第33話 子供扱いしない

 文化祭が終わる。


「楽しかった」


 ぼんやりとつぶやく。


 彼女と二人きりで楽しんだ文化祭。


 とても心に残るほど楽しかった。


 俺は蛍ちゃんを見る。


「ぜえ……はぁ……」


「ひぃ……はひぃ……」


 蛍ちゃんは美々杏ちゃんと共に、息を切らしベンチで伏せっていた。


 美々杏ちゃんに全力で追いかけられ、結果的に、両者ダウンで決着がついた。


「……お茶でもどうかな」


 その辺で買ってきたお茶を一本ずつ渡す。


「ありがとう……ございます……」


「サンキュ……」


 二人とも汗をダラダラ流しながら、お茶を飲む。


「……よっし生き返った!」


 美々杏ちゃんは元気に立ちあがる。


「ひっ——」


 蛍ちゃんはもう逃げる体力なんてない。


「そんなに嫌がらなくていいだろ」


「——そ、そうですね。ハイ」


「なんだよ。彼氏でもいるのか?」


「そ、それは……」


 ちら、ちら、と俺の方を見る蛍ちゃん。


「は? そういうこと?」


 驚く表情を見せる美々杏ちゃん。


「まぁ、うん。

 俺と蛍ちゃんは恋人同士だよ」


「きゃー! マジかよ! このロリコンめ!」


 変にテンションが高い美々杏ちゃん。


「これが失恋なのか、畜生め!!」


 ごく、ごく、とお茶を飲み干す。


「ぷはぁ……そしてこれが失恋の味か!!」


 ハイテンションなのは、強がりなのだろう。


「んで、もうセックスしたの?」


 ——。


「じゃあ、おっぱい揉んだり、キスとかは?」


 いきなりのセクハラ発言である。


「ええと、それは……してないっていうか……」


「んだよ、してないのかよ! 付き合ったばっかりかよ!」


 正確には、おっぱいは揉んだことあるが、それはおいておく。


「……」


 蛍ちゃんは照れているのか、顔を真っ赤にさせたままうつむいている。


「いやいや、俺と蛍ちゃんは健全な付き合いをしてるから……」


「キスとかセックスするのも健全な付き合いだろ?」


「え——いやいや、女子中学生だから、大人じゃないっていうか——」


 俺は何を言い訳にしてるんだ——?


 しまったと感じた。


「——」


 蛍ちゃんの方をまたみる。


 ショックを受けてそうだった。


「はぁ……あのさぁ……」


 呆れたぜ、って言ってるような表情だった。


「本気の女の子、子供扱いするんじゃないよ」


「——!?」


 弱点を突かれ、驚く俺。


「蛍ちゃん——」


「キスしてなかったのって、まだわたしが子供だからですか……?」


 俺は、言葉を選ぶ。


 誠実な気持ちで伝えないと、もうこの恋愛は成り立たないからだ。


「……そうかもしれない」


「……そうですか」


「だけど」


 俺は決死の覚悟で伝えた。


「蛍ちゃんの心と体を守りたかったからだ。

 そして俺は今の君にとって、誠実な<恋愛対象>だって、皆に思って欲しかったんだ」


「育滝さん……」


「智美さんにも、春ちゃんにも、俺と君の仲を認めてくれた。

 だから——」


 俺は自分の望みを口にした。


「君が望むなら、俺はもう子供扱いしない」


「——」


 蛍ちゃんは答えない。


「ええと……その……」


 考える時間が必要そうだった。


「あーあのさぁ」


 横から美々杏ちゃんが割って入る。


「もう今日は終いさ。文化祭の片づけだよ

 だから——」


「……」


 美々杏ちゃんは友達を誘うかのように、言った。


「続きは明日。文化祭最終日の後日に行われる——ドレス会でやるのはどうだい?」

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