許嫁のS級お嬢様は、俺なしじゃ生きていけない吸血鬼~血を吸うと発情してしまうお嬢様を慰めるのも俺の役目なんですか?~
第18話 人の目がない愛の巣でお嬢様といちゃらぶちゅっちゅっしたいお年頃なんですよね
第18話 人の目がない愛の巣でお嬢様といちゃらぶちゅっちゅっしたいお年頃なんですよね
学校に行きつつGWまで時間が過ぎ、遂に舞咲本邸に帰る日が来た。
送迎の車が到着する前に準備を済ませて待っていると、那月のスマホがぴろんと着信音を響かせる。
送迎の車が来たとのことで、荷物を持ってマンションを出てみれば、黒塗りの高級車……そうとしか呼べない車が停車していた。
もう慣れたつもりだったけど、久しぶりに見ると少しだけ驚いてしまう。
舞咲で働いているとはいえ俺の感性は小市民側だ。
対する那月の方は全く気後れや緊張している素振りがないまま車の方へ近づいていく。
すると、運転席のドアが開いて――
「お迎えに上がりました、那月お嬢様。神奈森さん」
スカート丈の長いメイド服をきっちりと着こなした女性が、恭しく礼をした。
肩くらいで揃えられた黒髪を抑えるホワイトブリムが揺れて、顔を上げた彼女の顔には薄いながらも微笑みと呼べるものが浮かんでいた。
彼女は舞咲本邸に仕えるメイドの一人、
昔、俺に従者としての教育をしてくれた人で、今も頭が上がらない。
……というか、いつも思うけど水越さんって何歳なんだ?
全く姿が変わらないんだけど?
「莉子さん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いしますね」
「お任せくださいお嬢様。必ず、何があろうともお二人を無事に舞咲本邸まで送り届けさせていただきます」
「……お願いですから安全運転で頼みますよ、水越さん」
「私はいつだって安全運転ですよ神奈森さん」
平然と言い放つあたり、本人は本当にそう思っているんだろう。
従者になるための修行中に起こったあの事件を俺は忘れてないからな……?
「ともかくお二人とも乗ってください」
水越さんが後部座席のドアを開け、そこに那月、俺の順序で乗り込む。
最後に水越さんが運転席につくと、静かな駆動音と共に車が走り出した。
「――時に、神奈森さん。お嬢様とはいかがお過ごしでしたか?」
「特に変わったことはありませんよ。普通に高校生をしてるつもりです」
「世間一般では家族でもない男女が高校生で同棲生活をすることはほぼあり得ないみたいですが?」
「それは是非とも水越さんの雇い主に聞いてくださいよ……あと、この方が都合がいいのはわかってますよね」
「当然です。神奈森さんも今や思春期真っ盛りですから、人の目がない愛の巣でお嬢様といちゃらぶちゅっちゅっしたいお年頃なんですよね」
「水越さんは俺に対して何か恨みでもあるんです??」
愛の巣って……いや、那月としている行為を考えるとあながち間違いとも言い切れないのが悔しいところなんだけどさ。
しかも声音に抑揚がないから楽しんでいるのか怒っているのかすらわからない。
多分からかっているだけ。
そう思うことにする。
「紅は許嫁ですから、私と同棲していても不思議なことではありませんよ」
「那月まで乗っからないでくれ話がややこしくなる」
「お父様と会う前に紅を丸め込めたらと思ったのですが」
「思考がいちいち黒いんだよなあ……」
油断も隙もあったものじゃない。
頼むからそこの判断は時間がかかると思うけど俺に決めさせてくれ。
「神奈森さんはまだお嬢様との婚約を認めていないのですか?」
「婚約じゃなく許嫁です」
「似たようなものですよ。私としてはお嬢様を神奈森さんに預けたいと思う当主様の気持ちは理解できます。貴方は自分が思っているよりも唯一無二の価値を持っている人ですから」
静かに告げられた言葉に、俺は驚いてしまう。
「……水越さんにそんなことを言われるとは思ってもいませんでした」
「これでも私は神奈森さんのことを認めています。信頼のおける同僚としても、一人の人間としても、私が手ずから育て上げた弟子としても」
「その節は本当に感謝しています。何も知らない子どもだった俺が今も那月の傍にいられるのは水越さんのお陰です」
後部座席に座っているから水越さんに見えることはないとわかっていても、自然に頭を下げて感謝の意を伝えていた。
「私の力なんて精々金平糖のひとかけら程度。成長できたのは神奈森さんの努力の成果ですよ」
「あの頃の紅は頑張りすぎで倒れるんじゃないかと毎日ひやひやしていたんですからね?」
「……まあ、いつ倒れても不思議じゃなかったとは思う。水越さんの教育は容赦なかったし。そこに文句を言うつもりはさらさらないけど。間違いなく厳しくしてくれたから今の俺がある」
「別に厳しくしていた覚えはないのですが……」
何気ない水越さんの一言に那月と一緒に頬を引き攣らせていると、「メイドジョークです」なんて平坦な言葉が返ってくる。
……本当にジョークだったのか?
水越さんの教育を受けたのは子どもの頃だったからそう感じているだけ……ではないな、間違いなく。
毎日息を絶えさせながら一つ一つ技術を身につけていた記憶が焼き付いている。
身体的な訓練がない時間は那月と一緒に座学をしていたし、実質的に休みと言える時間はほどんどなかった。
それでもやっていけたのは、那月がいつも一緒にいてくれたからだろう。
昔話をしながら移動することおよそ三十分ほどで、窓の外に両開きの門が見えてくる。
門の前に立っている二人の警備は車を見るなり左右に退いて、近くの装置を操作して門を開けた。
ここはもう、舞咲本邸に続く私有地。
「……春休みからあんまり経っていないはずなのに、随分と懐かしく感じますね」
「いつ来ても馬鹿みたいな広さだよな、本邸」
ずっと先まで伸びる一本道の左右にはきちんと整備された雑木林があって、ここが東京であることを忘れてしまう風景が広がっている。
私有地のため車とすれ違うこともなく、とうとう目の前に大きな……なんて言葉では到底言い表せないほどの規模を誇る洋風の邸宅が姿を現した。
車は屋敷に繋がる玄関前に停まり、
「送迎ありがとうございました、莉子さん」
「これがお役目ですのでお嬢様はお気になさらず。私は車を移動させてきますので、後のことは神奈森さんに任せます」
「わかりました。では、また後で」
先に後部座席から降りて、ドアを抑えて那月の手を取って降りてもらう。
二人で過ごしていると忘れそうになるが、那月は本来俺なんかとは住む世界の違うお嬢様なのだ。
ドアを閉めると、車が音もなく発進して駐車場へ向かっていく。
「行きましょうか、紅」
「だな」
家に帰ってきたのが嬉しいのか、ご機嫌な笑みを浮かべる那月と一緒に舞咲家本邸の重厚な雰囲気を漂わせる玄関の扉を押し開けた。
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