなさすぎて、不貞腐れ気味なサンにやってもらおう。
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