ヒペリカムの血
@baro1215
ヒペリカムの血
多元宇宙のひとつの世界に過ぎず、機械文明が発達していない世界「ヒペリカム」。そのホボロネ山脈と呼ばれるある森に囲まれた集落があった。
ヒペリカムは人間や人型の種族はいないが代わりにいるのは「獣人(けものびと)」と呼ばれる動物の毛皮に顔。だが体の作りは我々の住む地球の人間と同じものだ。
そして、その森の集落は「獣人」の中でも「狼種(ウルフィー)」と呼ばれる種族のみが構成されている。彼らは薄めの民族衣装に狩りをし、畑を耕して平和に暮らしていた。
「孫や、また面白い話をしてやろうか。」
孫と呼ばれたその幼子の狼種の獣人はまたかと言う顔で呆れ、ため息をついていた?
「『ヒペリカムの血』の話はもういいよぉ〜…」
「じゃが将来の族長ともあるお前のためでもあるんじゃぞ?」
その孫の祖父、この集落の族長は一呼吸を置いたあと語り始めた。
「『ヒペリカムの血』…それはこの星に流れる「血」とも言われておる。その血は「星酒」とも呼ばれていて飲めばたちまちどんな怪我も病も治ってしまう奇跡の酒じゃ。そしてそのヒペリカムの血は……。」
「集落の祭壇の石箱の中〜。」
「正解じゃ。」
族長が話終わる前に孫が気だるそうに答える。
孫にとっては特にどうでもいい話でお酒とは無縁だ。軽く聴き逃してはいた。
「よいか?ヒペリカムの血は貴重な星酒じゃ。いたずらするではないぞ?」
「しないよぉ〜…」
集落に夜が訪れる。族長の孫も寝静まりそうになった時、騒ぎが起きる。
「うっ…ぐぅ…。」
突然族長が苦しみ出した。孫は「おじいちゃん」と半ば眠気まなこで様子を見ていたがそれな段々と不安なものへと変わっていく。
孫は祖父といつも寝ているテントの中から飛び出して集落の若人の狼種を叩き起して祖父の看病を頼んだ。
「族長…これは突発的な心臓の病かもしれない。」
集落の狼種の中でも医学に精通していた若人の戦士が言い放つ。
「おじいちゃん…死んじゃうの…?」
孫は両親が狩りに出かけた際に悪天候による崖からの落下死で失った。その事を思い出して1人になるんじゃないかと…その考えが過って孫が泣きそうな顔をした。
(おじいちゃんの病気を治す方法……あっ!)
孫は思い出した…集落の祭壇の石箱に眠る星酒「ヒペリカムの血」を。
孫は走った。祭壇へと。
集落の者たちへの静止の言葉も聞かずに、言いつけなど破ってでも祖父を救いたい。その一心だけが孫を突き動かしていた
祭壇の石箱を開ける際に蓋が重すぎて指の爪が割れてしまう。痛さで顔が歪むがそれよりも「ヒペリカムの血」で祖父の病気を治す事だけを考えていた。
無理やり蓋を開けるとそこにあったのは金色に光る液体が入った酒瓶だった。
「ヒペリカムの血…初めて見た…。」
その美しさに一瞬目を奪われるがすぐにその星酒を取り出して祖父のものへと走り戻った。
まだ幼いその足は草や木の枝で傷がついて毛皮に血が滲んでいた。祖父の元に戻ると「ヒペリカムの血」を祖父の口元に持っていこうとした時に祖父が虚ろな目で孫を見た。
「いいつけを……破り、おって…ゲホッ!」
「こんな形で家族を失うくらいなら…集落の掟を僕は破るよ!」
「……」
息を切らして意識が朦朧とした中で祖父は確かに見た。「孫の成長」を。
夜が明けた。祖父の突発性の心臓病が収まり「ヒペリカムの血」は再び石箱に戻された。
「本当はお前が酷い病気になった時に、使おうと思っていたが…わしも老いぼれたのぉ。」
「じゃあ、おじいちゃんも僕みたいにいいつけ破るつもりだったじゃん♪」
「ほほっ、言うようになったわい。さぁ、帰ろう。村のみんなが待っとるぞ。」
「うん!」
(……ありがとう。)
僕は振り向いて「ヒペリカムの血」にお礼を言った。
END
ヒペリカムの血 @baro1215
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヒペリカムの血の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます