6度目の人生(5)

 転移に転移を継いで勇者のパーティーを追いかける。私の誕生日が来る前に私はいつも死んでいた。

 レオナール様に婚約破棄されるのはおおよその3週間前。魔王軍が攻めて来るのはその1週間後。まだ勇者は、ドミニクは生きているはずだ。


 そして見つけた!勇者達だ!私は彼らに仲間にして欲しいとお願いした。4人とも喜んでくれた。

 勇者の名前はアルノーと言った。アルノーは明るい金の髪に大地のような茶色の目だ。勇者が使える剣は、神官長によって彼の右手に封印されていると言う。


 戦士は男性で両手剣使いだ。黒い髪、黒い瞳。明るい彼は良く笑うムードメーカーだ。彼の名前はヨルダンと言った。彼は以前はアダル国の貴族として王城で騎士として働いていたらしい。アダル国はこの時点では魔王によって滅ぼされている。もっと早くに決断できていれば……そんな後悔をしてしまう。


 神官は若い女性だった。名前はクロエ。クロエは聖女の双子の姉だった。聖女が魔王討伐に行きたがらないので、無理矢理旅に出されたとの事だ。彼女はピンクゴゴールドの髪と赤い目をしている。かわいらしい彼女は気取らず、とても話しやすい。二人で色んな話しをした。


 そしてドミニク。私のかつての弟子……。彼がいるから、私はこんなに勇者のパーティーが気になるのだろう。相変わらず生真面目で、礼儀正しい。


 勇者のパーティーは私とティンクを加え旅に出る。何というか……その弱さには驚いてしまう。良くこの程度の力で魔王軍を倒す等と言ったものだ。

 私とティンクで迫り来る魔物を倒しながら先へ進む。情報が入っていなかったから仕方ないのだけど、今までの繰り返しの人生で勇者のパーティーはどこまで行ったのだろう。

 私は魔王が住む国ウルス国には行っていると想像していたが、そこまでこの弱さで行けたのだろうか……。


 それでも私達はアダル国の手前まで来れた。魔王が一番初めに滅ぼした国だ。その国境線に奴はいた。見覚えのある姿だ。相変わらず妖艶な姿は美しい……。


「見つけたわ。勇者の坊や」

 発する声すら色っぽい。その色香に戦士のヨルダンが鼻の下を伸ばす。


「こいつは私が相手をする」

「あら?あなたね、魔王様の部下を殺しまくってる美少女って。確かに美しい姿だけど、言葉使いは男みたいだわ。品がなくて嫌になるわね」

「私の名前はフェリシエンヌだ。お前は魔王軍四天王の一人、ムーンだな?」

 私はお気に入りのバターナイフを取り出す。ムーンは2回目の人生で騎士だった私を殺した魔物。あの時は一向に歯が立たなかったけれど、今回はどうなのか……。


「あら?そんな武器で戦うの?どうやら綺麗なだけの頭のおかしい女の様ね」


 ムーンの言葉を合図に一気に詰め寄る。ムーンの長い爪が私のバターナイフを止める。


「あら?気が使えるのね?人間のくせにやるじゃない‼︎」

 ムーンの長い尻尾が、私の頭上を襲う。その尻尾をバターナイフで切り裂く。高い悲鳴と共にムーンの怒りの目が私を射抜く。


 今度は勝てる!直観的に分かり、一気に詰め寄り更にバターナイフを振るう。尻尾を切られバランスが取れなくなったムーンの体を切り裂くのは容易かった!あっという間にムーンは肉塊に変わった。


 やった!今回は勝てる‼︎ 勝てた‼︎ そう思った時、私の体に影が降りた。


「おやおや、可哀想にやられてしまったね……ムーン」

 蝙蝠の様な羽を生やし、空を飛んで吸血鬼のサンがやってきた!確か3回目の人生で私はこいつに血を飲まれて殺された。1回目の人生でも私はこいつの貢物にされる途中で死んだんだ!


 今回は殺す!そう思いバターナイフで切り付ける。だが前回と同じだ。煙を切り付けている様で手ごたえがない!だが今の私は雲も切れる!バターナイフに気を込めて、一閃を送る。だが肝心のサンをすり抜け、その先の森の木々が被害にあう。


「どうして……!」

「フェリ!吸血鬼には攻撃も魔法も効かないわ!効くのは聖女の聖なる魔法だけ!待っていて!」


 神官のクロエが言葉と共に跪く。クロエを守ろうと3人が前に出る。

 ドミニクが魔法を打つ。私も魔法を打つ!だがやはり効かない!ヨルダンも剣で攻撃するがすり抜けてしまう。そしてヨルダンの体にサンの腕が刺さる。


「男の血など飲みたくもない」

 サンが手を振ると、ヨルダンの体が地面に落ちる。その開いた目には何も映っていない。


「うわあ――――――!ヨルダンの仇‼︎」

 ドミニクがスクロールを広げる。ダメだ!その魔法は効かない!止めようと思った時には遅く、ドミニクもサンによって殺される。


 私は勇者アルノーの横に並び、サンを正面から迎え打つ。クロエの魔法陣はまだ完成しない。ただその魔法陣からは聖らかな気配がする。


「アルノー!ジークシュベルトは?」

 私は勇者の剣を出す様にアルノーに話しかける。この旅の間、アルノーは一度もジークシュベルトを出してない。いつも私が贈った剣で戦っていた。


「ジークシュベルトは魔王の前でしか出現しない。そう神官長が仰ってた。他では役立たずだ」

 アルノーの言葉に愕然とする。なんていう役立たずな剣なのか!使い手を選び、更に倒す相手も選ぶ剣など、ただのゴミだ!


 アルノーが声を上げてサンに向かう。だがあっさり殺された。これまでの人生で勇者が魔王を倒せなかったわけが分かった!弱すぎるんだ‼︎


「フェリ!できたわ!」

 神官のクロエが魔法を発動させる。だが見て分かった。クロエの魔力不足だ。発動しない。


「どうして⁉︎」

 絶望に歪むクロエを見ながら、やっぱり……と思った。なんて弱いんだ。これではまるで意味がない。


 そしてクロエもサンによって殺された。私はわざと残されたらしい。

「やはり飲むなら若くて美しい処女の血ですね」

 そんな理由で残されたのかとため息をつく。今の私にはサンを殺す手がない。仕方ないと諦める。


 だが諦めない存在がここにはいた。

「ご主人様!逃げて‼︎」

 ティンクがクロエの作った魔法陣を起動させようとする。魔法陣が光を放つ‼︎


「この!小蝿め‼︎」

 サンがティンクを攻撃しようとする!


 私はその手を阻む!バターナイフに気を込めて、更に炎の力を付与させる。ティンクを殺そうとする者はゆるさない‼︎


「美しい女だと思って残しておいたが、邪魔だてするとは‼︎」

 サンの爪が伸びて、私の体を突き刺す。痛みから声が上がる!更にサンのもう片方の手が私に体を切り裂こうと上に掲げられた。


「ご主人様‼︎」

 ティンクが私の目前に飛んできて両手を広げる!


「やめて――――――――――!」

 私の声は届かずティンクは体を引き裂かれ、その後に私の体もサンの爪によって引き裂かれた。


「……ティン……ク」

 また会えたなら、次はあなたを守りたい。あなたを守る為なら私はどんな試練でも耐えて見せる。

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