5度目の人生(3)

 12歳にて賢者の知識を得た私は、更なる高みへと登るために、世界を旅した。賢者になれた私には全ての事柄が、真理に繋がる道となる。


 更に地獄を守る眷属達と契約をする。

 この世界には3つの世界がある。私が住む地上とその下にある地獄、地上の上にある天界。どうやら賢者の最終目標は地獄の神との契約らしい。いつかは契約に至りたい。


 13歳の時に地獄の神と契約した。地獄の神は驚くほど明るかった。これで地獄の火炎も使えるようになった。賢者としての私はほぼ完成したと言って良い。


 14歳の時に家に戻り、錬金術と融合し更なる武器、防具を作成する。

 15歳の時に最高傑作と言える武器、防具ができた。


 更に、魔法のスクロールも作る。私が魔塔で覚えた魔法の全ては、賢者の知識を得た今なら児戯のようだ。

 そう思いスクロールを作り、勇者のパーティーに届けてみた。ドミニクはやはり勇者のパーティーにいた。ああ、今回は無事悲願を達成してくれれば良いけれど……。


 勇者の武器ジークシュベルトは見れなかった。それが心残りだ。


 そしてやはり16歳になる1ヶ月前。レオナール様からの手紙。

 今回の私の力は桁違いだ。今までの演習場は目立ってしまう。そう思い待ち合わせ場所は人気のない荒野を指定した。


 転移して向かうと、今回のレオナール様は膝まで髪を伸ばしていた。服装も神官の服装でその清らかな輝きに目が眩みそうになった。だけどそんなレオナール様からはやはり容赦ない婚約破棄の宣告。


 でもそこは想定通り。私は戦いを申し込む。今の私の魔法は次元が違う!負けるわけがない!


 私は魔法陣を展開する。ただの魔法陣ではない!暗黒魔法だ!地獄の神を召喚する、賢者の最高秘術‼︎


 魔法陣から炎が上がる!地獄の煉獄の炎だ!炎がやがて人の形となり、見るだけで畏怖する存在を作り上げる。彼と契約するまでに、どれほどの努力をしたことか!全てはこの時のため!レオナール様に認めて頂くため‼︎


 だがレオナール様はまるで気にも止めていないように手を組み、跪く。その姿勢は諦めではない。なぜなら彼を中心に聖なる魔法が発動する。地獄とは真逆の存在、天界の清らかな神が召喚される。そのあまりのもの神々しさに気圧される。


 いけない!召喚魔法は召喚した人間の心に左右される。圧倒された時点で私の負けだ‼︎

 そう思った時には遅く……私が召喚した地獄の神は、レオナール様が召喚した天界の神によって地獄へと還された。

 膝から崩れ落ちた私に、レオナール様の容赦ない一言が頭上より下される。


「やはり足手まといだ……さようなら」

 

 ああ、どれほど思っても、どれほど力をつけても縮まらないこの差をどうすれば良いのか……。

 泣く私にティンクがそっと寄り添ってくれた。ティンクだけが心の支え……。

 

 泣いて泣いて、涙が枯れ果てた頃、気怠げな身体を起こし、家に帰る。そんな私を待っていたのは、勇者一行の訃報。


 そうだと……思った。レオナール様に勝てない私の技術では、彼らを守れない。守れるわけがない!

 でも――と前を向く。だからと言って魔王軍が来るのを、指を咥えて待つ気はない!


 私は王都全体に魔法陣を敷く。魔物達が入って来なければ、無残に蹂躙されることはないはずだ。その考えの元、魔物が入って来れない結界を張り、侵攻を防ぐ事に成功した。

 

 魔物達が攻撃しても、結界が弾く。この結界の優れている事はこちらから攻撃ができる事だ。今回の人生では勝利を確信する。


 そして魔王軍とイリゼ国の睨み合いが続く。


 朝焼けに染まる王都を見る。

 私の誕生日まであと三日。また今回も婚約者ではない。だけど心の中で彼の幸せを祈る。

 

 その時、私の身体を影が覆う。いや、私だけではない!王都に巨大な影を落とす存在。慌てて空を見上げる。あまりにも巨大なドラゴンに目を見張る。今回の旅では冒険者として色々な場所へ行った!色々な魔物を見た!だがこれほどの圧倒的な存在を見たことはない!こんな圧倒的な魔力の持ち主を見たことがない‼︎


 ドラゴンが炎を吐く。その魔力のこもった劫火により、私の作った結界は紙のように脆く燃える。炎の勢いは凄まじく、さらに王都を燃やす。


「これ以上の暴挙は許さない!」

 私はパジャマのまま、部屋のテラスから飛び出す。

「ご主人様!待ってください‼︎」


 ティンクが私の杖と剣を持って、慌ててついてくる。

 ティンクから剣を受け取り、ドラゴンの前に浮く。なんて魔力だ!賢者となった私を遥かに凌駕する魔力に身震いがする。


 ドラゴンの猫のような金色の目が愉悦に満ちた笑みを漏らす。まるで鼠を見つけた猫のようだ。もてあそび殺そうとしている事が分かり、背中に悪寒が走る。


「良い結界だが、私の前では紙くずだ」

 魔力を含んだ声に圧倒される。だが、私の後ろにはティンクがいる。負けるなと自分で自分を奮い立たせる。


「――貴様は、誰だ?」

「お前達が魔王と呼ぶものだ。フェリシエンヌ・エルヴェシウス伯爵令嬢……あなたがこの結界の作成者だと聞いた。つまりあなたを殺せば、この国は容易く我が軍に降ちると言う事だ」


「誰が――魔王軍に情報を⁉︎」

「リリアとか言ったか……蛙から人間に戻す事を条件に色々話してくれた」


 魔王が笑う。その姿に、言葉に怒りのあまり声が出ない!


(リリア……!そう言えば気が付いたら、いなかった‼︎ まさか裏切っていたとは!しかもまさか魔王軍に!なんて女‼︎なんて恥知らずな‼︎)


「魔王――――――――!!!」

 怒りと共に魔法を発動させる!どちらにしろ、魔王を倒せば全てが終わる!


 渾身の力を込めて魔法を打ち出す。更に地獄の神も召喚する!地獄の神の眷属達も!


 だが全ての魔法は通じない。魔王にとっては微風のようだ。では!と思い剣を握り、魔王に向かう。魔王から吐かれた炎のブレスは結界で弾き、特別性の剣に魔法を込めて気合の言葉と共に、真っ向から打ち込む!

 だが私の剣は魔王の体に傷一つつけず受け止められた。そう言えば聞いていた……魔王を倒せるのは勇者が持つ剣ジークシュベルトだけだと。


 魔王の口が大きく開き、私の体はそのまま咥えられる。その鋭い歯が体を貫き、更にそのまま噛み砕かれる。

 あまりにもの痛みに声も出ない!


「ご主人様‼︎」

 ティンクの声が聞こえる。


(逃げて……ティンク。あなただけでも……)


 声は出ない。もう指の一本すら動かない。そんな中、頬に触れる何かを感じた。血に染まった瞳で必死に見る。

「……ティンク……」

「どこまでも一緒です。ご主人様‼︎」


 魔王の口が閉まり、私は絶叫と共に死を迎えた。

 なんて無力なのか……。もう……次の目標が見えない……。

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