2度目の人生(2)

 それからの私は努力した。


 まずは手始めに剣を習う事にした。両親はもちろん反対した。伯爵令嬢がすべき事ではないと。でも断固として譲らない私を見て、最後は両親が折れた。


 女性騎士から剣を習う日々。手始めに細身のレイピアから。素早く動き、鋭く敵を刺す。手には剣だこができた。レオナール様とお揃いだと思うと嬉しかった。 

 併せて基礎体力もつける。女性らしい身体を無くしてはダメよ、とお母様に言われたので、トレーナーをつけて美しく強い身体を目指す。


 剣を教えてくれる女性騎士とも仲良くなる。女性用の騎士服はないので、皆が男性用の服を改造していると聞いた。だったらと、女性用の騎士服を作る事にした。前回の人生で作った1人でも着れるドレス、1人でも髪を結う小道具と合わせて、父様に売ってもらう。売上の10%が私の取り分。

 お陰でレオナール様へ嫁ぐための持参金は前回よりも多くなった。


 相変わらずレオナール様からはお手紙一つ頂けない。レオナール様の入学のお祝いにも行ったけれど、やはりお顔を見せて頂けなかった。

 きっと私が弱いから……。まだまだ足手まといだから……。


 そう思い、益々剣術にのめり込んで行く。レイピアをロングソードに持ち替え、更にファルシオン、ダガーとあらゆる種類の剣を極めていく。


 剣だけでは意味がないので、馬に乗る練習もした。馬上から見る景色は爽快だった。馬と一体化して走るのは気分が良かった。馬は優しく愛情深い生き物だと知った。


 野営訓練にも参加した。両親は反対したけれど、私が強行した。

 テントで寝るのは、腰が痛く辛かったが、そのうち慣れた。

 川での水浴びは初めは恥ずかしかったが、同じ女性の騎士や兵士との会話が楽しくて、その内積極的に入る様になった。何より汗を流せなく、自分が臭くなるのは耐えられなかった。

 そこには身分の上下はなかった。みんなが同じ、ただの人間だと気付けた。


 戦略も学び、軍事演習にも参加した。

 軍を動かすのは難しい。相手の動きを読み、瞬時の判断を求められる。私はどうも直観的な判断が苦手みたいだ。これには何度も敗北を期した。


 王国主催の剣術大会にも出場し、3年連続優勝した。こんな剣術馬鹿でも、求婚者は大勢いたが断ってもらった。レオナール様以外は意味がない。


 これだけ強くなれば、レオナール様も認めて下さるだろうと思いながら婚礼の準備整える。そして16歳になる1か月前にやはり連絡があった。前回と同じ。レオナール様より、会いたいとのお手紙。


 私は騎士服を着て、お気に入りに剣を腰に携え、馬に乗ってレオナール様の待つ公園に行く。

 以前フられた公園だ。でも、もうそんなことはあり得ないと思って、レオナール様の前に立つ。


「あなたとは婚約破棄をする。その程度の腕前では我が領地では役に立たない。私は自分で身を守れないような女性と結婚する気はない」

 レオナール様からはまた冷たい視線と声を浴びせられる。でも私は怯まない。私は強くなった。今、まさにその力を見せる時!


 腰に差した剣を抜く。

「レオナール様は私の実力を知らないでしょう?もし私がレオナール様に勝ったら、婚約破棄を撤回してください」

「……良いだろう」

 レオナール様も剣を抜く。


 勝負は一瞬だった……。レオナール様の剣技は素晴らしく、気が付いた時には私の剣は弾き飛ばされた。何をされたのかも分からなかった。


「サヨナラ……」

 そう言って振り返りもせずレオナール様は私の元を去る。

 その背中を……見ながら私は泣いた。弱い自分が悪いのだと……。努力が足りないのだと。



 その後は、何も思いつかず、ただただ日々を過ごす。そして前回と同じ様に魔王軍がこの国を攻めて来た。


 業火の火に焼かれる王都を見て剣を握る。家族が止めるの振り切って、魔王軍と戦う自国の軍の元へ向かう。

 何もできない頃とは違う。レオナール様に負けたとは言え、魔王軍に一矢報いることはできるはずだ。


 騎士達と合流して魔物と闘う。次々と倒れていく仲間達。血のりで切れが悪くなる剣。倒しても倒しても溢れ出る魔物。

 こんな時なのに、思い浮かぶのは、初めて会った時のレオナール様。16歳になったら結婚しようと言って下さった。

 もうすぐ16歳。せめてそこまでは生きたい。


 大きな爆発音があちらこちらで響き渡る。黒々とした煙を吐きながら燃え上がる炎。

 闇の様に黒い雲からは、雷が轟く。そして周囲を白く染める氷の塊。


 これらは全て魔法が引き起こす攻撃。

 剣を振るう私が倒せる魔物は1振りで1匹。だが魔法使いはまとめて多くの魔物を倒す。私も魔法を習っていれば、レオナール様のお役に立てたのだろうか……。足手まといと言われる事はなかったのだろうか。

 

 魔法使いと合流し、軍を率いて王都を縦横無尽に駆け巡る。みんな疲れている。でも誰も文句は言わず、戦い続ける。仲間の死を不屈の精神へ変え、王都民の声援を希望に変える。


 私の誕生日は明後日。あと2日。


 そうした中、一人で休憩する私の目の前に現れたのは魔王軍四天王の1人、下半身が蛇、上半身が人間のラミアのムーン。その美しい姿に背筋が凍る。

 軍を率いる私を単独で殺し来たと言う。


「貴女を旗印にする事で、この国が勢いを盛り返そうとしているの。それは私達にとっては困るのよ。だから邪魔な貴女は死んでもらうわ。正直つまんない仕事だと思ったけど、貴女みたいな美少女を殺せるなんて、悪くないわね。死体は晒そうかと思ったけど、仲間のサンにでもあげようかしら?それとも剥製が良いかしら?」

 そう言いながら冷笑するムーンは怪しいまでも美しい。

 気圧されそうになる自分に喝をいれ、剣をぎゅっと握りしめる。


「どれも嫌ですわ。私には仲間が待っていますの。まだ死ぬ気はありませんわ!」


 そう言ってムーンを斬りつける。彼女の肩に剣があたる。だけど、まったく剣が通じない。強靭な肉体を持つムーンの身体には刃が通らない。


 驚愕な思いで目を見開きムーンを見る。ムーンの目が怪しく光り、その手の爪が鋭く伸びる。


 ああ、確かにこれでは魔物が多く出没するレーネックでは役に立たない……。そう思った時には、ムーンによって身体を引き裂かれていた。

 驚くことに痛みはない。それだけ一瞬で切り裂かれた。眠る様に目を閉じる。死ぬのは怖くない。

 

 でももし……次があるならば、もっと強い力を求めよう……。例えばそれは魔法の力……。


 そう思いながら、私は剣を手放した。

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