6度目の人生(4)

 家に帰った私は精霊と交代する。精霊にはオレリアに事を頼んでおいた。彼女の作った武器や防具を見る。素晴らしいとは思う。だけど今の私ではあっさり握りつぶせそうだ……。


 だけど前回の人生で私が作った物よりはずっと良い気がする。そう思いオレリアには知識と資金を送る。ドミニク達は私が15歳の時に魔王退治へ出かける。それまでに良い武器ができると良い。私がやった修行は一般の人には向かない。私だってその位は分かる。


 勇者の情報を集めながら鍛錬を積む日々。勇者の一行は戦士、魔法使い、神官の4人らしい。魔王軍を相手に4人とは、今更ながら頭がおかしいのではないだろうか……。


 市民からはなぜ聖女が行かないのだろうと声が上がる。確かに……聖女は魔物に対して圧倒的な強さを誇る。本当になぜ行かないのか……。


 そして15歳になって半年ほど経った頃、勇者達に武器、防具を届けに行った。

 改めて彼らを見る……。これでは魔王を倒すことなどできないと思った。確かに人としては強い。だが所詮、人止まりだ。私でも一瞬で倒せてしまう。


 とは言えど彼らのやることに口出し出来ず家に帰る。でもそれでよかったのだろうか……。


「ご主人様?何かお悩みですか?」

「ティンク……勇者達が魔王に勝てるとは思えない。私はこのまま見ているだけで良いのだろうか……」

「……ご主人様!言葉使い!」

「あ!ごめんなさい。良いのかしら?」


 ついついお師匠様の言葉を使ってしまう。私はあの言葉使いに憧れがあるのだと思う。女だから、とか男だから、とかその枠にこだわる必要はあるのだろうか……。


「そうですね。ですがご主人様の第一目的はレオナール様に認められることですよね?とすれば魔王討伐に行っている暇はないのでは?」


「……そうなんだけど……。それで良いのかと思い始めたの。だって今の私は強いわ。私が加われば、魔王軍が王都を攻めて来る前に倒すこともできるんじゃないかしら」


「……じゃあ行きますか?」

「う……ん」

 どうしても悩んでしまう。レオナール様は私の全てだ。でも……。


「ご主人様からレオナール様に会いに行ったらダメですか?」

「――え?でも行っても会って頂けないわ」

「会える状況にするとか。そうですね、俺がジェネロジテ学園に侵入してレオナール様を連れ出すとか」


「……できる?」

 私はティンクをじっと見つめる。ティンクはニカっと笑って、飛んでいった。

 こう言った時に一緒に考えてくれる人がいる。それはなんて幸せな事だろう。ティンクのためにもこれで終わりにしたい。幸せになりたい。



◇◇◇




 ティンクはレオナール様を呼び出してくれた。場所は前回と同じ人気のない荒野。


 お互いが転移で来る。今回のレオナール様は荒々しい姿だった。皮でできた黒づくめの衣装、バラバラの長さの髪。無精髭。顔も疲れている。でもどんな姿でも好きだと思った。彼の重荷を分かち合いたいと思った。


「レオナール様、お呼び出しして申し訳ございません。わたくしとの婚約ですが……」

「破棄だ!婚約は破棄させて頂く!無理だ‼︎」


 今までの紳士的な態度が消えたレオナール様に目を見張る。どうしたのだろう……。今回の人生では余裕がない様に見える。

「……では勝負を……」

 

 もうこれ以上は言えない。そう思い私は朝食で使ったバターナイフを取り出す。

 このバターナイフは子供の頃から使っている。かわいい小花柄だ。私のお気に入りのバターナイフが私に勇気をくれる。


 レオナール様と打ち合う。レオナール様は身長程ある大きな剣を使っている。私のバターナイフは正反対だ。


 どんどんと打ち合っていく。今までと違う!私はレオナール様と戦えている‼︎

 レオナール様と打ち合っているとお師匠様と同じように、荒野にある岩が砕け、さらに空の雲が割れる!やはり魔法ではなく、剣だったのか⁉︎ そう思いながら積極的に攻撃をして行く。まるでダンスを踊っているみたいだ!レオナール様の次の動きが良く分かる‼︎


 だけどそれまでだった。大きく踏み込み正面から剣を交える。そして互いが後ろに飛んで離れる。すると足元が陥没した。バランスを崩し、ガクッと崩れ落ちる。

 するとレオナール様の大きな剣が私の首元の添えられた。


「こんな単純な魔法に引っかかるとは……。やはり相応しくない。さようならだ」


 レオナール様は踵を返す。そして大きな剣を背に背負い、転移した。

「……ご主人様……」

 ティンクが飛んで来る。魔法と剣の複合……。こんな簡単なこともできないなんて‼︎


 私は泣いた。でもいつまでも泣いてはいられない。レオナール様に振られた今、私にはやるべき事がある‼︎

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