第36話 社交ダンス

 豪勢な会場だった。


 大ホールに集められたドレスを着込んだ少女たち。


 流れてくる音楽はカルテットによる生の演奏。


 ビッフェ形式で並んだたくさんの料理。


「異世界みたいだ」


 率直な感想だった。


「まるでディズニーの世界ですね」


 蛍ちゃんもそう呟く。


「となると、蛍ちゃんはプリンセスだね」


「んもう、い、じゃなかった……パパぁ」


 照れ臭そうにする蛍ちゃん。


「でも本当に綺麗だよ」


 蛍ちゃんのドレスは、他の少女たちに比べても、非常に綺麗に見えた。


 外にいた時は、ブランケットで肌を隠していたが、今は違う。


 隠れていた肩が出て、さらに色気が醸す。


 少女の可憐さと、女性になりつつある美しさが混じり合う。


 ドレスはその魅力を極限まで高めていると感じた。


「んもう、パパったら……褒めすぎ……何だか変な気持ちです」


 さすがに気恥ずかしい様子だった。


 多少の談笑をした後、突然司会の人が、マイクで全員に伝えた。


「それではみなさま、これより、社交ダンスのお時間とさせていただきます」


 その言葉を聞いた少女たちはペアを組んで踊り出す。


 とても可愛らしく、微笑ましい様子だ。


「パパ、踊りましょ」


「え、全然踊り方分かんないよ」


「エスコートしてあげますので」


 蛍ちゃんは俺の手を取った。


「ね、パパ」


 俺はこくりと頷く。


「ゆっくり私の動きについてきてください」


 お互い手を取り合って、くるくる回る。


 足の動きに合わせて、何とか体を移動させる。


「いい調子です」


 徐々に慣れてきた。


「パパ、私よりうまいかもです」


 徐々に、踊りに慣れてくる。


 蛍ちゃんとの密着感を楽しめる余裕が出てきた。


「好きな人とこういうことするの、夢見てました」


「夢が叶ったかい」


「はい、夢が叶っちゃいました」


 俺と蛍ちゃんの踊りがだんだん大胆になる。


 周囲の人たちは俺たちのことを注目し始めた。


「あの子、誰だっけ」


「庶民の子よ。あんなに綺麗だなんて」


 踊りが終わる頃には、すっかり注目の的になるのだった。


「ふぅ、疲れちゃいました」


「明日は筋肉痛かな」


「ふふ、後でマッサージしてあげますね」


 そんな微笑ましい会話をするのだった。

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