1度目の人生(2)

 それからの私は努力した。リリアは相変わらずいじめてくるけど、これに耐えられなければ、辺境伯の妻など務められないと思い、一種の試練だと耐える事にした。


 辺境の地では、メイドも侍女もいないと聞いたのでドレスは自分で着れる様に努力したし、一人で着れるドレスをデザインしたりした。

 そしてそのドレスは父の手で売り出され、王国はおろか近隣諸国で爆発的に売れた。お陰で我が伯爵家の財源は更に潤う事になった。


 もちろん、髪も自分で結う様に練習した。簡単に結う方法を模索し、それを可能にするための小物も作った。これもお父様が売りに出した。そしてその売り上げは私のお小遣いとなり、レオナール様へ嫁ぐ為の持参金はかなりの額になった。


 刺繍もできる様になった。淑女の嗜みと言われる絵画、ダンス、歌に関しては、教えて下さった先生方も舌を巻くほどに成長した。


 レオナール様に恥をかかせるわけにはいかないので礼儀作法も頑張ったし、美しく見せる為の努力もした。 


 14歳になった頃には自国や他国の王侯貴族から、婚姻の申し込みがひっきりなしに来る様になったけど、お父様にお願いして全てお断りした。


 お父様やお兄様方が婚約破棄したらどうかと言い出したのはこの頃だった気がする。なぜなら、毎年会うお約束をしていたレオナール様は、5歳の初顔合わせ以降お見えになった事はなかったから。


 お手紙も常に一方通行だった。

 お返事を頂いた事はない。

 いいえ、一回は合った。

 初顔合わせから1か月後に、黄色のチューリップの花束が届いた。その花束に添えられた手紙が最初で最後のお手紙。


『これが私の気持ちです』そう書かれてあった。


 レオナール様が8歳の時に『ジェネロジテ学園』に入学した際には、最高の装いで会いに行った。だけど夕方まで待っても、レオナール様は会って下さらなかった。帰りの馬車の中で思いっきり泣いて、家に帰ってから化粧で誤魔化した。その日の夕飯は味がしなかった。


 自分の何が足りないのか分からず、あらゆる努力をした結果が、王侯貴族からの婚約の申込みだと思うと、笑うしかなかった。

 どんな人に認められようとも、レオナール様に認められなければ意味がないのに……そう思うと涙も出なかった。


 更に努力を続け、領地経営の勉強をし、辺境の地でも芽を伸ばす作物も見つけた。そうやって努力をしているうちに、16歳の誕生日1ヶ月前に突然のお手紙。明日会いたいと言うお誘い!

 今まで努力した甲斐があったと涙し、翌日のために、早く寝ることにした。


 装いも美しく鏡に映る自分に満足しながら待ち合わせ場所へ向かう。場所はレオナール様の通う『ジェネロジテ学園』の入り口。そこで待ち合わせをし、そこから腕を組んで、すぐ近くの公園に向かう。


 久しぶりに会うレオナール様は見目麗しい青年に変わっていた。トキメキで心臓が痛くなり、乱れる呼吸を誤魔化す為に下を向く。お会いできた喜びで目は潤み、震える唇からはまともに声を出すことすらできなかった。

 こんな風になる程、彼を愛しているのだと思った。やはり私には彼以外見えない。彼以外考えられない。彼以外は必要としないのだと……。


 だがそんな彼に告げられた残酷な一言。

「あなたとは婚約破棄をする。領地には魔物が多く出没する。あなたの様な自分の身も守れない女性は足手纏いだ。手続きは私がするので、あなたはこの事実をご両親に伝え給え」

 彼の冷たい言葉と私を映さない瞳に言葉が出すことができない。


「さよなら」 

 更に別れの言葉を言い、立ち尽くす私を置いて去って行く。その背中が小さくなって行く!

 

 ああ、どうしてこんなにも想いがすれ違ってしまったのか!

 取り乱してただ泣くことしかできない私は走った。他人に涙は見せたくない!

 追いかける勇気もない!逃げてはダメだと思っていても、すがりつく勇気すらない!

 ではどうすれば良いのか⁉︎こんなにも愛しているのに‼︎


 そのまま泣きながら馬車に乗り、部屋にこもる。溢れる涙を止める事はできない。

 ベッドで泣いているとリリアがやってきて、追い討ちをかける様に暴言を吐く。両親や兄が心配して声を掛けてくる。

 家も落ち着けない。だからと言ってどこかに行くこともできない。こんな私は確かに足手纏いでしかない。


 泣いて過ごす日々の中、王都に魔王軍が攻めて来た。当たり前のように私の宝石を盗み素早く逃げるリリア。


 両親と兄達は馬車を用意し、泣く私を連れ出し王都を離れた。馬車の周りには家の護衛騎士や兵士達。その中に女性騎士が何人かいる。追ってくる魔物を倒す彼女達は凛々しかった。

 私も彼女達のように剣を習っていたら、レオナール様に足手纏いと言われる事はなかったのだろうか……。


 王都からどんどん離れていく。そんな中、魔王軍の1個隊から襲撃を受けた。狙いは美しい少女。私だと言う。魔王軍四天王の一人である吸血鬼サンに私を捧げると言う。


 やられていく護衛騎士達、父様が、兄様が逃げろと言って剣を取る。母様が私を連れて逃げようとする。

 私は皆の静止を振り切り、魔物達の元へ行く。私が行けば皆は助けてくれると言う。

 

 そのまま空を飛んで連れさられる。

 私が犠牲になる事で皆が生きていけるなら、それで良い……。

 

 暗雲が立ち込める空に運ばれながら、こんな状況なのに思ってしまう。

 レオナール様は、彼は……無事でいるのだろうかと。


 その時、空が激しく光る!真っ黒な雲から轟く雷が、私と私を運んでいた魔物に直撃した‼︎ 引き裂かれるような痛みが体を駆け巡る。


 死ぬのね……瞬間的にそう思った。

 ああ、でもこのまま死ねるのなら、きっとそれが私の一番の幸せ。皆を守り、純潔を守ったまま死ねる。なんて幸せなんだろう……。


 でも、もし次があるのなら、その時は強く……ただ強くありたい。

 

 そう……願った……。

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