第34話 母とのやり取り

 ドレス会——


 それは、いわゆる舞踏会だった。


 聖奇跡の女子生徒たちによる、文化祭最後の締めの行事である。


 豪勢な食事を楽しみ、ドレスを着て踊り、優雅な会話を楽しむ催し——とのことだ。


(美々杏ちゃんのご厚意で俺も蛍ちゃんも参加できることになったけど……)


 遠慮なく楽しみたいのは山々だ。


 が、楽しむだけが目的じゃない。


(蛍ちゃんとの新たな関係を作るために、やらなくちゃいけないことがある)


 俺は携帯電話を取り出し、蛍ちゃんのお母さん——智美さんにつないだ。


「はい、育滝さんですか」


「そうです。実はお願いがありまして、電話しました」


「お願いですか?」


「明日、蛍ちゃんとお泊りしたいのです」


「……詳しく説明してください」


 俺は説明した。


 明日のドレス会に参加することと——


 そして、美々杏ちゃんのご厚意で、聖奇跡学園の一室に泊めてもらえることになっていると伝えた。


「……」


「…………ごくり」


「……はぁ……実は蛍からも、同じ話を打ち明けられました」


「!」


「全くこんな歳で、馬鹿娘なんじゃないかと思いました。

 ……避妊だけはきっちりしてくださいね」


「い、いいんですか!?」


「心境としては、少なくともいい気はしません……

 ただ蛍にとって、いい相手を見極めてもらう勉強になるかと考えました。

 特別、見逃すだけですよ」


「ありがとうございます。必ず後悔させません」


「当然です。させたら絞め殺しますからね」


 心の限りお礼を述べた後、電話を切った。


 これで、もう憂いはない。


 俺はドレス会の準備を進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る