6度目の人生(1)
「おはようございます。ご主人様」
「おはよう……ティンク……」
ティンクの姿を見て安堵する自分がいる。かわいいティンクが軽い羽音と共に私の目の前に降りてくる。良かった。またティンクと一緒だ……。
「勝てなかったわね……」
「ええ、魔王は強かったですね。でもまた一緒です!頑張りましょう!ご主人様」
前向きなティンクに励まされて、私は起き上がる。結局、魔法では勝てない。レオナール様にも、魔王にすら勝てなかった。
ではどうすれば良いのか……。どうすればレオナール様に認めてもらえるのか……。魔王を倒せるのか。
「ご主人様、魔法ではなく、剣を極めたらどうでしょう?前回の冒険者の時にいましたよね?魔法を使えないけどS級の冒険者が」
「眉唾物だと思っていたわ。一番初めの人生では剣を極めたけど、結局勝てなかったもの」
「魔塔で魔法を極めたご主人様が、賢者の魔法はレベルが違うと思ったように、そのS級の冒険者もレベルが違うかも知れませんよ?」
ティンクの言うことはもっともだと思った。元々あてもないのだ。やってみるのも良いのかも知れない。
「さて……と、目標も決まったで、あの裏切り者をどうしますか?」
「そうね……。さすがに前回もリリアには腹が立ったわ。どうしてくれようかしら?」
私は悩む。でも同時に思うこともある。リリアを蛙にして持ち歩いたのも私。魔法だ、薬だと実験体に使ったのは私とオレリア。私だって悪いんじゃないだろうか。むしろひどい気がする。
「確かに実験体にはしてましたが、衣食住の補償もしてましたし、そもそも蛙であっても大事にしてました。なのに裏切るなんてありえないですよ!だからあの女にはそれ相応の罰がいると思うんです!例えば隷属の魔法をつけて奴隷市場に売るとか!」
「ティンクも実験体にしたのは悪いと思っているのね?でもそうね。だからと言って自国を売ってはいけないわよね。それに確かに情が移って大事にもしていたわ。でも奴隷市場はやりすぎよ。私は奴隷制は反対よ」
「じゃあ、蛇にして野に放ちましょう。人間としての道徳心を取り戻せたら、人間になるとかできますよね?」
それには納得して頷いた。とは言えどリリアにそんな時が来るとは思えないけど……。
扉がノックされ、かわいい声をしたリリアが入ってくる。
ダメだ!そう思った。この声を顔を見ると許すことなどできない!私の情報を魔王に売った怒りで手が震える。
扉が閉まったと同時に魔法を発動させる。蛇なんてかわいものにはしない!この世で最も醜い生き物にでもなってしまえ‼︎
そう願って発動した魔法がリリアに炸裂する。変化した姿に自分でも恐怖する。ティンクも震えている。
「ご――ご主人様!何にしたんですか⁉︎気持ち悪すぎる‼︎」
「わ、私だって驚いているわ!触りたくない!て……『転移‼︎』」
思わず発動させた。お陰でリリアは消えた。良かった。見られたものではなかった。
「あの姿で道徳心が取り戻せるかなぁ……」
ブツブツ言ってるティンクを無視して私は精霊を呼び出す。今回も身代わりをしてもらわなければいけない。私の代わりに学校に行って、商売をしてもらわなければ。
だって今回の人生ではレオナール様と両思いでなれるのかも知れないから……。
◇◇◇
ティンクと二人でギルドに向かう。今回必要なのはS級冒険者の情報だ。他には必要ない。
そもそも前回の人生では相当にお金を稼いだ。貯金額は国家予算並みになり、王ですら高額納税者に私に逆らえなくなっていた。お金の力は恐ろしい。使いようによっては世界を支配できるのではないだろうか……。その方法はまったく思いつかないけれど……。
「ご主人様……剣豪の居場所が分かりました。今はこの国、イリゼ国の王都内にいるそうです。なんでも妙齢の女性だとか」
「女性?意外ね、勝手なイメージで男性だと思っていたわ」
「似顔絵ももらいました」
私はティンクからもらった似顔絵を見る。切長の瞳が印象的だ。どこかで見たことある気がする。
「……美人ね」
「そうですね」
ここまで分かれば簡単だ……そう思い、風魔法で剣豪を探す。だけど分からない。この王都内を出たのかも知れないと思い、探索の範囲を広げる。やはり分からない。
「ティンク……見つからないわ」
「おかしいですね。ギルド職員の情報だと市場に良くいるそうなので向かってみましょう」
私は頷く。ティンクはギルドに情報を聞くため大人の姿だ。足の短い私は抱っこしてもらい二人で市場へ向かう。
市場には何度も来ている。この国だけではない。色々な国の市場に行った。でもイリゼ国が最も賑わっている。この国に産まれたことは私の誇りだ。
ティンクと一緒に周りを探る。そして目の端に女性を捉えたと同時に息が止まる。なんて殺気!あまりにも濃すぎる殺気に背中に汗をかく。心臓が早鐘を打ちように鳴り響く。怖い!魔王と対面しているようだ!何という存在感‼︎何という強さ‼︎
「お前……さっき私を検知しようとしていたな?」
いつの間に来たのかティンクの背後を取られた。ティンクは前回の人生でS級冒険者になった。つまりそれだけの強さを持っている筈だ!だけどこんな簡単に背後を取られるなんて‼︎
「わ……私を弟子にしてくだ……さい。強くなりたい……ならなきゃいけないんです‼︎」
息を吸うのもやっとの中、頑張って声を出す。あまりにもの威圧で声が出ないかと思った。心臓が止まるかと思った!
「弟子?良いだろう……お嬢ちゃんが耐えられるなら……」
皮肉な笑みを見せる剣豪と共に、私は山に篭った。
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