対顔
▱
「なるほど、だいたい状況は理解しました!」
あたしは御主人様の運転する蒸気自動車の後部座席に座って、クランさんの待つ教会敷地の母屋へ向かっていました。
宗教国家都市南東部にて。
街を管轄するのは三位巫女神官のクランフェリアさん。
その補佐官である、あたしの御主人様ことヒツギさんに会いに来た矢先、教会敷地近くの牧場で飛行する何かが落下しました。
それを御主人様と街の兵士さんが調査をしに現場へ来ていたようで。
……まぁ、その何かを撃ち落としたのはあたしなんですけども。
後部座席に座るあたしの隣には、先ほどの現場で発見された少女が眠っています。
訊くところによると、この女の子は今朝、南東部へお忍びで来たパフィーリアさんと御主人様を襲ったとか何とか。
初めこそ御主人様にお姫様抱っこされていて羨ましい……もとい驚きましたが、何やらワケアリな様子です。
南西部都市の抱える宗派問題に大きく関わっていそうな感じを漂わせつつ、とりあえずは教会側で彼女の身柄を預かることにしました。
巫女神官という立場上、周囲とは隔離された環境にあるので刺激や人の目も少なく、経過を観察しやすいのも理由のひとつです。
「うぅ……んん……」
横になっている少女は寝返りをうって。
「だいぶお疲れのようですね。大丈夫ですか?」
あたしは思わず声をかけます。
「――っあ。すみません、少し寝てしまいました」
気遣ってみればきちんと返すあたり、人柄に問題はなさそうな気はします。
「気になさらないでください。休息はとれる時にとるべきです……今からまた、少しばかり大変な思いをするかもしれませんし」
蒸気自動車の進む先にクランさんの聖堂敷地が見え始めて、なんとなく予感します。
「?それは、どういうことでしょうか……?」
リエルテンシアさんは不思議そうに小首を傾げたのでした。
♤
教会の敷地内へ蒸気自動車を進入させると、聖堂前にクランとパフィーリアが並んで俺達を待っていた。
二人は一定の距離を空けていて、まるでこれから
深呼吸をしてから座席の後ろにいるヒルデ達に声をかける。
「ヒルデ、リエル。ゆっくり車を降りるんだ。俺の後ろについてくるように。いいな?」
二人は空気感を読んだのか、わずかに緊張した面持ちで頷いた。
「あなた様、お待ちしていました。そちらの初めて見る方が、
「おにいちゃん、その子。どうして
クランとパフィーリアはほぼ同時に言葉を口にした。
リエルは俺の背に隠れ、腕に身を寄せている。
俺は平静を保って、まずは彼女達の質問に答えていく。
「二人とも聞いてほしい。パフィーリアは知っているだろうが、この子がさっき話したリエルテンシア。何かが墜落した牧場で再会したんだが……彼女は今、記憶を失って名前以外がわからない状態なんだ」
クランは静かに俺の話を聞いているが、パフィーリアは明らかに警戒していた。
「おにいちゃん、その子の言うことを信じているの?嘘をついていて、わたし達をまた襲うつもりかもしれないよ」
その言葉を聞いて、リエルが反応する。
「わ、私があなたを襲ったんですか!?どうしてそんなことを……あ、あの。ヒツギさん、教えてください。私は何をしてきたのですか?」
それは到底答えようのないものだ。
彼女とは出会ったばかりで、何も知らないのだから。
むしろ、これからリエルのことを理解していくつもりだった。
「リエル。君は……記憶を自分で取り戻していかなくてはならない。大丈夫だ、安全は俺が保証するから。だから、まずは落ち着こうな」
とはいえ、無理に思い出す必要性を感じないのも正直なところだ。
結果として再び敵対してしまうなら、忘れたままの方がいい記憶もあるだろう。
するとクランが一歩前へ出ては、何か言いたげなパフィーリアを左手で制しながら口を開く。
「――あなた様。そちらの方、リエルテンシアといいましたか。その少女の処遇に関してですが、わたくしに提案があります。失ったとされる記憶の有無、また南西部都市の宗派問題にわたくし達の答えを示すために」
聡明なクランは早くも状況を解決する方策を導き出したらしい。
しかし、提示された方法は彼女らしからぬ、強引で残酷なものだった。
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