電車の中でJCをナンパしたら、毎日が電車デートになりました

第32話 恋する美々杏

　そんなこんなで、蛍ちゃんと文化祭デートを楽しんでいた。

「それじゃあ次は文化祭のライブにでも——」

「どこだぁあああ！！」

　突然、大きな声が響く。

「蛍はどこだぁああ！！　ウエイトレスから逃げるなぁああ卑怯者ぉおお！！」

　聞き覚えのある声。

「げ、美々杏さんがわたしを探しに来たんだ」

　嫌な顔をする蛍ちゃん。

「隠れなきゃ——」

「おい、お前！　蛍と一緒にいた奴じゃないか！」

　が、俺に気づく美々杏。

「あはは、どうも」

「蛍はどこにいった！　あいつがいないと店が回らないんだぞ……ん？」

　美々杏は蛍ちゃんの顔を凝視した。

　変装してるとはいえ、よく見れば本人だと気づかれてもおかしくはない。

「……そこのイケメン」

「へ、わたし？」

「……あたいと——と、友達にならないか？」

「——え」

　驚くことに、美々杏は顔を赤くして、そんなことを言った。

「いや、べつに、あんたのこと、かっこいいとか、そんなんじゃないから、ただ興味があるというか……

　蛍の親戚とかだろ？　顔立ちとか似てるし」

「はぁ、まぁそうですが」

「やっぱり……」

　なんだかうれしそうにする美々杏。

　それに比べ、蛍ちゃんは微妙そうな顔をする。

「ええと……」

「美々杏。変な名前だろ？　親父が西洋かぶれでさ……好きに呼んでくれよ。なぁ？」

「じゃあ、び、美々杏ちゃん」

「——」

　一瞬固まった後、俺を引っ張り、背中をバンバン叩く。

「おい、くそったれ！！！」

「痛いからやめい」

「破壊力ありすぎんだろ！！　なんで男のくせにあんなに可愛いんだよ！！」

　なんてことを俺に打ち明ける。

「あたいはどうすりゃいいんだ？」

「ええと……」

「こんな気持ちは……初めてだ」

　俺の美々杏のイメージ像がどんどん変わっていく。

　どうやら美々杏ちゃんは恋したようだ。

　男姿の蛍ちゃんに——

「……美々杏ちゃんは、どうしたいのかな？」

「結婚したい」

　想像の斜めを超えてきた。

　その言葉を聞いた蛍ちゃんは白目をむく。

「子供は４人欲しい。広々としたマイホームで暮らして、笑顔の絶えない家庭が作りてぇ」

「……」

「あ、な、名前！　あんた——……あなた様のお名前は何でございますでしょうか？」

　超丁寧語になる。

「ええと名前は……ほ……」

　蛍ちゃんは汗だらだらで、動揺していた。

「——わたしの名前は」

　が、目をつぶり、覚悟を決めた表情で打ち明けた。

「わたしは蛍です！　男じゃありません！　あなたが嫌いなただの庶民です！」

　帽子を取り、長い髪の毛を晒す。

「あ……あぁ……」

「美々杏さんを騙すつもりはありませんでした」

「……」

「でもごめんなさい、これ以上、あなたの気持ちを踏みにじれません」

「……」

　美々杏はショックで固まっていた。

「……」

「あの、美々杏さん……？」

「……でいい」

「え？」

「だったら、あたいは、レズでいい」

　ん？

「蛍、あたいのフィアンセになってくれ。これまでのことは全て水に流して」

「」

　絶句する蛍ちゃん。

「金は出す。いくらでも謝る。悪かった。

　だから、あたいの為に——結婚しろ

　フィアンセになれ」

　前まで、フリチン背泳ぎ大会とか言っていたのが、嘘のようだった。

　それぐらい本気の、眼だった。

「む……無茶言わないでくださぃいいいいい！！！」

「に、逃げないでくれーーー！！！　愛してるんだぁああああ！！！」

　そんなこんなで、蛍ちゃんは追いかけられ、文化祭が終わるまで逃げ続けるのだった。