打倒魔王?いやいやハーレムで!

梅ちゃん

第1話 じじい(髭)


・・・


・・・


「起きるのだ。立花巧よ」



・・・


・・・?


頭の中に響く低い声に、俺はゆっくり目を開けた。


「うっ・・」


白い光で目が眩む。


「・・??」


なぜか俺は手足を伸ばして仰向けになっていた。


ここはどこなんだ?


記憶を辿るっても、頭がぐらぐらして上手く働かない。


きしむ体を起こして周りを見ても、全く見覚えがない。


どこまでも広がっているような、距離感のわからない白い空間。


上を見上げても、果てが見えない。


なんだここは・・?


「こちらだ。立花巧」


再び聞き慣れない声が響く。


俺はゆっくりと首を捻って声の主を探した。


すると少し離れた場所に椅子があり、そこに誰かが座っているのが見えた。


「儂が誰かわかるか?」


声の主は鷹揚に尋ねる。やけにエラそうだ。


俺はようやく光に慣れてきた目でそいつを見つめた。


・・・もの凄くじじいだ。


何歳かもわからない程の顔に、顔全体に広がった白いモサモサの髭。更に長い白髪で、着ているゆったりとした服まで白い。こいつサモエドか。


「いや、誰って言われても・・」


こんなじじい、全く心当たりが無い。


「ふふん。見た目でわかるじゃろう?」


「・・後期高齢者の方ですか?」


「違うわ無礼者!」


怒られた。


「じゃ、じゃあ・・サモエドの神様?」


「誰の見た目がサモエドじゃ!」


じじいは手に持った杖で床をドンドンと叩く。


「少し考えればわかるじゃろう!愚か者!」


「すいません・・じゃあ、かみ・・」


「お・・」


「神様の使い?」


「なんでじゃ!そこまで言ったらもう神様でいいじゃろ!」


ツッコミんだ。


「いや、だって神様なんて見た事なくて」


「使いはあるのか!?」


「ないですけど」


え・・本当に神様なのか?


「全く・・失礼な奴じゃ。せっかく生き返るチャンスをくれてやろうというのにのう!」


「え?生き返る・・?俺死んだって事?」


「そうじゃ。まだ思いださんのか?」


呆れた様に言われて俺は必死に脳みそを働かせる。いやそもそも、死んでも脳みそって働くのか?


「お前の名前は立花巧。年は25で、まだ死に立てほやほやじゃ」


ほやほやってなんだ。焼き立てみたいに言われても。いや、死んで火葬されてたら焼き立てだけども。


「俺、なんで死んだんですか?25なら病気じゃ無いだろうし、事故とか?」


「まあ、事故と言えばそうかのう」


「まじか・・免許持ってないのに。じゃあ仕事中の事故とか?」


「いや、そうじゃない」


「?」


「お主は実家暮らしの無職。ぷーたろーって奴じゃったからな」


「25でぷーたろー!?」


「しかもゲームオタクの童貞で引きこもり」


「なっ・・」


だめだ。脳が思い出すのを全力で拒否し始めた。


「思い出さんのか?」


「思い出したくないんですけど」


「しょうがない、ならもう少し詳しく話してやろう」


なんで楽しそうなんですかね・・


「立花巧25歳。引きこもりながら大学を卒業したが、結局高校の時と同じ様に引きこもりになった。最初に引きこもりになった原因は中学生時代に気になっていた女が自分に気があると勘違いした挙げ句にカッコをつけて告白したら


