6度目の人生(2)
自然豊かな山だ。緑が生い茂り、山頂から流れ落ちる滝の側には山小屋がある。
剣豪である女性が言うには、これからはそこで寝泊まりすると言う。楽勝だと思った。前回の人生では猛吹雪が荒れ狂う過酷な雪山にテント一個で生活をしたのだ。それに比べれば、随分と環境が良い。
「ではお嬢ちゃん、まずは戦ってもらおうか?」
お師匠様は名前を聞いてこなかった。剣で語り合えるので名前は不要だと言う。私の事はお嬢ちゃんと呼び、ティンクの事は坊やと呼ぶ。
お師匠の剣は反り返った片刃の剣だ。不思議な形。薄い剣。刀と言うらしい。
だったらと、大剣を用意した。どんなに強かろうと折ってしまえば問題ない!
「ふむふむ、そう言う考え方か……」
お師匠様は手で顎を掴み、剣をしまう。訝しむ私を見て、次に木の枝を拾った。
「ではこれで勝負だな……」
馬鹿にしてる!頭に血が上り、大剣を持って走り寄る!だが大剣は木の枝によって、パキンと情けない音と共に折られた。私の心も沈む。
この太刀筋……この枝……レオナール様がやっていらした。こんな近くにヒントがあったのに!忘れていたなんて‼︎
「ふむ……プライドはなくなったようだな。それは重畳。ではお嬢ちゃん、修行を始めよう」
お師匠様の目が怪しく光った。
◇◇◇
お師匠様から滝行をするように指示される。用意されたのは、前合わせの薄い着物と呼ばれるもの。これで滝など浴びたら体が露わになる。恥ずかしくて躊躇してると、お師匠様に笑われた。
「まだ5歳の分際で何が恥ずかしいのか!そもそもここには私と坊やしかいないのだぞ?」
自意識過剰な自分に気付き、真っ赤になりながら滝に入る。山の上から落ちる滝に持っていかれそうになるほど、やわではない。そもそも魔力で筋力は補填できる。余裕だと浴びていると、ナイフが頬を掠めた。
「次に魔法を使ったら殺す」
お師匠様の本気な目を見て、魔力を閉じる。すると5歳の体でしかない私はあっという間に滝から投げ出された。
「まずは滝に耐えろ。そこからだ!」
つまり筋力を鍛えると言うことなのだろうか。分からないまま、滝に入り、そこから川に投げ出され、それを繰り返して一日が終わった。
夕飯はティンクが用意してくれた。ティンクは山から山菜を取り、動物を狩り、見事なご飯を用意してくれた。これにはお師匠様も喜んだ。そして一日が終わった。
朝日が上がる前に起きて滝行をする。昨日と同じ結果に情けなくなってくる。
ティンクが朝ごはんを用意してくれて食べる。終わったらまた滝行だ。太陽が頭上に来る頃に、ティンクがお昼ご飯を用意してくれる。終わったらまた滝行だ。
日が沈む頃、ティンクが夕飯を用意してくれる。終わったら、お師匠様が手合わせしてくれるという。相変わらずお師匠様は木の枝で、私は剣を使って戦う。お師匠様は岩の上に胡座をかいたまま動かない。私はお師匠様に剣で襲いかかる。だけど勝てない。どうすれば勝てるのかすら分からない。
そんな毎日を繰り返して1ヶ月が立った。ようやく私は滝行ができるようになった。滝に入っても安定して座禅を組める。
「良くやった!次はそこにいろ!その場を動くな!」
お師匠様の指示が飛ぶ。瞑想は賢者に時に良くやった。楽勝だと思っていたら、滝の上から人の腕ほどの丸太が落ちてきた。慌てて滝から飛び出し、避ける。
「何をしてる!動くな言っただろう!」
滝の上からお師匠様の声がこだまする。
さすがに理不尽だと思ったのでこれには反論した。
「ですがお師匠様、避けなければ死んでしまいます!」
「そこで死ぬならそれがお前の実力だ!」
意味が分からない!だけど他に手がない。諦めて座禅を組む。するとやはり丸太が落ちてきた。人の生存本能には逆らえない。やはり避けてしまう。
「避けるな!」
「無理です‼︎」
口では逆らえるが、やはり滝に戻る。すると丸太が落ちてくる。
避けちゃダメ!ダメ‼︎ダメ!!!
とぎゅっと目を瞑る。すると身の危機を察したのか自然に魔力が迸り、滝を凍らせてしまった。
これには大層怒られた。そして魔力封じの首輪をつけられた。
そしてまた滝行と丸太のコンボが炸裂する。避けちゃダメ!そう思ってぎゅっと目を瞑る。このまま頭に当たって死んでしまう‼︎ そう思った時に丸太が剣により真っ二つにされた。お師匠様が助けてくれたと思って上を見上げる。
「アホか!死ぬ気か‼︎少しは考えろ!馬鹿弟子‼︎」
なんて理不尽だ!だが他に手がないのも事実。ではどうすれば……また滝行に戻る。落ちてくる丸太。
そうだ!お師匠様はその場を動くなとおっしゃった。この場から離れなければ良い――筈だ‼︎
そう思い落ちてきた丸太を避ける。こう言うことですね!お師匠様!
「馬鹿弟子!避けてどうする!叩き割れ‼︎」
どうも違ったらしい……。叩き割るとはなんだろう。剣豪なのに剣を使ってない。そもそも山頂から滝と共に落ちて来る丸太だ。その威力は凄まじいはずだ。
悩む私の前にお師匠様が現れた。そして滝の中に入って来る。すると滝と共に丸太が落ちて来る。投げたのはティンクだ!姿が見えた!
危ない!私が目を見張ったのも束の間、お師匠様の拳が丸太に炸裂する。真っ二つに割れる丸太はその勢いのまま川に落ちる。
「馬鹿弟子、良く聞け。この世のあらゆる物を武器にできて初めて一人前の剣士となれる。剣とは即ち拳。拳とは即ち自身の力。自身の力とは即ち信じる心。自分を信じる心が強さを呼び、その身に宿る力を引き出し敵を撃つ。つまり武器など必要ないのだ」
お師匠様の言葉に目を見張る。それは剣豪ではなく武闘家の言葉ではないだろうか……。意味が分からないまま、私は頷く。つまり丸太を割れと言うことらしい。
そして私は訳がわからないまま実践していく。そうしているうちのそれが正しいと思うようになる。そう、この世の全ては拳で解決できるのだ!
腕の太さの丸太が、人の体ほどの丸太に変わり、丸太を割れるようになった頃、丸太が岩に変わった。岩は徐々に大きくなり、最終的には滝の幅よりも大きい岩が飛んできても割れるようになった。
修行を始めてから一年が立っていた。
「環境破壊ですから、そろそろ止めましょう」
ティンクが冷めた目でお師匠様と私に告げたのもその時だ。
確かに丸太はティンクが拾っていたが、岩は拾えない。お陰で滝の周辺には岩が散乱して川の水位が上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます