第2話 ラーズ
気がつくと俺は、騒がしい町の中に一人立っていた。
通りを行き交う多くの人達。
その声に釣られて辺りを見渡せば、通りの左右には多くのお店や住宅が建ち並び、いろんな人が出入りしている。
日本人の様な見た目の奴もいれば、ヨーロッパや南米、アフリカっぽい見かけの人など様々だ。
「おおお・・・!ホントに転生したのか!!」
思わず声が出る。
さっきの神様とやらとの話は、まるで夢の中での出来事だった。
でも今自分が踏んでいる地面は固いアスファルトでは無く、見た事も無い柔らかな黒土だ。
回りの建物はコンクリートでは無く石やレンガで出来ていて、窓にはガラスではなく木戸がはめ込まれている。
ここは死ぬ前まで住んでいた、そこそこ科学の発達した世界とは全く異なり、映画で出てきそうな昔のヨーロッパって感じだ。
つまり俺は今、自分の想像を超える場所に立っている。なら、あれは現実で、この異世界もリアルだって事だ。
なら、俺のやるべき事は決まっている。
そう、元の世界で失敗した人生をやり直すのだ!
俺は強く拳を握る。
この世界には俺の事を知っている人間なんていない。つまりゼロからのスタートだ。なんだって出来るはず!
元の世界では知り合いから残念なイメージが付いていた俺だが、この世界では俺の事を悪く言う奴なんて・・
そこで俺は、道行く人が俺を見てクスクスと口元を抑えている事に気づいた。
「ぷっ。なにあの格好」
「どこの田舎者だろうね?」
聞き耳を立てると、どうやら俺の格好を笑っているらしい。
俺は慌てて自分の服装を確認する。
「な、なんじゃこりゃ?」
なぜか俺は先程まで着ていた服で無く、持っていた覚えの無い服を着ていた。
まず半ズボン。膝どころか膝上30センチ。色々はみ出そう。これ履けるの小学3年生までだろ!?
そして老人が公園で着ているような、乳首が見えそうなランニングティーシャツ。
夏休みの小学生かよ!?・・・なのに黒いロングコートを羽織っていた。
いや、暑いのか寒いのかどっちだよ?
思わず突っ込むとそれに反応するように頭の中に声が聞こえてきた。
(どうした。儂のチョイスが不服か?)
「うおっ!?」
思わず振り返る。この声はさっきの・・!?
しかし回りを見渡してもさっきのじじいの姿は無い。
俺が戸惑っていると、再び声が聞こえてきた。
(お主が死ぬ時に着ていた服は冒険には不向きに見えたのでな。儂がコーディネートしてやったぞ)
どうやら直接頭の中に話しかけているらしい。
しかしコーディネートって言うならせめてコートと中の服と合わせろよ、これじゃ変態だろ!
(動きやすい服装じゃろう。そのコートは丈夫で耐熱性もあるのに軽いという、買ったらそこそこする物じゃぞ?)
「そ、そうなんですか」
得意げに話す神様に、俺は回りを気にしながら小声で答える。どうやら、流石に心の中まで読める訳ではなさそうだ。
(更におまけで格好いい帽子まで付けてやったんじゃ。感謝するがいい)
帽子!?俺は直ぐに頭に手を伸ばす。するとなぜ今まで気づかなかったのか、俺は古びた帽子を被っていた。
「これは・・」
手に取ったそれは、まるでしわくちゃのタケノコのような・・いやまて、これはどこかで見た事がある。確かこれは・・
(○ーポッターの組み分け帽子じゃ)
じじいが先に回答する。
「それだ!映画で見た!・・でもなんでこんな帽子を?」
(格好いいじゃろ)
・・・。
どうやら神様は特殊な価値観をお持ちらしい。
今のこの格好でこんな帽子まで被っていたら、笑われるに決まっている。こんなのさっさと捨ててしまおう。・・いやまて、神様がせっかくくれたって事は、きっと何か・・・
(まぁ特に魔法が掛けてある訳ではないが)
ないのかよ。じゃあいらねえ。
(しかし、もし組分けの魔法が掛かっていたとしたら、お主はそうじゃな・・)
なんだよ・・・スリザリンか?ハッフルパフか?
(カサンドラじゃな)
「カサンドラ?!北斗の拳の!?」
(うむ)
「うむじゃねーよ!なんで俺だけ鬼の鳴く街なんだよ!?」
ハブられ方が酷すぎるだろ!
(今までまともに生きてこなかった罰じゃ。心当たりがあるじゃろう)
うっ・・・。
しかしそれでもカサンドラはやりすぎじゃないか?
ハーレムの魔法覚えてハゲとモヒカンしかいない街に飛ばされたら泣き喚くぞ。
(心を入れ替えて魔王退治に精進する事じゃな。魔法まで付けてやったんじゃ、言い訳は聞かんぞ)
それはわかってるけど・・しかしどうやって魔法使うんだ?
「あのー、どうやって魔法って使ったらいいんですか?」
(うむ。そう言えば言ってなかったな。なに、簡単じゃ。心で願いながらチャームと唱えればよい)
「唱えるだけ?願いながら?」
(そうじゃ)
それを聞いた俺は、早速周囲を物色する。
すると先程俺を笑った女が、まだ近くの店先に立って商品を見ていた。
(よし、まずはアイツだ)
俺はそう決めると、その女をガン見しながら小声でチャームと唱える。
「チャームッ・・」
・・・
「チャームッ・・!」
・・・特に何も起きない。
「チャームッ!チャームッ!」
・・・女は振り返る事すらしない。
「あの、何も起きないんですけど・・?」
(発音が酷い)
「発音?」
(お前はイクラちゃんか)
「サザエさんの!?」
(バーブー?)
ぶ、ぶっ殺したい・・。こいつホントに神様かよ?日本に精通しすぎだろ。日本フリークなのか?
(よいか、チャーム↓では無い。チャーム↑じゃ。全く、日本語も不得意そうな顔をしとる癖にのう)
顔関係無いだろ!
(それと、もっと強く願う事じゃ)
「強く?」
(うむ。びびっては成功せんぞ。思い切りやれ)
「わ、わかりました」
俺はそう言って頷くと、先程よりも一歩女に近づいて、大きく息を吸った。
そして力の限り心の中で、俺の事を好きになれ!と願いながら、チャーム↑と叫ぶ。
「チャーーーーム!!!」
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