「あーあーあー!!!やめてやめてやめて!!」


俺は両手で耳を塞いで転げ回る。永く封印していた記憶が一気にフラッシュバックしてしまった。


「全く情けない人生じゃ。・・因みに死因じゃが、聞くか?」


「うぅ・・聞きます・・」


俺は耳に当てた手を少しだけ緩めた。死んだことすら覚えてないけど、せめて死に方くらいはまともで合って欲しい。


「夜中にこっそり台所で食べ物を漁っていたら親が起きて来て、焦ったお前は口の中のパンを喉に詰まらせて窒息死じゃ」


「・・・」


どうしよう。想像の斜め上を行く、くだらない死因だった。


「こんな人生後悔ばかりじゃろう?」


俺は涙目で頷いた。


「そこで儂がチャンスをやろうとお前を地獄から呼び戻したんじゃ」


「地獄!?俺地獄にいたの?」


「そうじゃ。お前が天国に行ける訳なかろう。まあ正確に言えば地獄の一歩手前、所謂、三途の川を渡る所じゃったがな」


なんて事だろう。そりゃ天国に行けるだなんて考えた事は無かったけど、ホントに地獄に行く所だったなんて。


「そ、それで、俺は一体何をすれば?」


地獄なんて絶対に行きたく無い。なんとしてでも生き返らせてもらわないと。


「うむ。それではようやく本題じゃ。お主にはまず、ラーズという世界に転生して貰う」


「てんせい?」


ラーズってどこだよ。


「儂は幾つもの世界を見ておる。お主のいた様な平和な世界もあれば、荒れている世界もあるのじゃ。そしてその荒れている世界の中には、儂ですら簡単に手出しができぬ世界もある。それがラーズじゃ」


神様ですら手出し出来ないのに俺が行ってどうすんだ・・・?


「無論、難しいのはわかっておる。じゃからこそ、成功すれば褒美に生き返らせてやろう」


じじい(自称神)はどや顔で俺を見る。


「どうじゃ、ビックチャンスじゃぞ?」


「は、はあ・・。因みに、ラーズに行って何をすれば?」


「うむ。ラーズには魔王と呼ばれる魔法使いがおる。そやつを倒してこい」


「魔王!?そんな・・」


なんで俺がそんな事しなくちゃならないんだ。俺は一般ピープルだぞ?そーいうのは勇者の仕事だろ!


「簡単にはいかんじゃろう。だからこそ倒せば生き返らせてやると言っておる」


「う・・、そ、その魔王って神様より強いんですか?」


「いや、そんな事はない。本気で戦えば儂が勝つわい」


じゃあ戦えよ!!


「なら、なぜ俺が・・?」


「言ったであろう。儂は幾つもの世界を見ておる。一つの世界だけにかまける訳にはいかんのじゃ」


「はあ・・」


「不安か?確かに今のままのお前を転生しても役には立たんじゃろうな」


じじいはそう言って頷く。


「じゃが安心せい。手土産をくれてやる」


「手土産?」


「うむ。武器でも能力でも、お主の望む物を一つ与えよう」


「武器か・・能力?」


「そうじゃ。例えば、全ての物を切り裂く魔剣。又は狙った獲物に必ず突き刺さる鋼の弓なんかどうじゃ?能力なら最高レベルの治癒魔法や、触った物を爆弾に変えるボムズの魔法。どうじゃ、お主は一人で引きこもってゲームをしておったんじゃ、こういうのを考えるのは得意じゃろう?」


一人は余計だ・・!しかし・・。俺は人生を逆転する素晴らしいアイデアを思いついた。


「ホントに何でも良いんですか?」


「うむ。神に二言は無い」


「じゃあハーレムの能力を!あっ、人から好かれる能力を!」


俺は立上がって叫ぶ。


「・・・おい、儂が命じたのは魔王を倒す事じゃぞ?」


「はい!大丈夫です!任せて下さい!」


「ううむ・・?しかしそんな能力で一体どうやって・・」


じじいは首を傾げている。まずい、突っ込まれる前に決めさせなければ。


「あっ・・もしかしてムリな能力でした?神様でも無理な事あるんですね、じゃあ何か別の能力を・・


「待て!言ったであろう、神に二言は無いと!」


じじいもそう言うと椅子から立上がる。そして持っていた杖を俺に向けて振りかざした!


「立花巧よ。お主に魅了(チャーム)の能力を与えよう。行けい!世界を救ってくるのじゃ!」


その瞬間、俺は光に包まれながら再び意識を失い・・・


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