第3話

「さて、リリア、今のお前はレベルが低すぎて私の役に立たない。私のためにレベルを上げてもらうぞ?性格が悪くて、性根も悪くて、手癖も悪い、どうしようもないお前だが根性はあるし、何よりその処世術だけは賞賛に値するからな」


 嗚咽混じりのリリアの髪をグイッと掴み、その顔を自分に向けさせる。酷薄な笑みを浮かべるご主人様を見てリリアが、ヒィと悲鳴を上げる。


 昨日まで虐げていた女の子が暴力を振るい、更に隷属の魔法を使うんだ。怖くない訳がない。体はガクガクと震え、目は宙を彷徨っている。口からはよだれも垂れているが、それを拭う余裕もない。


「まずは魔法をかけるぞ?『絶・自動回復継続魔法』、『強・異常回復継続魔法』、『中・防御継続魔法』、『中・魔法防御継続魔法』。このくらいで良いな?」


 ご主人様がリリアに次々と魔法をかけて行く。魔法には強さがあり、その魔法の前の文字で強弱がつけられる。強さは弱い順から、弱・中・強・絶だ。とは言えど誰しもが、強い魔法は使えない。そこはやはりレベルが関係して来る。人生を繰り返していて、更にその記憶も、培ったレベルも全て残っているご主人様は、『絶』を使えるが、この世界のほとんどの人間には不可能だ。しかもご主人様は継続魔法を使った。つまりご主人様の魔力が尽きるまで、今、リリアにかけた魔法は継続される。


「武器は拾え。頑張れよ―リリア」

「へ?」

 間抜けな声と共にリリアはかき消す様にその場から消えた。残ったのは転移の魔法陣の跡。


「ご主人様、初級のダンジョンに送ったんですか?」

「ああ、そうだ。ゴブリンやオークがいる例のダンジョンだ。初めは苦戦するだろが、あの女には『絶・自動回復継続魔法』がかかっているからな。手足が千切れようが、体を貫かれようが瞬時に回復される。なぁに、1週間もすればそこそこレベルも上がるだろう」


 回復系は強いのをかけて、防御は中と言う事は少し苦しめと言う事なのだろうと思うけど、突っ込まないでおこう。リリアには色々恨みがあるのだから。

 それにしても、5歳の美少女らしからぬ、残虐な顔つきだ。治るかな?これ……。


「ところでティンク、先ほどの男だとレオナール様と結婚できないと言う話、さすがお前だ。私は思い付かなかった。お前がいて私はいつも助かっているぞ?感謝する」


「あ――ありがとうございます。では諦めますか?」


「いや?諦める事はあり得ない。それは人生における冒涜であり、自らの敗北を意味する。そこで考えたのだが、レオナール様が男への愛に目覚めるのを止めるのが適切だと思われる。つまり私もレオナール様の学舎に通い、私のレオナール様をその道に引き摺り混む羨ましいおと……ではなく不埒ものを退治するのが良いと思うのだ。どう思う?」


「はぁ、でもレオナール様の学舎と言えば、イリゼ国きってのエリートが通う『ジェネロジテ学園』ですよね?自国はおろか他国の王侯貴族も通う、一種のステータスとも言えるエリート学園。ご主人様の通っていた『白薔薇学園』と対をなす。つまり身分がしっかりしていないと入れませんよ」


 ご主人様は指を振りながら、チチチチと唇を鳴らす。これは誰の真似なんだろう。そう言えば3つ前の人生の時に仲間だった戦士が良くしていた様な気がする。


「ティンク…魔王によって滅ぼされる国があったな?」

「ああ、ありましたね。確かアダン国。ですが今改めて考えると自業自得ですよね?」


「そうだな……元々はアダン国が魔物達を捕らえ競売にかけ、奴隷として売っていた。それを知った魔王が怒ってアダン国を攻めたのだ。それを知らなかった私は魔王軍が意味もなく、人間界を攻めたのだと憤ったのだが……。真実を知った時には、人間でいる事を恥じたくらいだ」


 額に手を当て、憐憫の表情を浮かべながらご主人様は首を降る。この劇場がかった動きは二つ前の人生からだ。色々混在している。


「でもそこでアダン国に勝てたから調子に乗って人間滅亡、世界征服ってイタい事始めちゃったんですよね?そう考えると結局はどうかなって俺は思いますけど……」


「……ティンク、私の気分を落とすな」

「すみません……それがどうしましたか?」


 そうだったご主人様も世界征服したんだった。成し遂げてすぐ死んじゃったけど……。


「そう、つまり魔王を使ってアダン国を攻略させ、傀儡政権を作り、そこの王族や貴族の戸籍で『ジェネロジテ学園』に入れば良いのだ!」

「そうですか。分かりました――でもその前に食事にしましょう。そしてご主人様――言葉使い!」


「――――!そうね――まずは朝食にしましょう。お父様もお母様もお兄様方もお待ちだわ。ティンク、リリアに化けて服を持って来てちょうだい。ピンクにリボンがいっぱいついてるドレスがいいわ」


 俺はくるっと回ってリリアに化け、クローゼットにドレスを取りに向かう。


 ご主人様に何を言っても無駄だと俺には分かってる。何を言ってもやりたい様にやると言う事も。

 今回も奇想天外な思考で前に前に突き進んでいるが、その選択肢は前回や前々回より悪くない。むしろ良い。

 どの様な選択をしようとも、俺はご主人様を見守るだけだ。


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